メディアグランプリ

「みんなから羨ましがられるキラキラした私」じゃなくても許せるようになった


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記事:田中あかり(ライティングゼミ・平日コース)
 
 
むかしからキラキラしたものに憧れていた。
ドラマで観る、都会の大きなビルに入っているオフィスでバリバリと働き、素敵な恋人や友人がいて、プライベートも充実している女性。
 
高校の時、人気者だった麗華とひょんなことから仲良くなった。
入学して、ちょうど勢力図ができつつある頃だった。うまく友達の輪を広げられていなかった私は少し焦っていた。たまたま麗華と近くの席になって話すようになったのが切っ掛けだった。
麗華はみんなの憧れであり、小さな街の高校のファッションリーダーであった。
はじめてバスで二時間の県庁所在地の街へとみんなで遊びに行った時、麗華の私服を見たのだけれど
あの瞬間のときめき、羨望は今でも鮮やかに覚えている。
当時流行っていたデニムのティアードスカートにカンカン帽。ピンク色のアイシャドー。
私は化粧をしたことがなかった。その時、初めて麗華にメイクを教えてもらった。
「オレンジ色のチークが似合うね」と言われて、今でもオレンジ色のチークを使っている。
卒業後、麗華は東京の大学に進学をした。アパレル関係の職に就くのだと言っていた。
彼女らしいな、と思った。
 
これも高校の時、従兄弟のお兄ちゃんがミュージシャンだったのだけれど、1年に1回、正月に東京からおばあちゃんの家に遊びに来ていた。
当時テレビなんかに出たりしていて、私は恐れ多くてとても仲良く喋るなんてできなかった。
長い髪を後ろでくくって、ピンクのTシャツにダメージデニム。いつも香水の良い匂いがしていた。
彼の影響で、当時BeatlesやRolling Stones、The Whoをよく聞いていたのが懐かしい。当時はそんな音楽の
何が良いのか全く分からなくて、ただ彼の世界に少しでも近づきたいのと、見栄がすべてだった。
 
ほんの最近まで、彼らみたいに、みんなから羨ましがられて、キラキラした存在でなければ人生負けだと本気で思っていた。そのためには稼がなくてはいけないし、毎日おしゃれランチを食べて、仕事終わりにはホットヨガなんかに通い、素敵な恋人がいて、週末は旅行に行く。みんなが羨むような幸せな生活をしなくちゃいけない。
 
私は高校を卒業したあと、大阪の大学に進学、その後上京して広告代理店で働いていた。
彼らとは上京してから時々会っていたけれど、広告代理店は噂通りの忙しさだったし、麗華は読者モデルみたいなことをやっていたり、従兄弟のお兄ちゃんはメジャーデビューしたりで、どんどん疎遠になってしまった。そうして2年働いたのち私は心の雨が止まなくなって、仕事を辞めたのだった。
同じ時期に、麗華は結婚をして地元へと帰った。
従兄弟のお兄ちゃんは子供が生まれたので、バンドマンを辞めて就職をした。
 
「もう、東京無理になっちゃった」と麗華は地元に戻る前に言っていた。
東京に自分の居場所はない。地元で親や気の知れた友人と生活するほうがずっと幸せ。
従兄弟のお兄ちゃんには、子どもが生まれたタイミングで久々に会いにいった。
父の顔をしていた。昔憧れていた、尖っていてキラキラしている姿ではもうなかった。
それでも変わらず、かっこよかった。
 
彼らは、地に足のついた大人になっていた。ゆらぐことのない、穏やかな幸せを手に入れていた。
むかしの記憶が、裸眼で見る夜景みたいにカラフルに滲む。私だけ、まだその景色のなかにいるような気がした。
 
私は最近転職をしていまは、小さなファッションの会社で働いている。高校の時に憧れていたような私には、なれていない。毎日の食事はおしゃれなんかとは程遠いし、ホットヨガに行く金銭的な余裕も時間的な余裕もない。仕事もうまくいかないことばかりだし、思っていたより自分はポンコツのようである。
でも少しだけ、そんな自分を許せるようになってきた。
許せるというより、諦めて慈しむという感覚に近い。
私は私でしかないし、楽しいと思うことをやって生きていくしかない。
かつての彼らもきっとそうだったんだ。楽しいと思えることを、一心にやっていただけ。
それは今もきっと変わっていない。
 
私は自分でつくった「みんなから憧れられるキラキラした私」という虚像からうまれた理想像に縛られていた。ぜんぜんキラキラしていない今の私や生活が少しずつ面白くなってきている。
 
 
 
 
***
 
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2020-10-24 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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