福岡を訪れたら、移動手段にバスを選んでほしい。
記事:世良 菜津子(ライティング・ラボ)
「寒い中、大変お待たせいたしました」
昨年の11月、会社帰りのバスの中で流れたアナウンスだ。
バスの運転手さんから、乗客の私たちに向けて贈られた言葉だ。
その日は本当に寒くて、たった数分間のバスの待ち時間が、私にとって地獄だった。
バス停の周りには、会社帰りと思わしきビジネスマンや、専門学校帰りの学生さんなどが、今か今かとバスの到着を待ち望んでいた。
定刻どおりバスが到着し、温かい車内へと足を運ぶ。
空いている席へ腰を下ろし、なんとなく窓の外に目を向ける。
冒頭の言葉は、その時に流れたアナウンスだ。
この言葉を聞いた瞬間、思わず笑みがこぼれた。
運転手さんの心遣いに感動したのだ。
高速道路を走り出した時に、こんなアナウンスも流れた。
「皆様改めまして、本日は寒い中、大変お待たせいたしました。風邪が流行っております。皆様も、お気を付け下さい」
その言葉を聞いた瞬間、運転手さんのファンになっていた。
後にも先にも、こんなアナウンスを聞くことができたのは、この時だけだった。
福岡は、バスの交通量が多いといわれている。
通勤時間に、大通りにバスが5~6台連なる姿をよく見かける。
福岡に住む私たちにとっては当たり前の光景ではあるが、県外から訪れた人は「バスの量、多くない?」と疑問を抱く光景らしい。
「地下鉄やJRの駅まで歩いていくよりも、すぐそこのバス停まで歩いてバスに乗ったほうが早い」
それが、福岡に住む人の考え方であると、ネットで見かけたことがある。
故に、福岡は、バスを利用する人が多い。
私自身も、毎日通勤でバスを利用している。
最寄のバス停から会社の最寄りのバス停まで乗り換え無しで行く事が出来る為、大変助かっている。
片道約40分、決して短くはない通勤時間だが、ごく稀に、バスの車内で、思わず笑みがこぼれるような出来事に出会うことができる。
今勤めている会社は、「百道(ももち)」という場所にある。
福岡ソフトバンクホークスの本拠地でもあるヤフオクドームと、観光地でもある福岡タワーの近くにある。
会社からの帰り道、福岡タワーに訪れた観光客の方と、バスがいっしょになることがある。
「どないするー?」
同い年くらいの女の子が、隣に座っている友達と談笑していた。
おそらく、関西から福岡に遊びに来て、福岡タワーを訪れた帰りのようだった。
「関西弁、やっぱりかわいいなぁー」などと思いながら、その会話を聞いていた。
「中洲川端まで、どうやっていけばいいんやろー?」
どうやら、天神から中洲川端までの行き方を相談しているようだった。
(天神から、まっすぐ歩いていけば着くのになー)
心の中で、彼女たちが悩んでいることの答えを唱える。
しかし、口に出して彼女たちに伝えることが、私にはできなかった。
人見知りという性格が、邪魔をする。
そんな、モンモンとしていた私の右隣に座っていたお姉さんが、彼女たちに話しかける。
「中洲川端までやったら、天神で降りて、地下鉄で行けばいいよー」
彼女たちの後ろに座っているおじちゃんも口を開く。
「中洲川端までやったら、歩いても行ける距離よ!」
右隣のお姉さんが、手帳を取り出し、福岡の路線図を彼女たちに見せながら、「これに乗ったらいいよ」と、丁寧に教えている。
また別の乗客も、気付けば会話に加わっていた。
「中洲川端まで、歩いても10分くらいしかかからんけん」
「ありがとうございます! こんなこと、初めてやわー」
「福岡の人、ほんまにあったかいなぁー」
彼女たちは、その出来事に終始感動していた。
「ありがとうございましたー」と周りの乗客にお礼を言いながら、バスを降りて行った。
その一連の流れを目撃した私は、思わず笑顔になっていた。
さすが福岡! 人があったかい!! と、感動していた。
福岡を訪れたら、移動手段にバスを選んでほしい。
運が良ければ、思わず笑みがこぼれるような出来事に、出会えるかもしれない。
バスに乗ると、稀ではあるが、福岡人のあったかさに触れることができる。
***
この記事は、ライティングラボにご参加いただいたお客様に書いていただいております。
ライティング・ラボのメンバーになり直近のイベントに参加していただくか、年間パスポートをお持ちであれば、記事を寄稿していただき、店主三浦のOKが出ればWEB天狼院の記事として掲載することができます。
【天狼院書店へのお問い合わせ】
TEL:03-6914-3618
【天狼院公式Facebookページ】 天狼院公式Facebookページでは様々な情報を配信しております。下のボックス内で「いいね!」をしていただくだけでイベント情報や記事更新の情報、Facebookページオリジナルコンテンツがご覧いただけるようになります。イベントの参加申し込みもこちらが便利です。
【天狼院のメルマガのご登録はこちらから】
【有料メルマガのご登録はこちらから】