ふるさとグランプリ

群馬県民の合言葉《ふるさとグランプリ》


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記事:福居 ゆかり(ライティング・ゼミ)

私がそれを知ったのは10年以上前、飲み会の真っ最中だった。
「まだ全部覚えてる?」
「私、半分くらいはいけるよ」
「じゃあ『い』は?」
「伊香保温泉でしょ」
暗号のように交わされる言葉に、全くついて行けずに呆然としていた。
みんな一体、何の話をしているのだろう。
そう思いながらも、ああ、とかへえ、とか周りに合わせて相槌を打ちながら、ひたすらゴクゴクとお酒を飲む。チューハイが、妙に甘い。わからないから、話が変わるのを待とう。そう思った。
しかし、その話題は途切れることがなく、それどころかますます盛り上がりを見せ、みんな思い出話に花を咲かせていた。

「……あの、一体、何の話?」
会話の流れを切るのは承知の上で、勇気を出して尋ねてみた。
隣の友人に小声でボソボソと、が精一杯だったけれど。
「えっ、知らないの? そっか、地元じゃないからねー」
という友人の声を皮切りに、
「群馬に来たなら一度はやるべき」
「群馬県民ならみんな知ってる」
と畳み掛けられるように言われた。

それが「上毛かるた」と、私の出会いだった。
大学を卒業しても群馬県に住むかどうかわからなかった私は、ふうん、みんな知ってるんだ、機会があったら調べてみようかな……その程度に思っていた。

そして時は流れ、再び上毛かるたと私は出会うこととなった。
それまでも、やはり頻繁に飲み会の話題として出ることはあった。しかし、あくまで話題に上がるだけで、私の日常とは縁が薄く、さほど気にならなかった。
実物を目にすることなく、手に取ることなく、札に何が書かれているのかも知らない。ただ、「そういうものがあるらしい」という認識だけだった。

しかし、今度はそうも言っていられない。
なぜなら、自分の子どもがかるたをやることになったからだった。

上毛かるたをやりますよ、と先生から聞いた私は慌てた。
上毛かるたって、結局のところ何なのだろう。普通のかるたと違うのか?
そう悩んだ結果、群馬が地元である友人たちに相談した。
「えっ、上毛かるた知らないの!?」
やはりそんな反応から始まったが、みんな思い思いに上毛かるたについて語ってくれた。

上毛かるたとは、群馬県の土地、人、出来事を読んでいるかるたである。
もうその辺りからして並々ならぬ郷土ヘの愛を感じさせる、まさに群馬県民による群馬県民のためのかるたである。
小学校に入ると、冬に学校内で何かしらのグループに分けられ、トーナメント戦を行う。そしてさらに、上毛かるた県競技大会なるものがある。
そこまでやる以上、基本的にみんな44枚の札を全て記憶しているそうだ。
私の地元は、最近人気のとあるマンガにも出ているように、冬は小学校で百人一首をやる地域だった。なので、私は小学生が百人一首をやらないことがまず驚きであり、代わりに上毛かるたをやっていることはさらにカルチャーショックだった。
群馬県民の上毛かるたへの愛着のすごさに、私は震えた。
すごい、すごすぎる。
私が思ったよりもそれは、はるかに大きな存在だった。

そして、そこまで話を聞いていたものの、私が上毛かるたそのものを見たのはつい最近の事だった。
ふと遊びに行った友人の家に、それはあった。
ばらばらと出てきたかるたを眺め、初めは渋いかるただな、くらいにしか思わなかった。そして何枚か見るうちに、「富岡製糸場」や私も知っている札が出てきて、これこそが例の上毛かるただということを知ったのだった。
かるたは友人が子どもの時から持っていたそうで、年代を感じさせる色合いになっていた。

年代を経ても、受け継がれる言葉たち。
札の中身を読むと、その44枚で一気に群馬県の特色を知ることが出来るようになっていた。群馬で過ごした時間はそれなりにあるけれど、初めて知ったこともあった。
過去に編集した人たちの、群馬県への思いが滲み出ているようだった。
群馬を知らない人、知っているけれど行ったことはない人、他県から群馬へ来た人、その人たち全てにぜひ私は上毛かるたを勧めたい。一度、ぜひ拝見してくださいと。
群馬県にはこんなに素晴らしいものがあるということ、そして、それをまとめてあるこんなに素敵なかるたがあるのだということ。
数年前に群馬県民になった私ゆえに、その存在を知ったことが遅かったがために、声を大きくして言いたかった。
天狼院書店の「ふるさとグランプリ」を見た時、これだと思った。ここで上毛かるたのことを書こう、と。
全国に繋がるこの窓で、私はこの事を伝えたいと。

上毛かるたは、それ自体が群馬県民の合言葉のようだ。あ、と言えば? と訪ねると、浅間の……と言ったように、最初の一文字で札の言葉がすらりと出てくる。
話題に出るだけでみんな、自分の子どもの頃を思い出し、郷土に思いを馳せ、自然と笑顔になる。
群馬県を遠く離れた地で同郷の人に出会うと、やはり話題に上がることが多いというのも、その理由からなのだろう。

まだまだ百人一首の方が馴染みが深く、「つる舞う形の群馬県」以外が覚えられない私でも、数年後には子どもと一緒に全て記憶できるようになるだろう。
その時こそ、今度は私がぜひ、飲み会で上毛かるたを合言葉に、語りたいと思う。

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