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天狼院通信

「あること」と「ないこと」《天狼院通信》


2016年1月24日8:09。

今、福岡は寒波にみまわれている。

飛行機が飛ぶかどうか、微妙なところだが、今のところ、15分遅れるくらいらしい。

ちょっと搭乗まで時間が空いたので、ふと思いついたことを、とりとめもなく、書いてみようと思う。

僕が起業したのは、2009年4月のことだから、社長7年目ということになる。

社長、と言っても、つい最近までほぼひとりだった。

別に、家が社長をやっているわけでも、家業があるわけでもない。

元々、故郷にある家は、百姓をしていた。時代の変遷で、そればかりでは食えず、親の代には溶接工場や裁縫作業所などに働きに出ている。

つまり、ほぼ裸一貫で僕は東京に出てきたことになる。

そして、池袋という世界でも有数の都会で、僕は何ら伝のない状態で、そればかりではなく何ら仕事のない状態で、起業した。

「起業」なぞといえば、聞こえがいいかも知れないが、軌道に乗るまでの時間帯、起業家は激しい「消費者」となる。

創業資金は、信じられないほど容易に、そして容赦なく、まるで粉雪のように溶ける。

特に、何をするにも物件の取得というのが問題で、まず、不動産会社は金のない人間を相手にしてくれない。

ま、当然のことではあるが、何とか力になってくれと頼んでも、金を用意してから出なおせ的にあしらわれる。

人質のごとく、保証人を立てさせられ、保証会社に金をふんだくられ、それでようやく、「貸してもらえる」。

消費させてもらえるのだ。

起業当初、何事も苦労せずに不動産が「ある」人に対して、超えようのない壁のようなものを感じ、劣等感をいだいたものだ。

僕らが必死で稼いだ金で、何とか家賃を払う。

まるで、彼らのために必死で働いているような錯覚を覚えることもあった。

やはり、「ある」者が支配する世の中なのかと愕然とした。

正直、羨ましいと思った。

僕らが休みなく、恐怖と闘いながら必死で歯を食いしばって働いている中、不動産保有者は、入ってくる家賃で、ゆうゆうと海外旅行に行ったりするのをみると、なんだか、やるせない想いをした。

ところが、である。

今になって、「ない」という状態が、本当にありがたいものだと心底思うようになった。

「ない」からこそ、必死になって働いた。

「ない」からこそ、誰よりも頭を使って考えた。

「ない」からこそ、本にしがみつくようにして、自ら勉強した。

「ない」からこそ、まるで映画『ロッキー』のロッキー・バルボアのように、ハングリーに生きる術を身につけた。

ある種の「野性」を、身にまとうことができた。

都会という荒野を必死に生き抜くうちにによって、「野性」が研ぎ澄まされていった。

いつしか、あらゆる合理性をほとんど「無力化」、あるいは「あとづけ」にしてしまうほどの、「勘」を身につけられるようになった。

今の僕の決断は、まずは「勘」を頼りにし、決断の大方を終えてのちに、合理的に考える、という順番になっている。

「勘」の方が、はるかに多くのことを、瞬時に処理することを、経験則的に知っているからだ。合理性は、過去からくるもので、未来を形作ってはくれない。

もし、僕が何らか「ある」状態だったなら、どうなってただろうと想像してみる。

もう、怖くて仕方がない。

おそらく、安穏として、何ら、生み出すことができなかっただろう。

そう考えると、「ない」ことは、結果的にみればすばらしいことだ。

 

我々経営者は、ある種の圧力と恐怖のために、社員に対してできるだけ「ある」状態をつくって上げようとする。

それは、実をいえば、社員のためではなく、自分のためである。

悪い経営者だと言われたくないために、自分のために、たとえば給与などを積み増す。

けれども、本当をいえば、いかに社員を観念的な意味で「ない」状態にできる経営者のほうが、僕は優れていると考えている。

「ない」ほうが、社員のためになる。

なかなか、奪ってしまう勇気を、経営者として持てないが、与えながらも「ない」状態にできないかといつも僕は考えている。

「ある」状態に浸らせれば浸らせるほど、スタッフたちの「野性」は鈍化して本来あるはずの「勘」が使い物にならなくなるからだ。

今、僕は、「ある」と「ない」の相反することを、ちょっとむずかしい言葉を使うと「アウフヘーベン(止揚)」して、働きやすく、労働生産性の高い理想の職場を構築しようと考えている。

 

アナウンスが鳴る。

まもなく、搭乗の時間である。

 

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2016-01-24 | Posted in 天狼院通信

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