ちっちゃな長方形がなきゃ何もはじまらない?
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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記事:鈴木 佑香(チーム天狼院)
今何時だろう。
腕時計を無くしてから買うタイミングが無くて今に至る。スマホの電源を付けてロック画面で時間を確認する。
19時40分。
それと同時に何件かLINEとFacebookの通知がぽんぽんぽんと流れてきた。確認しなきゃなぁと思いながら駅の改札を通り抜けると電車の到着アナウンスが聞きこえてきた。慌てて電車の乗り換えを、スマホのアプリで検索する。各駅の次に到着する特急に乗るのが一番早い。“50分発で3番ホーム”と頭に入れて歩く。3分しか変わらないけれど、されど3分だ。画面上の数字が少ないほうがまだ重たい足が動く。
電車に乗り込んで、座席に座りさっきの通知を確認しようとしたら充電が切れた。
真っ暗になってしまったスマホの画面を見ているとなんだか吸い込まれそうになる。わたしもぷつんと充電が切れたように何もやる気が起きなくなってしまった。
スマートフォンが普及し始めたころわたしはまだ中学生だった。初めの内はほとんどがまだ二つ折りの携帯、いわゆるガラケーだったけど、卒業するころにはあっという間にスマートフォン勢が過半数を占めるようになった。高校生になるとガラケーを持っている子のほうが目立つほどになって、わたしもとうとうスマートフォンに買い替えた。
もう今では、あの二つ折りの携帯でぱちぱちボタンを押してメールを打っていたのが信じられないくらい。
スマホを使うようになってから約5年。ん? 5年しか経ってない?! びっくり仰天。もう何十年も使っているような気がするのはなんでだろう。現にスマホの充電が切れて自分もやる気が切れちゃったみたいに、スマホはわたしの身体の一部なんじゃないかと思うくらいだ。朝起きて最初にすることはスマホの目覚ましを消すことだし、1日の終わりにすることもスマホの目覚ましをセットすることだ。うわぁ、なんだか本当にスマホと共に生きてるって感じがする。
嫌だなぁ。ある意味スマホ依存症じゃんか、わたし。スマホが無いと生きていけないんじゃないか?
なんて考えた翌日にスマホが壊れた。さて、スマホが無いとわたしは生きていけないのだろうか? そんなこと無いに決まってるじゃん。なんて内心思ってた。壊れてしまったスマホを直すため、地元から40分のところにある修理屋に向かったのだけれど、スマホが無いわたしは1時間以上もかかって目的地の駅にやっとのことで着いた。スマホが無いと、電車にも乗れないし時間も分からない。普段何気なく調べているけれど、こんなにもむずかしいことだったなんて……。
やっとのことで駅について、さあ修理屋さんに向かおうと歩き始めたけれど、一向に修理屋さんが見当たらない。初めての場所で何度も何度も同じ道を行ったり来たりする。こんな時もスマホがあったら地図アプリですぐ辿り着けるのに……。
だんだん日も沈んできた。スマホを忙しそうに操作しながらたくさんの人が横切っていく。
知らない町で一人ぼっちだ。わたしスマホがないと何にもできない。わたしって空っぽなんじゃないか。なんて考えたら涙が出てきた。もう20歳にもなるのに、道の真ん中で迷子になった子供みたいにめそめそした。
だって、電話をかけようにもお母さんの携帯の電話番号すら分からない。
じゃあ、お父さんのは? 弟のは? 親戚のおばちゃんは? 仲のいいあの子は? バイト仲間のあの子だっているじゃん、大学のあの子やこの子は?? ほら、たくさんいるのに分かんないの?? 電源が付かなくなったスマートフォンがわたしに攻めよってくる。
分かんないよ……。だっていつもLINEでやりとりするから……。
自分の大切な人のことでさえこのちっちゃな長方形が壊れちゃったら連絡も取れないんだ。なんて呆気ないんだろう。繋がってたようでぜんっぜん繋がってなんかなかったんだ。
めそめそしながらダメもとで公衆電話から家に電話をかけたらお母さんが出てくれた。
「そんなことでなんで泣いてんの」ってお母さんは笑いながら言って、地図と帰りの電車を口頭で教えてくれた。スマホはピッカピカになって直った。たったの30分。
電源を付けたらたくさんの通知が来ると思っていたらたったの3つしかなかった。それも3つともメルマガだったし。
なんだかんだスマホが無かった時の方が繋がってたんじゃないかと思う。メールだとお金がかかるから、夜な夜な色ペンで手紙をデコレーションしたり、写真だって現像したのを配ったり……。手間はものすごくかかったけど、全部思い出として覚えている。
直ったスマホでLINEを開こうとしてやめた。
手紙を書こう、昔みたいに。
たくさんたくさん面倒なことをしよう。
だって手間がかかってるから、忘れたりしないもんねー!
スマホがバイブレーションで振動してくすっと笑ったような気がした。
≪終わり≫
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