大事な人が病気になった時、支えるには愛情と〇〇が大事。「人生を変える」雑誌『READING LIFE』予約受付開始!《2017年6月17日(土)発売/東京・福岡・京都店舗予約・通販申し込みページ》
記事:高橋和之
「玲子が骨折したってどういうことですか!?」
僕は声を荒げていた。
相手は病院の看護師さんだった。
「落ち着いてください、右足を骨折していますが、それ以外は健康です。少しの間入院することにはなりますが」
「失礼しました、病室を教えていただけますか? 今日の仕事終わりに行きたいのですが」
「はい、大丈夫です。あまり遅くならないようお願いします」
彼女の玲子が階段で転んで骨折をしたとのことだ。
仕事も早く終わったので慌てて向かうことにした。
医療機器の会社で営業をしているので、仕事で病院に行くことはよくあるのだが、お見舞いで行くというのはめったにない。ましてや大事な恋人が入院するとは。
走らないように気を付けつつも病室へ急ぐ。
病室に着き、中を見渡すと玲子を発見した。
「玲子、大丈夫?」
「ありがとう、お見舞いに来てくれて」
「ごめん、慌てていて何も買ってこなかった」
「いいよ、来てくれるのが一番嬉しい」
玲子は笑っていたが、右足のギブスが痛々しい。
「思ったよりも元気そう」
「うん、痛かったけど、今は落ち着いたし」
「そっかぁ、階段で転んだの?」
「そう、滑っちゃってね。何段か落ちたら右足が大変なことに」
「気を付けてね、本当に。自分だけの体じゃないんだからね」
「えへへ」
笑いながら抱き着いてくる。
優しく玲子の頭をなでる。
「ふぅー、落ち着くなぁ」
「よしよし。さて、今日はあまり長居できなそうだから帰るけど、また明日来るね。何か必要なものある?」
「替えの下着持ってきてほしいの。はいこれ、私の家の鍵」
「分かった、でもちょっとドキドキする」
「被っちゃダメだよ」
「被んないし、いつから変態キャラになってるの!」
「冗談よ。あとは部屋にある小説を3冊持ってきて。積読って書いてある棚から。暇つぶしがしたいの」
「OK! そういえば、ここの病室静かだね」
「うん、ちょうどこの部屋は人がいないみたい」
共同の部屋のはずなのに玲子しかいなかった。
「じゃあ、また明日ね。早く治して遊びに行こうね」
「ありがとう、また明日。早く治すよ」
病室を出る前に振り返ると、玲子は笑顔で手を振ってくれていた。
玲子の家に向かいながら思う。
骨折したわりには元気だったな。
カラ元気かもしれないが、無理をしているようには思えない。
考え方の切り替えの早い玲子のことだ、開き直ってるのだろう。
まめにお見舞いに行って玲子を励まそう、楽しませよう。
きっと、それで大丈夫。
そう思っていた。
翌日、約束通り玲子のお見舞いに行った。
「玲子、元気?」
「……」
「どうしたの?」
「どうしよう、私……」
なぜか玲子は涙ぐんでいる。
「どうしたの、ねぇ。話してくれるかな?」
玲子に近づいて、頭をなでる。
玲子は抱き着いてきたとたん、大声で泣き始めた。
自分たち以外に誰もいない部屋に、泣き声がむなしく響く。
優しく玲子の頭をなでながら、泣き止むのを待つ。
何か良くないことがあったのだろうか。
玲子が少し落ち着きを取り戻したようで、話し始めてくれた。
「実はね、同じ病院で子宮頸がんの検査を受けていたの。入院しているから、ついでに検査結果を教えてもらったのね。そうしたら、なんとか1という段階で経過観察が必要だって。また半年後に検査だって言われたの」
「子宮頸がんの健診も受けてたんだね」
「ねぇ、私怖いの。そのままがんで死んだりしないのかなって。私、何か悪いことしたのかな?」
「ううん、そんなことはないよ。玲子はいい子だよ」
「ねぇ、なんでさぁ、そんなに長時間放置していいわけ? 先生は問題ないとは言っていたけど、もっとしっかり検査とかしなくていいのかな? 本当に怖いよ。不安でたまらないよ。ただの骨折だけなら我慢すればいいやって思えたのに、このまま死にたくない! それに、私は子供も産みたいし。子宮の病気とかになって産めなくなったら私、どうすれば……。ずっと夢だったのに、好きな人の子供を産むことを。諦めなきゃいけないのかな」
好きな人の子供を産めなくなるかもしれないなんて思ったら、きっとそれは絶望なのだろう。
僕は子供を産めないけれど、男の僕でも分かると思う。
でも、玲子のこの絶望を明るくする答えを持っている。
「ううん、そんなことないよ」
「ありがと、慰めでも嬉しい、グスッ」
「ねぇ、玲子。僕は医者じゃないからもちろん診断はできないのだけど、僕が知っていることを話していいかな?」
「うん」
「僕が医療機器の会社で仕事してるってのは覚えてるよね?」
「もちろん。でも営業をしていること以外聞いたことはないよ」
「話すと長くなるから避けてたんだよ。子宮頸がんの健診の時に、子宮に長い棒入れられなかったかな?」
「うん、この前使ったよそれ。痛かったけど」
「それだよ、売ってるの。他にも売ってるけど主にその棒」
「そうなの!? すごいね」
「あなたの彼氏は、女性の健康のために頑張ってるんだよ」
ちょっとおどけてみた。
よかった、玲子は笑ってくれている。
「なんとか1って言ってたんだよね。CIN1って言ってなかったかな? 覚えてない?」
「なんかそんな感じ」
「その状態から8割くらいの人は自然に治るんだよ、諸説あるけど」
「そうなの!」
「それに、子宮頸がんはゆっくりと進行していくものなの。だから1週間後にがんになります、なんていうようなものではないんだよ。それに、CIN1の状態はがんでも何でもない。それでしばらく様子見しましょうって言ったんだよ」
「そうなんだ、よく知ってるね」
「仕事ですから」
「あはは」
よかった、元気が出てきたかな。
「ちなみに、悪化していく可能性もあるけれど、これも経過観察をしていれば発見できるし、場合によっては手術をすればいい。早めに見つければ子供が産めなくなるような事態にはなりにくいんだよ」
「そっかぁ、知らなかったよ」
「だから、きっと大丈夫だよ。玲子が恐れているようなことにはならない。諸説はあるけれど、きっと大丈夫」
「うん、ありがとう。じゃあ安心していいんだね」
玲子がさっきよりも強く抱き着いてきた。
「それに」
「それに?」
「何があっても一緒にいるから」
玲子は僕の胸の中で何度もうなずいた。
返事はない。
でも、さらに強く抱き着いてきた。
というか、結構痛い。
右足を骨折しているとは思えない。
「女の子は悩みが多くて大変だよね、よしよし」
また、頭をなで始める。
「えへへ」
痛みから解放されると同時に、満面の笑みを向けてくる。
玲子は安心してくれたかな。
自分の仕事の知識がこんなところで役に立つとは思わなかった。
いつどこで、自分が持つ知識が生かせるか分からない。
「そういえば、下着と小説持ってきたよ」
「ありがとう、ちゃんと被った?」
「被んないし。もうそれはいいよ」
変態な方が好きなのだろうか……。
「そうそう、あと雑誌も持ってきた。暇つぶししたいって言ってたよね」
「うん、何の雑誌?」
「早く元気になって京都に行きたくなる雑誌」
「旅行雑誌かな。あれ、でも表紙に、「本の再定義」、「博多美人」って書いてある。旅行雑誌ではないよね」
「そうだよ、何かを変えてくれる雑誌だよ」
「ふーん、後で読んでおくね。二人の話題にしよう」
「そうだね、京都も行ってみようよ」
「うん、楽しみ楽しみ♪ 初めての二人の旅行だね」
玲子はすっかりご機嫌だった。
始めはどうしようかとも思ったけど、幸い自分が知っていたおかげで、玲子を支えることができた。大事な人が病気になった時に支えてあげるには、相手を思いやる気持ち、愛情が一番大事だと思う。
でも、愛情だけで今回支えることができたのだろうか。
子宮頚がんの知識を持っていなかったら、玲子を慰めることはできなかったのではないだろうか。
知識があってよかったと思う。
この雑誌のこともそうだ。
玲子との会話のきっかけにもなったし、さりげなく初旅行にも誘えた。
雑誌を読んでくれれば、もっと二人の共通の話題も増えるだろう。
幸いなことに、京都から写真まで、この雑誌のカバーしている範囲は広い。
色んな事を知ろうと思う、大事な人を守るために。
いつどこで、自分や玲子のために役に立つのか分からないのだから。
退院の日、病院まで車で迎えに行った。
病院の入り口で待つ。
松葉つえを突いた玲子がやってきた。
「迎えに来てくれてありがとう」
「もちろんだよ」
玲子が車に乗るのを手伝い、玲子の家まで車で向かう。
「ねぇ、一つお願いがあるんだけど」
「何? 玲子」
「子供つくろーよ」
「ブッ、何言い出すのいきなり。運転中に驚かせないでよ」
「私は本気だよ、好きな人の子供産みたいって前に言ったよね」
「分かるけど、ほら、もう少しあるでしょう。先に結婚するとか」
「いいじゃん、そんな形式にとらわれないで子供つくろーよ」
「退院して嬉しいのは分かったから、落ち着こうか」
次に知らなければいけないのは、
「結婚前に子供が欲しいと言ってきた彼女を、どうやって言いくるめて結婚するまで待ってもらうか」か。
さすがにこの雑誌には答えはない。
「どうやって答えを見つけようか。はぁー、やれやれ」
しょうがないなと思いながら、僕は人生で一番幸せなため息をついた。
【雑誌『READING LIFE』予約する際の注意と通信販売について】
いつもありがとうございます。雑誌『READING LIFE』副編集長の川代でございます。
『READING LIFE』は3,000部作りますが、発売日にお渡しできる分の数に限りがございます。確実に手に入れたい方はご予約をおすすめ致します。初回限定特典として、ご予約先着順にて、雑誌『READING LIFE創刊号』(2160円相当)を差し上げます。この創刊号のお渡しは、なくなり次第終了となります。ご了承ください。
また、万が一予約が殺到した場合、予約順でのお渡しとなりますのでご了承くださいませ。
店頭、お電話、メール、下の問い合わせフォーム、Facebookメッセージなど、あらゆる方法で予約受付致します。
雑誌『READING LIFE2017夏号』2,000円+税
6月17日(土)19時から東京天狼院、福岡天狼院、京都天狼院各店にて発売開始・予約順のお渡し
今回は通信販売も同時に受付開始します。通販での受付も予約受付順の発送となります。PayPalでの決済完了時間が予約受付時間となります。
通信販売の場合、送料・手数料として500円別途頂きますが、その代わりに天狼院書店でご利用頂ける「コーヒーチケット(360円相当)」をおつけしますので、店舗に来る際に、ぜひ、天狼院でご利用頂ければと思います。
通信販売分は、発売日より、予約順に順次発送致します。
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雑誌『READING LIFE2017夏号』2,000円+税
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