それって、本当にやりたいこと?
記事:田岡尚子(チーム天狼院)
それに気づいたのは、天狼院書店の社長である三浦さんとの会話だった。
「わたし、ずっと彼氏いないんですよね~」
「えーーー?! もったいない! なんで?」
「えーなんでだろう、まぁ、欲しいとは思ってるんですけどね……」
「なんで?」
「えっ……だって、みんな彼氏いるし、いないとやばいかなって」
それに対する三浦さんの返事は、全く意外なものだった。
「それ、本当に欲しいと思ってないでしょ」
「えっいや、本当に欲しいと思ってますよー! もう大学生活終わっちゃうし、そろそろやばいなって……」
「ほら、それ、本当に欲しいと思ってないよ! 周りの目を気にしているだけじゃん! 英語喋れた方がかっこいいから、英語学びたい~って言いながら学ばないのと、同じだよ!」
えっそんなんじゃ!
……いや、そうだ。わたし、本当に欲しいと思ってないんだ。
周りに恋人がいる人が増えて、やばいな、と焦っているだけで、特に何もしていないし。
恋人がいないからやばいやつだと思われたくないだけで。
いや、でも、やっぱり欲しいよ!
お店に入ってもカップルだらけだとなんか恥ずかしくて、場違いなところに来てしまった……と思ったり。
女子会で「彼氏いないの?」って聞かれたときに、「実は……」とか言いたいし!
細い道で前からカップルが歩いてくると、あぁ空気になりたい! と思いながらよけてるし。
あー、こんなときに私の隣にも彼氏がいたら……
って、三浦さんの言う通りじゃん!
カップルだらけのところに1人で行って、「うわ、あの子1人で来てる」とか「1人でかわいそう」って思われたくなくて。
そうか、案外私の彼氏が欲しい理由って周りの人にどう思われるかが最優先で、一番に求めていたのはただの存在だったんだ。
わたし、こんなこと気にしてたんだ。なんだ、アホらしい。
たったあのひとことで、今まで重りを引いて歩いていたのに、その糸をぷつんと切られたみたいに、心が軽くなった。
でも、これだけじゃない気がする。
英語を喋れた方がかっこいいから、わたしも喋れるようになりたい! なんて思って、喋れない自分に対して劣等感を抱いたり。
大人数で行くカラオケで、特に好きじゃないけど盛り上がる曲を歌えるように練習したり。
みんながやっていて、ついていけなくなるから、という理由で様々なSNSを始めたり。
よく野球部の人たちが筋トレでタイヤを引きずって走るのを、大変そうだなーと思って見てたけど、
今のわたしって、まさにこの状態なのかも。
周りに対して劣等感や不安を抱くたびに重りが増えて、足取りが重くなっている。
だけど、それでも走らなきゃ! と必死になっている。
今までの人生を見直してみると、周りのことを気にしていたがために、次へ次へと自分で重りを増やしていることに気づいた。
例えば、わたしの場合受験だってそう。
当時はそんな風に思っていなかったけど、今思えば毎日重りを引いて学校に通っていた。
あの子に負けたくない、みんなから頭良いって思われたい。
こんなのも解けるんだ、すごいね、さすがだね! って言われたい。
100点のテストを持って帰って、えらいねって頭を撫でられたい。
そうやって、周りから認められたい、という気持ちが重りとして私にプレッシャーをかけていたのかもしれない。そのためにも、まるで学校名が自分のアイコンにでもなるかのような危機感を持って勉強をしていた。わたしにとって勉強というのは、認められたい、という欲望を叶えるための手段でもあったんだと気づいた。
こんな風に、ただ周りからの目を気にするばかりに、本当はそんなに気にしなくていいことに頭を悩ませていることもあるんじゃないかと思う。そしてわたし以外にも、重りを引きながら歩いていることに気づいていない人がいるのかもしれない。
恋人がいないからって焦らなくても。
英語が喋れないからって焦らなくても。
この音楽が流行っているから聴いておかなきゃ、とか、この映画が流行っているから観ておかなきゃ、とか。
そんなときに、本当に聴きたい、観たいって思っているのかを自分に問いかければ、
たくさんの「やらなきゃ」という重りを引いていることに気づく。
そして、「今は必要じゃないな」と自分で重りの糸を切ることができるかもしれない。
1人だと入りづらかったけど、入ってみたらとても素敵なものに出会えて、
「こんなことなら、早く入っておけば良かったなー!」と思うような。
「あぁ、こんなこと気にしてたなんて……」と思えたら、それは重りが消えたサインなのかも。
みなさんはいま、余計な重りを引いて歩いていませんか?
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