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この世にはどうやら嫌な愚痴と面白く聞ける愚痴があるらしい

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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:三浦みち(ライティング・ゼミ2月コース)
 
 
日曜日に開催される天狼院ライティング・ゼミの第3講で、「着席効果」について説明を聞きながら、頭のもやがすっきりと晴れるような気分だった。そうだ、答えは「着席効果」だったのだ。そしてそれがわかると今度は講義の内容が、実感を伴って染み入ってきた。「着席効果」も「ストーリー」もすべては聴衆への配慮なのだ。
 
「愚痴ばっかりになってたね。ごめんね」
 
ときは前日の昼に遡る。その日は、その友人が最近引っ越しをしたというので友人宅がある最寄り駅で、いつものメンバー数人で集まっていた。
友人がお勧めする中華料理屋でおのおの自分が頼んだよだれ鶏とか酢豚とか油淋地位とかの定食をつつきながら、近況を話し合っていたときのことだ。盛り上がる会話の途中、はっと気づいたように、そう友人が言った。
 
「ぜんぜん大丈夫。面白く聞いてるから」
 
私は自然にそう答えていた。そう答えた自分に少し驚いた。事実、嫌ではなかった。そう言われてはじめて、その愚痴を興味を持って聞いてしまっている自分に気づいた。
 
私は愚痴が苦手だ。愚痴を聞かされたりつい自分が言ってしまったりしたときに必ず思い出す出来事がある。
 
「そういう振る舞いはこれからは止めるように」
 
当時勤めていた会社で、私が陰で愚痴を言っていたことがどこかから上司に伝わってしまって、注意を受けたときに言われた言葉だ。あまりにも印象的な出来事で、忘れたことはない。何かあると思い出されて、その度になんとも言えない苦い気持ちがじわじわと心に湧き上がる。
 
その上司は、私が愚痴を言っていた背景にある悩みや、なぜそんなことを言ってしまったかという理由については関心を示さず、その言葉だけを言い続けた。
私が自分から反省の色を見せない限り、その話が終わる気配がなかったので、心が折れた。悩みを聞いてくれるわけではないことに落胆しながら、上司の言う通り二度とそういう振る舞いはしない、と約束して終わった。
それ以来、会社に限らず社外の友人にさえ、愚痴を言うことは控えるようにした。その出来事があってからその場のノリで愚痴を言うことはあってもあまり楽しいとか、すっきりするとかいったふうには思えなくなっていき、次第にほんとうに愚痴を言わなくなった。
 
この世には、どうやら嫌な愚痴と面白く聞ける愚痴があるらしい。そう思った。しかし、いったい何が違うのか? 会合が終わり帰路につきながらぼんやりとその理由を考えたが、そのときはよい答えが見つからなかった。
 
その日友人が愚痴を語りだしたとき、私はすっかり「着席効果」の罠にはまってしまっていた。
友人の語り口はこうだった。
 
「人は誰かを知ろうとするとき、少なからずそれまでの経験をもとに判断する。だた、それが通じない人がいた」
 
何の話かと思った。いったいどんな人がいたのかと興味が湧いた。効果の通り、私は弄んでいたスマホをポケットに仕舞い、身体を友人の方に向けてこれからはじまる面白いストーリーに注目していた。
 
友人はそこから、話を続けた。ある変わった同僚がいて、よく思いつきの言動をして周囲を困らせるのだという。しかも、友人にはその同僚がなぜそれらの言動をしたのか検討もつかないのだそうだ。「自分の常識が通じない人もいる」と友人は言った。さらに友人は同僚にまつわるいくつかのエピソードを話し、最後には内輪で開催するはずだった別の同僚の結婚祝いに急遽参加してやらかした失態の数々に至るまで、面白おかしく話してくれた。
 
私は終始、なぜその人はそんなことをしたのか、うまく場を取り繕うために友人にどんな立ち回りがあり得たのかなど、いろいろな案を出してはああでもないこうでもないと語り合っていた。さながら物語の謎を解き明かすように。
 
だから、友人から「愚痴ばかりでごめん」と言われるまで、それが愚痴であるということに気づいていなかった。友人の見事な切り出し方とストーリー展開に圧倒されていたのだ。そしてそれは、内容は愚痴だったとしても少しでも楽しく聞いてほしい、会合を和やかに過ごしてほしいという友人の聴衆への配慮があったからだとわかった。
 
たいがいの愚痴は、「ちょっと聞いてよ。この前さ」ではじまる。もしこの日もそうだったとしたら、語られる内容が同じだったとしても、最後まで集中して聞けていたかは自信がない。その言葉を聞いた時点で、自分の苦手な愚痴がはじまることはわかってしまうからだ。
 
思い返してみれば、私があの日上司にした話はどんなだったか。少しでも上司が嫌な思いをせず私の愚痴を聞いてくれるための工夫はあっただろうか。少しでも上司に対する配慮があっただろうか。いや、きっとなかった。愚痴はたしかに良いものではない。あの日決めたことは今でも変える気はない。ただ、こう思う。あの日の私がライティング・ゼミの内容を聞いてこのことに気づいた後だったとしたら、上司との関係も少しはマシなものになっていたかもしれない。
 
 
 
 
***
 
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2023-03-16 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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