メディアグランプリ

文字起こしの仕事はなぜやめられないのか


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:栗(ライティング・ライブ大阪会場)
 
 
 
「文字起こし」をご存じだろうか。送られてきた音声を聴きながら、タイピングして文書にする仕事。在宅でできるところに魅力を感じてこの仕事を始め、10年になる。
 
はっきり言って時給にすると安い。スーパーで夜バイトしたほうがいいぐらいだ。タイピングのせいで肩こりや目の疲れもたまる。
では、なぜ今も続けているのか。
 
実は文字起こしとは社会派エンタメなのだ。エンタメだからやめられない、しかも社会派だからためになる。その魅力をここで伝えたい。
 
議会もの
最初にもらった仕事は市や町の議会。市会議員が質問し、それに市役所の職員が答えるというもので、お堅い内容だがそれほど難しくない。事前に決めたやり取りをマイクの前でゆっくりしゃべっているからだ。議会ものは議事録をつくらないといけないので文字起こしは欠かせない。
 
議会をたくさん聴くとわかることがあった。例えば、どこの市や町も住民が減ってめちゃくちゃ困っている。企業に来てもらうことも切実な課題。
 
それから、議員は個性的な人が多いが、答える職員は驚くほど似ている。声といい話し方といい、みんなそっくりだ。きっと全国同じように教育? されるのだろう。
 
はじめは退屈に感じた。自分には関係ない話に思えたから。でも、それは意味を知らなかっただけ。例えば建物の修繕費がすごくかかるという話が出る。すると
「そういえば住民税ってすごく高いけど、うちの市役所はいまだにぼろぼろだな。それに使うならしようがないか」と思いつく。
 
よその世界に見えた話も、実は自分に直接降りかかってくることだったのだ。それ以来、議会ものをするときは、私たちの代表としてずっといい仕事をしてください! と願いながら聴くようになった。
 
裁判もの
文字起こしに慣れてくると、裁判ものが回ってきた。裁判長がいて原告、被告という、ドラマでよく見るあれだ。裁判といっても、交通事故など軽めのものが多い。
 
これもたくさん聴く中で思ったことがある。車に乗る人はドライブレコーダーが大事! できれば前も後ろも撮れるものを取りつけてほしい。
 
というのも、車同士がぶつかったときの証言が正反対のことが多いからだ(だから裁判になるのだが)。Aさんは、後ろのBさんの車が猛スピードでぶつかってきたと言い、Bさんは、いやいや、前のAさんがバックしてきたから衝突したと言う。そんなこと、ある? こんなケースが毎回出てくる。ドライブレコーダーさえあれば解決したのに。
 
それを弁護する新人弁護士さんに不安になることもある。質問の仕方がまずいので、何を言っているか意味がわからないとか。
 
でも、さすがに優秀なのが裁判長だ。まず「あのー」とか「えーっと」とか絶対に言わない。そして、言い分でおかしなところを必ず探り当てるのだ。
おっ、そう来たか、さすが裁判長! と1人でうなずいている。
 
一般もの
一般ものというのは、記録が必要な会議や打合せなど。その中でも難しいのが隠し取りだ。例えばパワハラ、いじめなどを証明するためにICレコーダーを隠し持って録音する。
 
どなり声やポケットの中でがさがさいう音、方言など、聞き取りにくいものばかり。最近は自動で音声変換する機械も出てきているが、こればっかりは人手が必要なのだ。
 
議会や裁判は他人の目があるから、それほどひどい言葉は出ない。ところが誰も見ていないと感情むき出しになる。それはもう現場にいるかのような臨場感。
 
例えば、家の外から拡声器で嫌がらせでどなられ、家の中で110番している人の声。この音声と文字をどこかに証拠として出すのだろう。電話の震え声と拡声器のだみ声が行き交い、こちらも緊張してくる。
 
離婚でもめている夫婦のやりとりもあった。ずっと聴いていると、どちらの言い分もわかる気がしてくる。仲たがいの始まりはちょっとしたボタンのかけ違い。どちらか素直に謝ればどうにかなるんじゃないか……。
 
でも、私は無関係だからそんなことが言えるのだ。結局、なんとか丸くおさまってくれと祈りつつ、原稿を提出するしかない。
 
文字起こしは社会派エンタメだ
もちろんこんな厳しい話ばかりじゃない。著名人のインタビューや講演会、ときには昔の漫才など、純粋に楽しいものもある。ためになる話を聴いてお金をもらえるなんて本当にありがたい仕事だ。
 
とはいえ、他人のもめごとに嫌けがさすこともある。世の中にはこんなにも争いがあるのかと。でも、なぜか文字起こしをやめる気にはなれない。なぜなのか。
 
手に汗握る場面を文字にしながら、会ったこともない他人の人生のひとコマを経験し、知らなかったことを知り、世の中で何が問題なのか考えてみること。
そう、これこそ社会派エンタメだ。
 
かつての人気テレビドラマ「家政婦は見た!」やエッセイ「裁判長! ここは懲役4年でどうすか」が思い浮かぶ。それを自宅のPCの前でやっているだけなのだ。この社会派エンタメをもっと知ってもらいたい。楽しみながら賢くなれること、間違いなし。
 
おまけにもう一ついいことがあった。厳しい文字起こしをするたびに、自分が今どれだけ恵まれているかと感謝の念に包まれるのだ。交通事故には最近遭っていないし離婚の危機もない、今のところ。
 
というわけで、横にいる夫にありがとうとつぶやき、今日も文字起こしの仕事に励む私である。
 
 
 
 
***
 
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2022-02-02 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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