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週刊READING LIFE Vol,93

何者にもなれない私たちへ《週刊READING LIFE Vol,83 ドラマチック!》


記事:黒崎良英(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 
闇の文書を解読せし同胞よ! 紅蓮の業火に身を焼かれながらも、女神の息吹に癒され、現世の営みに祝福あらんことを!
(訳:読者の皆さん、毎日暑いですが、しっかりと涼を取り、日々を健康にお過ごしください)
 
そう、これである。
人生をドラマチックに送るには、この“中二病”に罹患するしかあるまい。
私の右の邪眼も、その未来を見せている。
 
いや、失礼。まあ、聞いてほしい。
人生はドラマチックでなければいけない。
しかし、ほとんどの人間にとって、人生は平々凡々であるはずだ。
 
無論、ちょっとした事件事故はあるだろう。
人生の節目のイベントだってちょっとしたドラマだ。
結婚や出産、進学に就職。その過程での病気や怪我、愛する人との別れ。
 
こう見てみると、人生はかなりドラマチックである。
平凡なはずの一生が、一つ一つの出来事が、それぞれドラマを持ち、輝いて見えるようである。
 
そう、誰しもが、ドラマチックな人生を送っているのである。
 
完。
 
などと抜かすつもりはない。
そんなことを言いたいのではない。
平凡な中に、よく見たり考えたりすると、ドラマチックに感じられるというのは、少なくとも、私が望むドラマチックさではないのである。
 
もっと、劇的な事件が、ドラマがほしいのである。
そしてそのドラマの主人公は自分でなければいけない。自分でありたいのだ。
 
曲がり角で運命の出会いをしたり、巨大な悪と戦ったり、空から女の子が降りてきたり……
 
そういうドラマがほしいのだ。
その観点から見れば、現実は平凡でしかない。
異世界には行けないし、ハーレムは作れないし、宇宙人や未来人や超能力者はいないし、ましてやそれを募集している美少女だっていない。
 
そこで中二病である。
説明しよう。中二病(厨二病)とは、中学2年生が陥りやすい、痛い(いたたまれない)自分設定をしたり、その年頃にどストライクなかっこいい言葉や物品を、愛する症状のことを言う。
 
分かりやすい形でならば、例えば、必要もないのに指なしグローブを買ったり、カラーコンタクトを左右別の色にしてつけたり、怪我をしていないのに眼帯をつけたり、といった格好から始まる。
 
もしお子さんにそのような症状が現れたら、菩薩のように優しい目で見守っていただきたい。
 
その症状が進むと、今度は言葉に現れる。
「スーパー」より「ハイパー」、「ウルトラ」より「アルティメット」を好む。やたらと難しい熟語を好むこともある。
もちろん(?)ドイツ語は大好物だ。ちゃんとシャープペンシルは「クーゲルシュライバー」と呼ぶぞ!
 
さらにここから知識に飛ぶ。
堕天使とか、騎士団とか、聖獣とかが大好物になると、キリスト教やアーサー王物語や、ギリシャ・北欧・中国などの神話の知識を得ようとする。
そしてかっこいい言葉や内容があれば、普段の言葉に取り入れたくなるのが人の、いや、中二病の性。冒頭で示したような言葉になってしまうのだ。ちなみに類語辞典は便利だぞ! 中二病的言葉もたくさん乗っているからな!
 
これらをこじらせると、今度は自分が聖王◯◯の生まれ変わりだとか、現世に堕天した◯◯であるとか、中世の◯◯騎士団にいたものだとか、果ては、自分には特別な力がある、とか何とか考えるようになる。
 
邪眼が疼いたり、右手に封印された邪竜を抑えられなくなったり、様々な悪霊が見えてしまったり……
 
そして、当然だが、これを側から見ると、とてもではないが直視できないものとして映る。
くだらないと一蹴されるならまだ良い。
 
その設定の矛盾を突いたが最後、その人物は翌日から姿を見せなくなるだろう。恥ずかしくて。だからそっとしておいていただきたいものだ。
 
しかしながらこう見てくると、ある種の人物にとって、中二病は毎日をドラマチックにしてくれる、いわばフィルターのようなものである。
このフィルターを通して見ると、それこそ平凡なものが彩りを見せてくれる。輝いて見える。
 
これこそが大事なのだ。
 
先ほど私は言った。
人生はドラマチックで「なければいけない」と。
そう、それは必須事項なのだ。人生はドラマチックでなければいけない。
 
そうでなければ、自分自身が、平凡で何者でもない者と証明されてしまうのだ。
 
私たちは望む。何かになることを。
アニメのように、漫画のように、特別であることを。
いや、違う。
私をはじめとするオタクたちは、中二病患者たちは、「何か」になりたいのだ。
 
運動のできる人、勉強のできる人、人の役に立つ人、人から頼られる人、人から好かれる人、何でもいい、何かになりたいのだ。
 
しかし、自分は何者でもない。
何かになりたくて、でも何にもなれなくて、だからこそ、少し突拍子もない、何か特別な者に自分を重ねる。そんな「ただの人」なのである。
 
ただ、評価が欲しいのかもしれない。褒められたいのかもしれない。
それでも、彼ら彼女らのそういった思いを侮辱することは許されない。
自分は自分でしかない、などというありきたりの言葉もいらない。
 
特別な何かになりたいのだ。
 
その切実な願いは、いびつな形で現れる。
不器用な私たちはそれでも何者かになることを、望んでやまない。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
黒崎良英(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

山梨県在住。大学にて国文学を専攻する傍ら、情報科の教員免許を取得。現在は故郷山梨の高校に勤務している。また、大学在学中、夏目漱石の孫である夏目房之介教授の、現代マンガ学講義を受け、オタクコンテンツの教育的利用を考えるようになる。ただし未だに効果的な授業になった試しが無い。デジタルとアナログの融合を図るデジタル好きなアナログ人間。趣味は広く浅くで多岐にわたる。

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2020-08-24 | Posted in 週刊READING LIFE Vol,93

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