天狼院書店は、日本一話しかける書店です。アパレル店員並みの接客を4年間つづけた女子書店員の備忘録。《川代ノート》
記事:川代紗生(天狼院スタッフ)
「なんだこいつ」
お客様、お顔にそう書いてあります。ええ、びっくりされたんでしょうね、わかります、無理もありません。ふらりとなんとなく立ち寄ってみた池袋の小さな本屋さん。なんか面白い本ないかな、散歩がてら本でもちょっと買ってみようかな──。そんなふうに思ってお店に入ってくださったんでしょう。そこでいきなり「その本面白いですよね! 私めっちゃ大好きで!」なんて話しかけられたらまあびっくりしますよね。そんなアパレル店員並みにグイグイ話しかけてくる書店員なんて聞いたことないでしょうから、「なんだこいつ」顔になってしまうのもよくわかります、大丈夫です、ご安心ください、怪しいものではございません。
「……あ、この本、前から気になってたんですよね」
驚いた顔をしつつも、本を手に取った彼は、小さな声でそう言った。
私はにっこりと笑って、お客様にあらためて声をかける。
「今日、ご来店ははじめてですか?」
それが、天狼院書店で働く私の、日常だった。
天狼院書店には、スタッフ間で共有されているルールがある。
「ご来店されたすべてのお客様に、ご案内をすること」
さながらアパレルショップのような接客指針だけれど、本当なのだ。天狼院書店は、「日本一話しかける書店」なのである。
こういう話をすると、入社したばかりのアルバイトスタッフや、私の周りの友人たちは「なんで本屋なのに話しかけるのよ、本屋で話しかけてどうすんのよ」的な反応をするけれど、私にとってはこれが当たり前。
「だって、天狼院って、そういう本屋だから」
あまりに当たり前のことすぎて、うまく言語化できていなかったのだけれど、2020年は新店舗のオープン(湘南、渋谷など)を控えているということもあって、この機会に言語化しておくことにした。
天狼院書店は、なぜ、「話しかける書店」なのか?
そもそも、私自身も、お客さんとして来たときに話しかけられたことがきっかけでスタッフになったクチだった。
天狼院がオープンしてからたしか4ヶ月後だったか、5ヶ月後だったか、思い出せないけれど、まあとにかく、私ははじめて、その池袋の小さな書店を訪れた。
「天狼院」なんてちょっと中二病っぽいというか、怪しいというか、もしかしてなんかの宗教なんじゃないのとちょっとビビりながらその店の扉をくぐると、そこは異世界だった。
熱気。
物理的な熱気ではなくて、何か、人の熱気みたいなものが、ブワッと立ち込めているような場所。
それが最初の印象だった。
私が訪れたその日、天狼院ではイベントをやっていて、ゲストと参加者のみなさんが自己紹介をしているところだった。
面白い人ばっかり。
それがすごくワクワクした。
みんな自分のなかに「何かやってみたい!」「新しいことに挑戦したい!」という熱を持っていて、その熱たちが化学反応を起こしてこの空間に充満しているような感じがして、みんなの話を聞いているだけで、なんだか楽しくなった。
そのイベント後、熱気に包まれたまま本を見て帰ろうかなと思っていると、スキンヘッドのいかついおっちゃんに話しかけられた。
「実は私、就活生で、出版業界に入りたくて。業界研究しようと思ってたら、ここを見つけて」
と私が言ったら、彼は目をキラキラさせて、
「なんだ、それならうちでインターンすればいいじゃん!」
それが、天狼院書店の店主・三浦だった。
まさか本屋でそんなことを言われるとは思わなくて、そもそも本屋なのにこんなにグイグイ話しかけられるとも思っていなくて、でもそれが不思議と居心地よくて、そして、
「やります! やりたいです!」
気がついたら、そう返事をしていた。
それから約6年が経って、私は27歳になった。
今では天狼院で働く傍ら、ライターとしても仕事をするようになった。
池袋に1店舗しかなかった天狼院は、全国に6店舗まで成長した。
この6年間、色々なことがあった。
でも、27年間の人生のなかで、ターニングポイントを一つだけ選ぶとしたら、私は間違いなく、天狼院の扉を開けた、あの日だと言うと思う。
本当に色々なことが変わった。
店の店長をやった。
東京と福岡の2拠点生活をした。
30分のテレビ番組で特集された。
人前に立つのが大の苦手だったのに、講師をやるようになった。
ライターとして仕事を始めた。
それから、何より、
やりたいことが見つかった。
ありたい自分が見つかった。
それまで私は、何もやりたいことがない無気力な人間だった。
自分の目標になるようなものも見つからなくて、友達とダラダラ飲んでいても楽しくなくて、「これくらいでいいか」と妥協して就活をして。
でも、「このままでいいのかな」という漠然とした不安だけはそこにあった。
そんなときに天狼院で声をかけられて、とにかく手当たり次第になんでもやってみた。挑戦させてもらえるだけ挑戦した。気が進むことも気が進まないこともなんでもやった。
そうやって闇雲に動いても無駄だとか、自分の軸を決めろとか、周りからそんなことを言われたことも度々あったけれど、でも、闇雲に動いたからこそ見つかったものもたくさんあった。
得意だと思っていた分野で私より突出している人を何人も見て落ち込んだこともあったし、逆に、苦手だと思っていたことでもやってみたらしっくりハマった、なんてこともあった。
やってみなければ、わからない。
そう、わからないのだ。
天狼院書店には、「人生を変える」というキーワードがたくさん出てくる。
「私の人生を変えた本」としておすすめの本を棚へ展示することもあるし、
受講生が一番多い天狼院のライティング・ゼミには「人生を変えるライティング教室」というサブタイトルがついている。
「人生を変える書店」をテーマに発信することもある。
ときどき、「人生を変える」というワードを使っていると、こんなふうに揶揄されることがある。
「そんな簡単に人生なんて変わんないでしょ」
「『人生変わる』なんてさ、ちょっと胡散臭いよねー」
まあ、その気持ちもよくわかる。
そんな簡単に人生なんて変わらない。変わってたまるか。
たしかにそうだ。
でも、ただ、私がずっとここで働いていて、思うのは。
本屋は、本屋くらいは、「もしかしたら、人生変わるかも」という期待を持っていける場所であってほしいと、あり続けてほしいと、そう思うのだ。
私にとって、「本屋」というのは、人生の試着ができるような場所だ。
本のなかには、人の人生が詰まっている。
ビジネス書なら、こんな仕事をしてきたよ、こんなビジネスを起こしてきたよ、こんなことに気をつけたら仕事できるようになったよ──。その人が人生で情熱をかけてきたもののなかからエッセンスを抽出して、再現性の高い方法を考えて濃縮したもの。それが本なのだ。
レシピ本だって、小説だって、エッセイだって、健康書だって同じだ。
本を読むと、書き手がどんな人生を送ってきたのか想像できる。自分と同じような苦しみを持っている人が、どんなふうに課題解決をしてきたのかがわかってくることもある。
私は本屋が好きだ。
チェーンの本屋も小さい街の本屋も好きだ。
本も好きだけど、子どもの頃から私は「本屋」という空間が病的に好きで、本屋に行っただけでなんだか元気が出てくるくらいだった。
それはなんでだろうとずっと考えていたのだが、ようやくその答えが見つかった。
人生の試着ができるからなのだ。
この本に書いてあるようなことをやったら、どんな人生が待ってるかな?
そんなふうに想像するのが楽しいのだ。本屋に行っただけで、自分の人生の選択肢が無数にあるような気がして、たまらなくワクワクする。
だからこそ私は、天狼院書店に来てくれる人には、思う存分試着をしてほしいと思う。
「なんとなくこんな感じに行きたいっていうのは決まってるんだけど、具体的にはまだわからないんだよな……」そうやって悩んでいる人でも、スタッフや、他のお客様はこんな道を選択してましたよ、というケースを知ることができれば、何かヒントが得られるかもしれない。
別に大々的にガラッと、人の人生を変えたいなんて思っちゃいない。影響を与えたいなんて思っちゃいない。
自分が変わるきっかけなんて些細な出来事の積み重ねであって、そんな本屋に行ったくらいで人生変わってたまるかという意見もたしかにわかる。
でもだからといって、人の人生が変わる可能性を潰していい権利も別にないだろうと、私は思うのだ。
せっかくたくさんの本があるのに、情報があるのに、その人にぴったりハマりそうなものがここにあるのに、「まあ別にこの人の人生変えたいとか思わないしな……」とか自己完結して、何も言わずにいるのももったいないと思うのだ。
私自身、ここに来ていろいろなことが変わった。
そのきっかけは、間違いなくあの日声をかけてもらったことだった。
「これってどう? あなたに似合うかも!」と、試着のチャンスを与えてもらったことだった。
今ではフリーでライターの仕事もしているけれど、昨年までは約4年のあいだ、色々な人に話しかけてきた。大好きな本をおすすめし、その人に合いそうな部活やゼミに誘った。
長くそんなことをやっていると、お客様にこう言われることがある。
「あのとき、川代さんに話しかけてもらって本当によかった」
ありがとう、なんて、別に私はできる提案をしただけだと思うのだけれど、やっぱり嬉しくなってしまう。
「日本一話しかける書店」
私は、そんな本屋があってもいいと思っている。そんな書店員がいてもいいと思っている。
なぜなら人は人生が変わるきっかけを、理由を心のどこかで求めているものだと思うからだ。
何かを変えたい。
変わりたい。
そう思ったとき、やっぱり誰かに背中を押してもらうとか、踏ん切りがつかないと、なかなか行動にうつせなかったりする。
「あの本屋に行って、話しかけてもらったから変われた」
そうやって言葉にすると、なんだか本当に頑張れるような気がしてくる。昨日よりも今日がキラキラして見えてくる。
何か変わるきっかけがほしいなら、その言い訳として天狼院を利用してもらえたら。
だから、これから天狼院書店にいらっしゃる方には、お伝えしておきたいことがある。
もし、書店員から話しかけられても、びっくりしないでください。
怪しいものではありません。お客様が何を求めて来られているのか知りたくて、お客様に合うものを提案したくて、声をかけているだけです。
あなたが今ちらっと見ていたその小説、本当にめちゃくちゃ死ぬほど面白いんですよ!!! もし迷ってるならマジで!!! マジで読んでみた方がいいです!!! 本当超おすすめです!!!
平静を装い、すんとした顔をしながらも声をかけている彼は、そんな熱い思いを抱いているかもしれません(というかその可能性の方が高い)。
なのでぜひ、もしよかったら。お時間があったら。
あなたが何を求めてここにいらしたのか、ちょっと教えていただけたら、とても嬉しいです。
スタッフとしてできる精一杯のご提案を、させていただきます。
みなさまのご来店、スタッフ一同、心よりお待ちしております!
天狼院書店では、新店舗拡大にともない、全国で働くスタッフを募集しております。
ご興味のある方は、下記の要項をよく読み、ご応募ください。
□募集要項
募集職級:正社員候補/契約社員/2022年4月入社新卒正社員候補/中途入社/アルバイト
業務内容:
①店舗オペレーション・スタッフ
②編集本部候補スタッフ
③経理・総務スタッフ
その他、天狼院書店および運営会社が関わるすべての業務
*編集本部候補スタッフは、基本的には店舗オペレーション・スタッフの中から職能および適正がある方を選抜するが、すでに経験がある中途入社の場合はこの限りではない。
応募資格:
・正社員候補/2022年4月入社新卒正社員候補は、4年制大学卒(見込みも含む)以上が望ましい
・業務に支障がないレベルでパソコン等を扱える方
勤務時間:配属部署の規定による
*店舗オペレーション・スタッフは営業時間に応じたシフトによる契約シフト制
待遇:当社規定(グレード制/職級制度)による
*基本給+インセンティブ給(インセンティブ給与は年に2回のボーナスの際に支給)+諸手当
*正社員・契約社員社保完備
*交通費は1回往復500円まで月に20,000円まで支給
*交通機関を使わずに10分以内の距離に住めば、住宅手当支給(正社員・契約社員のみ)
*各職級、昇給あり
*アルバイトは8週間毎に昇給の可能性あり(*昇時給上限:基本時給+250円)
*読書手当あり
試用期間:
①正社員になることを前提に契約社員として新たに採用した者については、採用した日から6か月間(契約期間)を実質的な試用期間とする。
②アルバイトの試用期間は3ヶ月とする。
*試用期間は設けない場合がある。
勤務地:全国の天狼院書店および編集を担う者は任意の場
〔店舗オペレーション・スタッフ募集店舗〕
天狼院書店「東京天狼院」(池袋)
天狼院書店「STYLE for Biz」(Esola店/池袋)
シアターカフェ天狼院(WACCA店/池袋)
天狼院書店プレイアトレ土浦店(茨城県土浦市)
天狼院書店「福岡天狼院」(福岡)
天狼院書店「京都天狼院」(京都)
*東京池袋は基本的に全店舗兼務
*正社員は転勤あり
*新店舗立ち上げの担当をしていただく場合もございます
特記事項:
面接時および契約時に申告した雇用契約の条件に反する場合は、直ちに試用期間を打ち切り、解雇するものとする。
(例:土日出勤できるとの履歴書への記載、面接時および契約時の申告があったにも関わらず、守られなかった場合)
*店舗オペレーション・スタッフの場合、固定シフトの空きを埋められるかどうかが、採用の大きな判断基準になります。勤務可能な時間帯は、正直に申告してください。または、勤務できない可能性がある曜日、時間帯は勤務できる時間帯として申告しないでください。
*面接を合格し、契約に進んだとしても、契約時と面接時の申告に相違がある場合は、契約を見送ります。
□応募の流れ〔エントリー方式〕
1.「お問い合わせフォーム」にアクセス
・必要事項の記入
・題名:スタッフ募集への応募
・本文:簡単な履歴と希望職級(例:正社員候補/アルバイト)、希望勤務地
上記、記入の上、送信してください。
*数日以内に、担当者から折返し、メールをお送りします。
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2.選考書類の送付 *担当者からのメールの返信に「添付」すること
① 履歴書(証明写真添付)のPDF *必ずPDFファイル形式
② 【社員希望者のみ】志望動機2,000字程度(Wordファイル) *PDFファイルでも可※アルバイトスタッフ希望の方に関しては、志望動機のご提出は必要ありません。
*この書類審査を1次選考とし、担当者から「合・否」をメールで通知します。
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3.面接(2次選考)
*合格者のみに担当者から「合・否」をメールで通知します。
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4.契約
・面接の内容を双方確認し、それに基づき作成した「雇用契約書」に双方署名(または記名)、押印
*新卒正社員候補の場合、正社員への登用自体は2021年3月末までに判断します。
*募集時は、毎回、数多くの応募がございますので、お早めのエントリーをおすすめします。
*定員に達した場合、予告なく、募集を打ち切ります。
募集詳細ページ
▼2020年5月、《川代ノート》の川代が講師を務める、
”通信限定”ライティング・ゼミが開講いたします!
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TEL:03-6914-3618
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