僕たちは「これでいいのかな、本当にこれでいいのかのかな」と戸惑いながら大人をやっている。《天狼院通信》
僕が正月に田舎に帰らない理由のひとつは、不毛な「無欠自慢」に巻き込まれるのが耐えられないからだ。
うちの息子と娘は結婚できて、孫もできた。
娘は学年で一番で、ピアノもできる。
息子は勉強はそこそこだが、部活ではレギュラーだ。
この前は、娘夫婦に温泉旅行をプレゼントされた。
うちの実家は、その、田舎の本家みたいなものだから、「あれ? おまえだれだっけ?」みたいな人まで正月にこぞってやってくる。そのたびに、そんな「無欠自慢」を聞かされることになる。
最初は、それはまあ、そう、あ、そう、と聞いている。
それが次第に苦痛になっていく。顔の筋肉が硬直してくる。
なにせ、三姉妹の長女の長男である僕は、田舎的な常識ではいとこの中でも一番先に結婚して子を成していなければならぬのに、彼らからしてみれば、完全を「欠如」したままに、東京で好き勝手に適当なことをやっているように映るのだろう。
たいていは、決まって、おばあちゃんやおじいちゃんが僕の存在を笑いにしようと
「はやく、あんだも嫁っ子もらわしぇ!」
あははは!
と、場は笑っておしまいになるのだが、その頃には僕の顔の筋肉は痙攣を起こしていることだろう笑。
そう、僕は、田舎に帰ると、完全に弱者である。
東京でしか生きられない生き物だ。
しかし、まあ、あんなに小さかったいとこ連中が、一端に大人になって、夫になって妻になって、そして父親になって母親になっている。
あの正月の場にいると、なんだか、僕だけが大人になりきれなかったようで、いたたまれないのだ。
東京にいると、それはまあ、小さいけれども会社の社長だし、小さいけれども本屋の店主だから、みんな「大人」として扱ってくれる。
でも、やっぱり、僕はどこかで「これでいいのかな、本当にこれでいいのかな」と戸惑いながら、大人をやっている自分をたまに見つけてしまう。
でもまあ、周りは大人として扱ってくれるので、ちゃんとハゲているから見た目的にも大人として通用しているので、これでいいのだろうと思わないではないが、やっぱり、どこかで大人ってこんなんでいいのかなと思ってしまう。
スタッフは、女子とかに、
「三浦さんって子供だよね!あははは」
って言われたりすると、あ、やっぱ、そうだよね、そう思うよね、僕もそうなんじゃないかなって思うんだよね、と素直に思ってしまう。
でも、考えてみると、いつの時代も、どの局面でも僕はそうだったような気がする。
「いいのかな、これで本当にいいのかな」と戸惑いながら起業をして、
「いいのかな、これで本当にいいのかな」と戸惑いながら何とか社長を6年やって、
「いいのかな、これで本当にいいのかな」と戸惑いながら本屋を1年ちょっとやっている。
ちょっと戻ってみると、もっと昔もそうだった、たしか。
「いいのかな、これで本当にいいのかな」と戸惑いながらランドセルを背負って小学生をやって、
「いいのかな、これで本当にいいのかな」と戸惑いながら中学生、高校生になり、
「いいのかな、これで本当にいいのかな」と戸惑いながら大学生になり、
上京して、
「いいのかな、これで本当にいいのかな」と戸惑いながらシティーボーイを気取ってみて、
「いいのかな、これで本当にいいのかな」と戸惑いながら彼氏をやってみて、
「いいのかな、これで本当にいいのかな」と戸惑いながら女の子を抱いてみた。
そこまで考えると、まてよ、となんだか思考の視界が開けてくる。
もしかして、僕だけじゃなくて、多くの人がそう感じているのではないだろうか。
みんな「いいのかな、これで本当にいいのかな」と戸惑いながら大人をやっているのではないだろうか。
そうだとすれば、多くの人が、
「いいのかな、これで本当にいいのかな」と戸惑いながら夫をやって妻をやって、
「いいのかな、これで本当にいいのかな」と戸惑いながら父親をやって母親をやって、
「いいのかな、これで本当にいいのかな」と戸惑いながらおじいちゃんをやって、おばあちゃんをやっているのかも知れない。
そう考えると、あんな小さかったいとこたちが立派に父親や母親になっていられる理由が見えてくる。あんな「無欠自慢」をしている理由が見えてくる。
彼らも、きっと「いいのかな、これで本当にいいのかな」と戸惑いながら結婚し、父親になり、母親になり、祖父になり、祖母になっているのだ。
だから、あえて、自分はちゃんと「父親なんだよ」「母親なんだよ」と誇りたくなるのだ。
ちょっとばっかし、お正月くらいは優越感がもたらす安心感に浸りたくなるんだろう。
そうだとすれば、人生とは、戸惑い続けるものなのかもしれない。
「いいのかな、これで本当にいいのかな」と戸惑いながら社長となり、
「いいのかな、これで本当にいいのかな」と戸惑いながら事業を拡大し、
「いいのかな、これで本当にいいのかな」と戸惑いながら上場し、世界に打って出て、
人にどれほど賞賛されても、莫大な財産を築いても、賞をもらっても、銅像になったとしても、
「いいのかな、これで本当に良かったのかな」と戸惑いながら、人生を終えるのかも知れない。
少なくとも、僕はいつまでも完全を欠落した、戸惑う人生を歩みたい。
「いいのかな、これで本当にいいのかな」と戸惑いながら、僕は今日も生きている。
本当はあなたもそうでしょ?
ね?
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