8050 それが僕の人生の終着点なのか……
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記事:浦部光俊(超ライティングゼミ)
真っ暗闇の中、手探りで前に進む。
はいつくばって上った砂の丘
その先に見えたのはわずかな明かり。
あそこにさえたどり着けばなんとかなるかもしれない。
今は信じて進むしかない
なんの話かって?
これは、ぼくが若い頃、アメリカを友人と旅した時の話だ。
砂漠に迷い込んだぼくたちは道を見失った
目の前の砂丘を超えてもまた砂丘、
日は沈み、もうダメだと諦めかけた時
見つけたのが遠くに光るかすかな灯
その光がなんなのか、まったくわからなかった。
でも、それが希望の光だと信じて進んだ。
きっと、ぼくたちを救ってくれるに違いない、
そう自分に言い聞かせて……
林真理子さんの小説「8050」 を読んでいる間ずっと、
いや、読み終えた今ですら、ぼくの頭にあるのは、
あの砂漠、そして、遠くにかすかにともるあの光。
8050(はちまるごーまる)
これは、80歳の高齢の親が、50歳の引きこもりの子どもと一緒に暮らし、
経済面を含め支援している状態を表す言葉。
100万人を超えるとも言われる引きこもり問題、
ここにも高齢化の波が押し寄せている。
厳しい日本の現状だ。
高齢化と、引きこもり、これだけでも充分に重いテーマなのだが、
そこに「いじめ」 問題が絡んだ歯科医の一家、それが、小説8050の舞台だ。
この話、とにかく読みやすくて、おもしろい。
ストーリーがすらすらと頭に入ってきて、
どんどんと読み進められる。
次はいったいどんな展開が待っているんだ、
ページをめくる手が止まらなくなる。
最後の最後までドキドキさせられっぱなしで、
最高に楽しませてもらった。
ただ……
この後味の悪さはなんだろうか。
こんなに一気に読み切った小説は本当に久しぶり。
それなのに、おもしろかったよ、素直にそう言えない部分がある。
なぜなんだろう。
それは、きっとこの話があまりにも「自分ごと」 だからだろう。
周囲からみたらうらやましい限りの歯科医の一家、
そんな彼らが、息子へのいじめ、その後の引きこもりをきっかけに、
落ちるところまで落ちていく。
でも、決して救いがない話ではない。
思い描いた幸せとは、かけ離れたものだけど、
その人なりの形での救いにはたどり着く。
そう、人間、最後には救われるのだ、
あー、よかった、
とは単純に喜べない。
残ったのは、人生は結局のところ運次第、
ぼくたちにできることなんてほとんど無いのかもしれない、
そんなあきらめだ。
主人公の息子へのいじめのきっかけは些細なこと。
ちょっとした「からかい」 が、あっという間に広がって、
その後にやってきたのは、
「あいつと関わったら、次は自分の番かもしれない」
という冷たい空気。
もう誰も関わろうとしない。いじめの成立だ。
こんなにしょうもないことで、と思ってしまうが、それが現実なんだろう。
そして、しょうもないだけに恐ろしいのだ。
自分の子供だって、いつ同じ目にあうかわかったものじゃない。
それに、どうしたらいじめられないか、
いじめられたとき、どんな風にふるまえばいいのか、
子供にアドバイスをしたいけれど、はっきり言って、ぼくに策はない。
自分自身、いじめに巻き込まれなかったのは、
ただの幸運だったとしかいいようがないからだ。
自分の足元が急にグラグラになった気がした。
だいじょうぶ、心配ない、なんとなくそう思っていたぼくの家族の日常は、
実はただの運任せなのかもしれない。
その後の人生の転落を想像せずにはいられない。
主人公と同じように、引きこもった子供と衝突し、
責任はそっちのせいだと、夫婦間でののしり合う。
家族全員が、自分の本性をむき出しにして、
今まで見ることもなかった相手の本性を突き付けられる。
こんなはずじゃなかったのに。
でも、ぼくに何か落ち度があったのだろうか。
明確な人生論に基づいて生きてきたわけじゃない。
でも、それが普通じゃないのか。
とことんまで落ちたとき、
はじめて見せつけられる現実の危うさに、
気づいたときには、すでに手遅れなのか。
もう、こんな人生、勘弁してくれ、そう投げ出せたら、楽になれるのか。
いや、きっとそんなことはないのだろう。
投げ出してしまったら、今まで積み上げてきたものが全て空っぽになってしまう。
人生が無意味だったと、自分で認めることになってしまう。
それはあまりにもみじめ。
一体どうしたらいいんだろうか。
頭によぎるのは、どうすることもできず、
自分も子供も行き先のないまま、時だけが過ぎていく未来。
待っているのは8050.……
いやいや、これはあくまで小説の話、
我に返る。
なにもそこまで深刻にならなくても、
きっと何とかやっていけるに違いない。
今までだってそれなりにやってきた、
これからだって、きっとだいじょうぶ、
と自分に言い聞かせた時、ふと気づかされる。
一寸先が闇、それが人生の真実なのかもしれない。
今まで漠然と未来を信じて生きてきた。
不運に巻き込まれるなんて想像もしないで。
自分の進む方向が間違っていないと信じていた。
どこへ進んでいるのか、確信もないままに。
思い浮かんだのは、砂漠で見つけた、あのかすかな光
ぼくたちは希望の光だと信じて進んでいた。
崩れ落ちる砂を必死に踏みしめて、
その先になにがあるか、何も知らないまま……
えっ、結局、その光は何だったのかって?
それは警察の車のライト、
ぼくたちが放置した車が怪しいと、
通りがかりの車が警察に通報したらしいのだ。
しっかりと保護されたぼくは心から思った。
いやー、本当にぼくたちはついていた。
そう、とにかく、ついていた、
ただそれだけ……
ぼくは、今、どこへ向かっているんだろうか、
ぼくにできることはあるのだろうか。
そして、ぼくは、最後には救われるのだろうか。
わからなくなってきた。
***
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