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READING LIFE

【女性におけるおっぱいという存在】私がおっぱい野郎だった頃の話をしよう〜「人生を変える」雑誌『READING LIFE』予約受付開始〜《2017年6月17日(土)発売/東京・福岡・京都店舗予約・通販申し込みページ》


天狼院書店の山本です。

今、無性におっぱいの話がしたくなっている。

これまでこんなにおっぱいの話をしたくなったことはない。
どちらかというと、その話は隠されているべきであろう物事だと思っていた。
だって、女性が自らそのような話をすることは、普段あまりないような気がする。
あっても女性だけしかその場にいない、女子会のときくらいだ。
だから公にこうして「おっぱい」なんて単語をつぶやくのは、初めての経験だ。

おっぱい。

こうして文字を打っているだけでもだいぶ恥ずかしい。
そもそも、「おっぱい」なんて呼び方で言わない。
せいぜい我々女子は、言っても「胸」というくらいだ。
胸、というと、一気に学術的側面が出てくるから、まったくいやらしさがない。
女子同士の会話の中でいやらしさを出したくないから仕方がない。

しかし、あえて私は言おうと思う。
こんなにおっぱいの話がしたくなっている今だからこそ、あえてこの話をしようと思う。
女性である私にとって、おっぱいというものが、どのような存在であるか。

思えば昔、私はおっぱい野郎だった。

ずっと女子として生きてきているつもりだが、まあとにかく小さい頃、私はおっぱい野郎だった。
というのも、強烈に憧れていたのだ。あの二つのふくらみに。

女子だから、おっぱいに対して興味がないかというと、それは間違いである。
小学生のころの私は、おっぱいに、純粋に、強烈に、憧れていた。
それはもう男子小学生の持つ憧憬と、同じようなものなんじゃないかと思う。

女子だから、4年生くらいをすぎたあたりから、成長が早い人は体つきも大人になってくる。
体育のときの着替えタイムは、嫌でもほかの人の体が気になってしまうのだ。
成長が早い子のをなんでもないフリして盗み見ては、ふわー、と思っていた。どうしてどんな素晴らしいものが付いているのだろうと思っていた。

かたや自分には、それがなかった。小学生のころの私は、成長度合い的には早くもなく遅くもなく、身長も小さくもなければ大きくもなかった。小学生らしく無駄な肉が付いていない、ごく平均的な体型をしていた。
低学年のころは背の順で後ろから数えたほうが早かったのに、高学年になってくるにつれ、周りの女の子の背がどんどん伸び出していた。もちろん、背だけではなく、体が全体的に大人になっていた。すれ違う人の胸元のふくらみに、どうしても目線が行ってしまう。

おっぱいを持っているだけで、なんだか別次元の生き物のように見えた。
集合写真で並んでみても、私はどこか貧相で、子供っぽい雰囲気が抜けなかった。
同じ年齢、同じ性別のはずなのに、おっぱいを持っている彼女たちは私なんかよりずっとずっとお姉さんに見えた。
羨ましい、と思っていた。強烈に、憧れを持っていた。

四六時中、おっぱいのことを考えていた。
どうすれば、あんな素晴らしいものが私にも手に入るのか。

牛乳を飲むようにした。
給食で余りが出たら、かならずもらうようにした。
学校だけでなく、朝と夜、寝る前にもコップ1杯を飲むことを習慣づけた。
大人になってきているクラスの子を見て、まだ知らぬブラジャーの構造を理解しようとした。
夏服の下にどんなものが付いているのか、周りに気づかれないように凝視していた。
どうすれば、ここにあの魅力的な肉が付くのだろうと、ひたすら考えていた。

女子だけど、いや、女子だからこそ、四六時中おっぱいのことを考えていた。
それくらい、熱烈な憧れだった。

 

ところが、どうだ。
いざ、成長して、大人になってしまった今。
あれだけ切望していたおっぱいにもかかわらず、なんとも思わないのだ。
自分に付いているものに対して、これっぽっちも、1ミリたりとも。

どうすれば手に入るのか小学生のころは真剣に悩んでいたくせに、いま私がおっぱいに持つ感想といえば「なんかあるな」くらいのものである。
別に自分のものだから触っても大して何も思わないし、今のところ生活上の支障も出ていない。
「足の爪の形が正方形である」とか、「手の指の第2関節が180°以上曲がる」とかいう感覚とまったく同じような認識である。それはあくまで私の体のひとつの特徴であり、それ以上でも以下でもない。
ただ「胸部がそういう状態」なのだ。自分のものに対しては、「はい、おっぱい、おっぱい」という感じだ。

だから、私はおっぱい野郎だった頃のことを久しぶりに思い出して、がく然としてしまった。
あれだけ憧れていたのに、いざ自分のものになると、こうも何も思わないものなのだろうか。

思えばその憧憬は、中学生あたりから徐々にしぼんできた。
中学生にもなれば気づけばみんなブラジャーなんてしていたし、成長度合いもみんな同じようなものになってきていた。
いつの間にか、私の典型的な小学生体型も変わってきていたし、おっぱいが欲しいなんて気持ちは、自然と消滅していった。それよりも、◯◯君が◯◯ちゃんと付き合いはじめただの、あのクラスの◯◯君、よくない? なんていう話題の方が活気を帯びていた。

人のおっぱいを見る目も変わってしまった。銭湯に行っても、女子のグラビアを見ても、気になるのはおっぱいを含めた全身トータルでのスタイルである。「バランスが良い」とか「くびれがちゃんとある」とか、全体としての造形の美しさに惹かれることはあるけれど、おっぱい単体で目がひっつくことは、もうなくなってしまった。

 

人は、無いものねだりなんだなあ、と思う。
いざ手に入ってしまうと、こうも都合よく、憧れの気持ちを忘れ去ってしまう生き物なのだ。

どうして小学生の頃、あれだけ、おっぱいに熱狂的になっていたのかわからない。
きっと、そのうち私にも手に入る可能性が高いものだからこそ、早く欲しい、と憧れの念が強くなってしまったのかもしれない。

けれどこうして今、おっぱいに対して何も思っていない状態は、ちょっと勿体無いんじゃないかと思うのだ。
あれだけ、おっぱい単体に対して、純粋な憧れの気持ちを持っていたのに、それが今、なかったことになっている。
あの気持ちを持っていたことは、間違いはないはずなのだ。
だから私は、どうにかその気持ちを取り戻そうと必死になっている。
あの憧れを思い出せば、なんとなく、男性の気持ちもわかるようになる気がするのだ。

立場によって、ここまで人は一変する。
だから、今自分が立っている地点と別の立場を想像することを、忘れてはならない。
私は、大切なことをおっぱいに教わったような気がするのだ。

しかし、どうして私がこんなに「おっぱい」という単語を連呼し、こうも真面目におっぱいの話をしているのか?

それはひとえに、あの雑誌の、あのページを見てしまったからに、他ならないのである。

 

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 雑誌『READING LIFE2017夏号』2,000円+税
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