男友達は透明人間のようなものだよ
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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記事:吉岡莉奈(チーム天狼院)
時刻は24時7分。
はあ。そろそろ言わないと。
今日、終電を逃すわけにはいかない。
「ジンライムで」
「あ! お兄さん、ビールお願いします!」
「ナッツも頼もう〜」
なんて声が飛び交うバー。いや、パブと言うべきか。
夜も深まり、酔いの回った客達。
聞き飽きた流行りの洋楽が大音量で流れている。
ガヤガヤと騒がしい店内。タバコの煙が充満していて、少し息苦しい。
ああ、しまった。カウンターに座ればよかった。
横並びだったら、顔を見ずに済んだのに。
「……ごめん。やっぱり、付き合えない」
心なしか声が震えた。息苦しいのはタバコの煙だけが原因ではないらしい。
「そっか。ダメか。……ダメかあ」
そう何度も呟く、私と向かい合わせに座る男の子は、大学で所属する軽音サークルの同期だ。
いわゆる、男友達。
……友達だと、思っていた。
彼とはよくバンドを組んでおり、同期の中でもよく遊ぶ仲だった。
「音楽の趣味、似てるね」と、一つ共通点を見つけてからは話す機会が増え、二人でご飯に行く回数も増えた。
そして気が付けば、悩みを相談できる数少ない友達の一人になっていた。
〝女友達〟〝男友達〟
わざわざ性で分類するのが煩わしいくらい、彼は間違いなく私の友達であった。
女子校出身の私は、大学生になるまで男の子と頻繁に交流する機会が無かった。
だから、よく小説や漫画に出てくる男友達という生き物は存在しないと思っていた。
どうぜ付き合う前の段階の男の子のことを男友達と呼ぶのだろうなと考えていた。
だから、彼と出会って驚いた。
馬鹿なことを言い合って大笑いできる。悩みを話せば的確なアドバイスをくれる。練習をサボっている時はきちんと叱ってくれる。
心から彼は友達だと、親友だと、そう思えた。
周りから「本当にあんたら仲良いね」と言われるのが嬉しかった。
ずっとこのままでいたい。この関係を守りたい。
「俺、ずっと隠してたけど、お前のこと好きだわ」
だから、サークルの飲み会後に酔った彼からそう告げられた時は、本当に冗談かと思った。
「冗談だよ」と言って欲しかった。
「え、急にどうしたの。もしかして罰ゲーム?」
「いや、本気。言わないでおこうと思ってたけど……。ごめん、隠しておくのしんどくなった」
まじか。どうしよう。
正直、そんな風に男として見たことなんてない。
嘘だ。え、だって、いつから?
今まであんなに仲良くしていたのも、全部、そういうことだったの?
どうして言うの。馬鹿。もう今までみたいに接せなくなるじゃない。
あ……私、今断ったら、もう彼とこうやって話せなくなるの?
「……ありがとう。いきなりですごく驚いたから、少し、考えさせてほしい」
そう言ってなんとか場をやり過ごした日から、早1ヶ月。
そろそろタイムリミットだ。
ずっと、どうすべきか考えてきた。
大学生になって出来た、何でも話せる大事な友達。
こんなに気が合うのだから、もしかしたら好きになれるかもしれない。
そうだ。それが一番良い。
私が好きになれば良い。
そう思い、二人でご飯を食べて、学校の授業を一緒に受けて、たまに映画を見に行ったりして、今までのように彼とたくさん過ごした。
だけど、どうしても好きになれなかった。
やっぱり友達としか思えなかった。
そして、そんな彼のことを「傷付けたくない」という思いから、今日この日まで今までと同じように接してしまっていた。
思わせぶりな態度だと言われても仕方がない。
「やっぱり、付き合えない」
そう伝えた後、彼の顔を見て「しまった」と思った。
泣きそうな、顔。
そんな顔、見たくなかった。
ああ。そうか。
私が、傷付けた。
何が、傷付けたくない?
いや傷付けてるじゃん。めちゃくちゃに。
「傷付けたくない」なんて本当に思っていたのだろうか。
きっと、自分が傷つきたくなかったんだ。
男友達という心地の良い関係を失うのが、怖かっただけだ。
「じゃあ私、そろそろ終電だから帰るね。今日は時間取ってくれてありがとう」
「うん。俺は、もうちょっと飲んでから帰るわ。ありがとうね」
「分かった。またね」
終電まであと10分。
電車を待つ人達で、駅のホームは騒がしい。
笑いながら歩く大学生の男女が目に止まる。
ああ、本当に失ってしまった。
「またね」なんて言ってみたけれど、きっともう話せないな。
もし、あの日飲み会に行っていなかったら。
もし、私が男だったら。彼が、女だったら。
そんな馬鹿な考えが何度も頭をよぎる。
男友達って、一体何なのだろう。
いるようで、いない。とてもあやふやな存在。
まるで透明人間みたいだ。
相手のことをもっと知りたい、もっと仲良くなりたいと思った時、
それは最終的には、付き合うことでしか許されないのだろうか。
友達という形ではいられないものなのだろうか。
今はまだ、分からない。
分からないけれど。
いつか「あんなこともあったね」と言って、笑い合えたら良いな。
そんな日が来ると、良いな。
そう思いながら、終電に乗り込んだ。
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