【季節限定!】あさのあつこの青春小説が大好きだ《リーディング・ハイ》
記事:のんさ~ん!(リーディング・ライティングゼミ)
わたしがこの本と出会ったのは、必然の反対側にある偶然ではなく、「たまたま」と言えるでしょう。たまたま、本のフリーマーケットが開催されていると聞き、たまたまこの本を手に取ったのです。
しかし、この本に出会い、今、この時期に読み終えたことには大きな奇跡が感じられます。必然でも偶然でも、たまたまとも考えられない、神様からの贈り物のような「奇跡」です。
わたしは風が好きです。「風が好き」なんていう人、めったにいないと思いますが、わたしはよく友人に言います。「風が好き。しかも風は風でも強風がいい」
このセリフがいつ炸裂するのかと言えば、突風が来て、周りの女の子たちが、きゃー、前髪がー、とか、さむいーとか、やばいーとかいう時です。
そんな時わたしだけが、「えー? 気持ちいいやん!」と、暴風の中、大きな声で友人に聞こえるように叫びます。友人は理解に困ったような顔をしますが、わたしがこう思うようになったのは、子供のころ、ばあちゃんとのある思い出があるからです。
わたしがおそらく小学生になって間もない時のことです。風邪をひいて、熱があるというのに、わたしはばあちゃん家に預けられました。いつもは、風邪をひいているときは必ずお母さんが看病してくれます。ですが、その時はなぜか、ばあちゃん家に預けられたのです。今思えば、なぜだろうと思うのですが、ばあちゃんっこの私はばあちゃん家に行けるんだ、ラッキー! くらいにすんなり受け止め、疑問を抱くことはありませんでした。きっと、お母さんは何か外せない用事があったのでしょう。わたしを連れてそこに行く予定が、連れていくことができなくなったので、やむを得ず、ばあちゃん家に預けたのだと思います。
ばあちゃんの家は丘の上のほうにあります。軽の車が一台ぎりぎり通るほどの狭い道をガタガタと登ったところにあります。家は古いのですが、家の中はきれいに保たれていて、素敵な古民家だと感じます。そんなばあちゃんの家に、風邪をひいて少々けだるい体をかかえたわたしは、いつもは全く入ることのない二階の部屋につれていかれました。ばあちゃんは風邪をひいた私のために、最高の寝床を用意してくれていたのです。お日様にあてられふかふかとした布団をベットに敷いて、いつもみんなが集まるにぎやかな一階の食台からは遠く離れた静かで穏やかな風が通る二階の窓部屋。ばあちゃんがわたしに寒くないようにとしっかりと掛け布団をかけ、同じベットに入りました。私たちが寝ているベットのすぐそばには窓があり、ばあちゃんは風が気持ちいいから、と、その窓を開けていました。暖かな布団の中、ばあちゃんのいい匂い。そして、熱で温まった身体に気持ちの良い風。ばふーっ、ばふーっとさざ波のように風が来たりやんだりするたびにカーテンが揺れます。このときの寝心地がとろけてしまうんじゃないかというくらい良くて、自分が風邪をひいていることも忘れてしまうくらい心地よかったのを覚えています。
その思い出があるからわたしは今でも風が好きで、10月の初めのこの時期のひんやりとしてきた風を敏感に感じ取ってしまうのだと思います。
だから、先日、
あ~、本格的な秋に変わったな。
そう思いました。
天気予報ではなく、外の空気感とか、肌で感じたのです。
朝と夜が肌寒くなってきたし、今までの寒さとはどこか違う、つんとした寒さ。そこには、秋の訪れがしっかりと感じられます。そのため、風もつんとした、どこか芯のある冷たさになってきて、湿気のないスカッとした風が吹いています。
風は肌で感じるものです。肌で感じるからこそ心地いいのです。
だけど、この本は違いました。あさのあつこさんの淡い恋を描いた青春小説は、私の心の中に澄み切った10月初めのこの時期の風を吹かせました。何とも切ない、だけどすがすがしい、私が一番好きな風。それを言葉で感じさせてくれたのです。
そう、現実世界の風と、本の世界の風がリンクしたのです。
本当にすごすぎます。神様からの贈り物とは、このことです。本の最後のほうのページにあるクライマックスを読んだとき、わたしの伸びきった髪の毛がボハッとなびくような感覚に襲われました。ここまで強烈で繊細なイメージを沸かせてくれた小説は本当に初めて。
風。10月初めのこの澄み切った心地よい風。
もっと肌で感じてみてよ。本当に気持ちがいいんだから。
嫌がらないで、前髪なんて、めくれてしまうかもしれないスカートなんて気にしないで、もっともっとこの風を味わってみてよ。
この風は今しか、この今の時期しか味わえない風なんだ。
………
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