【体験記】女子大生がクリスマスに、あえてひとりで過ごしてみた
酒井(チーム天狼院)
「どうせ。みはる、25日空いてるっしょ?」
「ひとりのやつらで飲むからさ、来ない?」
「寂しいじゃん。みんなで楽しもうよー」
と、まあ、ここ1週間ほど、わたしの周りはクリスマスに向けて必死であった。彼氏彼女がいる輩はいい。それ以外は、それはもうこの日の予定を埋めることに躍起になっていた。「あと1ヶ月で彼女できるかもじゃん」「なんかバイトするのは違うし」と予定は空けていたものの、結局何のお誘いも受けなかった結果、「当日の夜に実家には居づらい」「1人暮らしの部屋に帰るのもツラい」なーんて泣きわめいている男女が、幸か不幸かわたしの友人には多かった。
故に、クリぼっち同士で慰め合おうと
よりによってクリスマス当日に飲み会を企画しているらしい。
彼らが、わたしをクリぼっち飲み会の頭数にいれるのは当然のことだと思われた。だからだろう。「いや、行かなーい」とわたしが言った瞬間、その場の空気が凍った。
あ、特に予定があるとかじゃ……
と、わたしが変な言い訳をする間もなく
「え! なに、みはる彼氏できたの!?」
「聞いてないよ!!」
「誰? 俺ら知ってるひと?」
「うわー、やられた。仲間だと思ってたのにい」
と、騒ぎまくる彼ら。大学の学習スペースで大声を出したのは自分じゃないのに、職員からの刺すような視線はわたしに向けられていて、体中痛い思いをしてため息をついた。
「ちょっと、静かにして。違うから! 別に一緒に過ごす相手がいるとかじゃないから! 大丈夫だから!」
と何が大丈夫なのかわからないまま、似たようなことを2、3回言ってその場を落ち着かせることに成功。そうすると、少し冷静になったクリぼっち組は口を揃えて同じことを聞いてきた。
「え、じゃあ何で来ないの?」
そうなのだ。3年の付き合いになる彼らは、わたしにはいつまでたっても恋人ができないと思っているし(非常に失礼極まりないが)、いい感じになるひとにはいつもキープにされてしまうことも把握済である。そんな万年クリぼっちのわたしが、当日のぼっち回避飲み会に参加しないなんてことはないと、高を括っていたのだろう。加え、いつもはフットワークの軽いわたしである。物理的に不可能な場合を除き、この手の誘いは断ったことがないから、なおさら、わけがわからなかったと思う。初めから、参加メンバーとして数えられていたことにも十分納得できた。
なんで?
他の友達と遊ぶ予定があるとか?
もしかして、バイトいれちゃった?
あ、実家帰ってるんでしょ!
と、今度は理由探しに熱がはいってまた騒がしくなる。
うーん、どれも違うなあ。えー、意味わかんなーい。空いてるのに来ないってこと? みはるらしくないよ! 来ようよー、お願い!! いや、今回はほんとにやめとくよ。えー、まじで言ってんの? 寂しいー。
これの永遠ループである。しばらくして、さすがに疲れてきたのか、はたまた飽きたのか、諦めたのか、会話の内容は自然と全く違うものになり、その隙にわたしは彼らの傍を離れることにした。
自分でもよくわからなかった。毎年、クリスマスには必ず予定があった。いや、意地でもいれていたというのが正しいかもしれない。今思えば完全にキープ女の立ち位置だったくせに、気になる彼とのデートにドキドキしていた年もあるし、女同士でおいしいものに財布の紐を緩めたり、クッキングパーティーをしたり、弱いくせに酒をひたすら飲み続けていたりしたこともあった。恋人という存在と過ごすことができなさそうだと悟るとすぐ、予定が埋まりそうにない友人を探し、一緒に過ごす約束を取り付ける。彼らのようにわたしも必死だった。何の予定もないままクリスマスにひとりでいるなんて、ありえないと思っていた。
本来、クリぼっち飲み会なんていうものは最高の誘いのはずで断る理由なんてなかった。あー、今年も無事クリスマスの予定埋まったよかったと、ほっとしてもよかったのだ。だから、「行かない」と即答した自分に正直驚いた。あの後、何度もくる誘いを「行かないから」の一点張りで断り続けて今日を迎え、今部屋でひとりこの記事を書いている。
クリスマスの夜に楽しい飲み会の誘いを断ってまで、自分は何をするのだろうと不思議に思っていたが、案外すぐにやることは見つかった。どうせ断ったんだ。時間はたっぷりある。そして、今日はクリスマスだ。ちょっと、恋とか愛とか恋愛とか男とか女とか結婚とか、そういうの全部まるっと合わせたピンク色のことを考えてみたくなったのだ。
今はもう夜も遅い時間だから、クリスマスは終わろうとしている。かくしてわたしは、クリスマスにひとりで部屋に引きこもりながら黙々とパソコンをカタカタする寂しい女になったわけだが、気持ちは晴れているのだ。今、最高に清々しい。断ってよかったと心から思っている。
「彼氏がほしい」これは全フリー女の永遠の願望であり、そんな女だけ集まった女子会にもなると「なぜ自分たちには彼氏ができないのか」というテーマで軽く3時間は話せるし、お酒もすすむ。しかし、そもそもわたしたちはなぜ、「彼氏がほしい」のか。少しでも考えたことがあるだろうか。わたしには、超絶「彼氏がほしい」時期というものが今までの人生で3回ほどあった。1回目は、高校2年生のときで少女漫画を読み漁っていた時期だった。学校一モテる人気者が何故だか冴えない主人公に恋をする展開や、嘘の恋人を演じているうちにお互いに好きになってしまうなーんて展開に憧れていたし、自分にもそんなことが起きるだろうと本気で思っていた。ドアホである。周りにも彼氏がいる子が増え、わたしも! という気持ちになって文化祭でたまたま同じ色になった他クラスのサッカー部を好きになった。みんなには秘密で彼と廊下で話している自分や、彼のことを好きだと言っている自分が好きだった。完全に恋に恋していた黒歴史である。2回目は、大学入学で上京してきたときだった。田舎育ちのわたしは、東京のおしゃれな雰囲気に揉まれて気分が高揚した挙句、ここで彼氏ができたらなんて素敵なんだろうと夢を見ていた。サークルの1個上の先輩がすごく大人に見えて、彼の推しメンが自分だと噂で聞いて簡単に好きになった。なんか、サークルの先輩と付き合っている自分って都会っぽくていいなあ、と胸を躍らせた。見事に黒歴史更新である。結局、彼にはキープされていたに過ぎなくてひどく泣いた。3回目は、就活をしていたときだった。毎日神経を張って、すごく頑張って、それでもうまくいかないことは多くて、家に帰ってもひとりで、同じように頑張っている同期には言えないこともたくさんあった。とにかく、誰かに黙って話を聞いてほしかったし、慰めてほしかった。理由もなく毎日電話できる相手がほしかった。わたしにとってそれは、仲の良い友人や親ではなく彼氏という存在だった。当然、就活中に恋愛なんてしている余裕はなく、単なる願望に終わった。
こんな感じで、超絶「彼氏がほしい」と思う波がいくつかあったわけだが、ついこの間まで渦中にいた3回目の波も落ち着いて現在は「今はいいやー」と恋愛無気力期間に突入ていいる。元々、恋愛体質ではないし、ほっといても男が寄ってくるような見た目でもなく、女の子らしく振る舞うことすら苦手なわたしである。恋愛をするにはすさまじい体力と気力が必要なのだ。第1波は恋すること自体が目的だったから、あの手この手でアピールもしていたし、それを考える時間も楽しかった。厳しい校則の中で、いかにばれないようにして自分を着飾るかもすごく考えた。あー、今わたし青春真っ只中だなーとニヤニヤすることも少なくなかった。第2波のときも、先輩と付き合ったら~と妄想するのが楽しく仕方なかった。正直、サークル活動には興味がなかったけれど、先輩に会うために参加していた。第3波は、気力と体力の両方を就活に持っていかれ、彼氏はほしいけれど恋愛する気にはなれなかった。
こんな、あるのかないのか微妙な恋愛遍歴のわたしが、どうして「彼氏がほしい」のかと問われれば、たぶん、「楽しいから」と答える。誰かに好かれるために努力することや、ときには自分を偽ることが必要な恋愛は確かに面倒なことの方が多いのかもしれない。それでも、その面倒ごとを一瞬で超えるくらい恋愛は純粋に「楽しい」のだ。窮屈な教室で勉強だけするなんて、つまらない。サークルに行くだけなんて、つまらない。就活なんて、つまらない。そんな、つまらないだけの日常を変えるのが恋愛なのかなと思う。
そして、今わたしが恋愛無気力期間にはいっているのは、日常がすでに楽しいからなのかもしれないと思った。天狼院で働くのは楽しいし、卒論を書くのは大変だけれど好きな分野について探求するのは楽しい。友人とは今が最高に居心地のいい関係だと思うし、彼らと行く卒業旅行はわくわくしかしない。クリぼっち会にしつこく誘ってくれる仲間もいる。大学4年間で今が1番、楽で心地よくて、やりたいことができていて、不安要素がなくて、最高に楽しい。もしかしたら、死ぬとき振り返っても今が1番だったと思うかもしれない。それくらい、大学4年のこの時期は楽しいのだ。
だからこそ、わたしはクリぼっち飲み会の誘いを断ることにしたんだなと気がついた。行ってしまえば今が楽しすぎて、恋愛なんて本当にしなくていいやーと思ってしまいそうだから。いや、そもそも恋愛なんてする必要はないのかもしれない。今楽しいのなら、傷つくこともあるだろう恋愛なんて戦地に足を踏み入れることないのかもしれない。
でも、わたしだって22年間、女の端くれとして生きてきた。特定の男性に愛されたいと思うし、誰かの特別になりたいとも思う。一方で、複数のひとから言い寄られたいし、その中からひとりを選ぶという苦渋の決断もしてみたい。
なら、今が楽しいから恋愛なんていいやーなんて甘ったれたことを言っている暇はない。とにかく恋愛がしたかったあの頃、誰かに好かれるために必死だったとき、自分の辛さや嬉しさを共有したかったことを思い出して、頑張ってみようかなと思う。
クリぼっち飲み会を断って、何も予定がないクリスマスを初めて過ごしてみて、わかった。
超つまんない。
つまんないことは、恋を始めるエネルギーになる。
そんなことを考えて、ちょっとだけ恋に前向きになった大学生活最後のクリスマス。
来年こそは、クリぼっちの頭数にはいらないように頑張るぞー!
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