ごめんなさい、が言えなくて
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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記事:田岡尚子(チーム天狼院)
「ごめんなさいは?」
「……ふんっ!」
と言って、自分の部屋へ逃げる。小さいころからこうだった。悪いことをして、叱られて。でも、ごめんなさい、が言えない。
悪いのはわかっていても、どうしても言えなかった。すみません、も言えなかった。負けを認める感じがして、いつも逃げていた。
「あのしょうこちゃんが、謝るなんて」
それを言われたのは、大学4年生、21歳にもなった今。そして今、この歳にもなってお父さんとケンカをしている。原因は、ただただ私が悪い。約束を守らなかったのだ。しかも今回は、お父さんガチギレ。私が実家を出て一人暮らしをしているので、全てLINE上でのやりとりだった。
これはわたしが謝らなきゃいけない。LINEを開き、文字を打とうとする。指を動かせばいいだけ、なんて簡単なんだ……。あれ、簡単なはずなのに、ごめんなさいって打てばいいだけなのに、21歳になっても、やっぱり打てなかった。がんばって打てたのは、「約束守れなくて、すみませんでした」だった。
やっぱり言えない、友達には言えるのに、家族には言えない。ごめんなさいの6文字というハードルが、どうしても高かった。でも、お母さんからしたら、わたしが「すみませんでした」と素直に言っているのが珍しかったようで、「あのしょうこちゃんが、謝るなんて」と、言ってきたのだった。そして、「その謝れない性格、お母さんに似たんじゃね」と。
「え? お母さんまで?! なにそれ、知らんかった!」
わたしがケンカしたことで、なんとお母さんまでお父さんとケンカをしていた。そこで、お母さんも悪いことをしてしまったのに、お父さんに謝れないでいるという。
「もう、イライラしてね、昨日もずっと謝れんかったわ」
わかる、お母さんそれ、よくわかるよ。
「でも、しょうこちゃんも謝っとったし、お母さんもさすがにやばいと思って、今朝しぶしぶ謝ったよ。「すみませんでした」って。しょうこちゃんのその性格、お母さんに似たんじゃね(笑)」
えっ、いまさらーー?! わたしこの性格で苦労してきたけど、これ、お母さんからもらってたんだ。そしてお互い、ごめんなさいが言えなくて、すみません、に助けてもらっている。子は親に似る。まさにそれだった。むしろ、お父さんとは「似た者同士」すぎて、よくケンカした。
家にいるとき、お父さんはまさに亭主関白な感じであるのにも関わらず、わたしは女王様みたいな態度をとっていた。なので、ぶつかると、お互い引こうともしないので、ぶつかったら終わり。「また始まった……」と母と兄は逃げる。「お父さんなんて嫌い。むかつく!」を、21歳になった今でも言うほど、よくケンカをする仲だ。そしてこの女王様気質なのも、お父さんに似たんだ。「お父さんに、似たくなかった」って、中学生ぐらいのころから、よく言っていた。
でも、それは違った。それに気づいたのは、ずっと欲しくて念願だった一眼レフを手に、写真を撮っているときだった。カメラ好きの人が必ず行きつく、「もっとレンズ欲しい」という衝動に、ついにわたしもかられるようになったときのことだった。
そういえばお父さん、よく「レンズ欲しい」って言ってたな。思い返せば、お父さんはいつも重いカメラ道具一式を持ってでかけていた。それに対してわたしは、「いくつレンズ持ってるの?」とか、「また買ったの?!」とか言っていた。そして、今ではわたしもそう言われる側になるかもしれないということに気づいた。
「わたし、お父さんにそっくりじゃん」
しかも、それだけじゃない。大学でデザインを専攻しているのも、もとはものづくりが大好きなお父さんからもらった性格のため。服をつくったり、棚をつくったり、細かい作業をしていると必ず「お父さんに似とるね~」と言われた。
他にも、小さいころは、お父さんの運転する姿に憧れて、よくマネをしていた。お父さんの愛車であるオデッセイは、わたしがいちばん好きな車になった。オデッセイで、お父さんのように運転したいと思って、急いで免許をとった。「その歳で運転したいとかいう子、珍しいよね」とよく言われるけど、それは、お父さんもドライブが好きだからだ。
「お父さんに、似たくなかった」
なんてバカなことを言っていたんだろう。わたしのやりたいこと、全部お父さん譲りじゃん。
お店で一眼レフを手にして構えたとき、店員さんに「おっ、すごい。ちゃんと持ててるね。今の若い子は、スマホみたいにカメラ持っちゃうんですよ~」と言われたのを、今でもすごく覚えている。きっとわたしがちゃんと持つことができたのは、お父さんがカメラを持って構えている姿を、よく見てきたから。
「お父さんに、似てよかった」
21歳のわたしは、素直にそう言える。
ちゃんと謝ろう。ごめんなさいって言おう。そして、今度地元に帰ったときは、こう言おう。
「お父さんが持ってるレンズ、わたしにも見せて!」
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