チーム天狼院

本当の『何がやりたいか』は、やり続けてみなければわからない


記事:永井聖司(チーム天狼院)
 
なんの気なしに、ツイッターを眺めていた時のことだった。

とあるイベントの告知が、目に入った。

『アート』というキーワードが入っていて、いつもだったら、即座にリツイートか、いいね! を押すところだった。
それなのに、指が止まった。

『僕がお客さんだとしたら……行かないな』

素直に、そう思った。

イベントの内容自体を、否定するつもりは全くない。ただその内容紹介では、アートを通してエコロジーを考える、などの内容が書かれていて、ちょっと専門的な印象を受けたのだ。

間違いなく、僕の好きな『アート』に関わる内容のはずだ。それでも、『何かが違う』と思った。
そして僕は、『何かが違う』と思った自分に、愕然とした。

 
「アートに関するイベントがやりたいです!」
そう、天狼院書店への転職の面接で、僕は社長に伝えた。

書店への転職で、何を言っているんだ、と思う人もいるかもしれない。
しかし社長は、「おお良いね!」といった感じの内容で、答えてくれた。

 
そもそもは、美術に全く関係のない家で生まれたはずが、大学時代に日本美術史という学問を学び、美術の面白さに目覚めた。1度は、就職活動の中でそういった方向に進みたいと思っていたけれど、挫折。社会人になり趣味程度に美術館めぐりをするようになった頃、天狼院書店のライティング・ゼミを受講した。
『人に読まれるような文章を書けるようになる』ことを目指すライティング・ゼミ。そして上級コースを受講し、課題である文章を書き続けていく中で、『アート』に関する話題を書くことが増えていった。
そういった話題を書く人が少なかったこともあり、一緒にゼミを受ける受講生や、講師である社長の中で徐々に、『アート好きな人』という、僕に対する認識ができた頃、天狼院書店のスタッフ募集の記事を見かけた。
転職に悩んでいた僕はすぐさま飛びつき、運良く合格となった。

飛び込んだ理由はいくつかあるけれどその中の1つは、就職活動時代から夢に持っていた、『アート』に関するイベントが出来るかもしれない。そう思ったからだ。

『READING LIFEの提供』、つまりは、本の先の体験の提供をコンセプトに掲げている天狼院書店では、数ヶ月に渡って行われるゼミというものや、部活というもの、更には著者の方を招いてのイベントなどを日々行っている。ライティング、カメラ、英語、演劇、小説などなど、内容は多岐にわたるけれど、僕が転職した当時、アートに関するモノはほとんどなかった。

 
そういったものが出来れば良いな、とぼんやりと考えながらも、すぐに実現できるはずはなかった。全く異業種からの転職に戸惑いながら、書店業務を行ったり、メール等お客様対応を地道に行う日々が半年ほど続いた、とある日のことだった。

「永井さん、アート好きでしたよね! このイベントやってみませんか?」

同僚から、1つの本を手渡された。

黄色い表紙が印象的なその本のタイトルは、『シェアする美術 森美術館のSNSマーケティング』
森美術館と言えば、六本木ヒルズにある、現代美術にまつわる展覧会を開催しているところで、僕自身、よく通っているところだった。そんな森美術館とお近づきになれるなら! と、下心たっぷりで、2つ返事で『やります!』と答えた。

初めてのイベントの企画・運営に戸惑いながらも、出版社さん、同僚、そしてアルバイトスタッフまで含めて集客に協力してくれたおかげで、集客は順調に伸びていった。最初は、上限30名の店舗で行う予定が軽々とその人数を超えてしまい、会場を変更せざるを得なかった。それにも関わらず更に申し込みは増え続け、変更した会場先でさえ収まらないのではないか、そんな不安を感じるほど、申込みの連絡は、途絶えなかった。

2019年8月30日イベント当日。79名もの方に、ご参加頂いた。同僚からも、「こんなに集まったイベントは久々です!」と言ってもらえた。出版社さん、著者の洞田貫さんからも感謝の言葉を頂き、順調にイベントは進行した。天狼院書店のイベントに参加したことがある人が2〜3割。それ以外は、天狼院書店を知ること自体、このイベントが初めてということだった。
日本の美術館の中でナンバーワンのフォロワーを誇る森美術館の、SNSの活用法について、79名もの人たちが、熱心に聞き入っている。
その姿を後ろから見て、夢が実現された! と、心の中で僕は歓喜していた。就職活動時代から考えると、10年越しの夢が、実現されたのだ。
盛況の内に会が終了し、顔なじみのお客様たちからも口々に、『良かったね』『面白かったよ』と言ってもらえ、社長からも、『よくやった』と言ってもらえた。
目頭が、熱くなった。
 
以降、これまで、アートにまつわるイベントを、3つ、開催させてもらった。

2020年2月1日には、アートをより深く知るキッカケになったビジネス書著者、山口周さんをゲストにお招きし、尾原和啓さんの書籍、『アルゴリズムフェアネス』の発刊記念イベントを開催させて頂いた。61名もの人にご参加頂いた。
続く2月21日には、東京藝術大学教授の秋元雄史さんをお招きし、著書『アート思考』のイベントを開催した。67名の方にご参加頂いた。
そして5月16日開催、『13歳からのアート思考』イベントでは、時節柄オンライン限定とはなったものの66名の方にご参加頂いた。

どれもこれも、僕が夢に見ていた、『アート』にまつわるイベントだった。終了後、お客様からはお喜びの声を頂いた。その声が新たな動力源となって、次のイベントにつながるイベントを探す、モチベーションになった。

もっともっと、もっともっと、『アート』に関するイベントをやりたい! 『アート』の面白さを伝えていきたい!!

 
そう思っていた矢先に見たその告知ツイートは、僕の心に冷や水を浴びせた。

美術館が行うものはもちろん、書店で行うもの、様々なグループで行うものなど、アートにまつわるイベントの情報を見かける度、ワクワクしていた。うらやましく思っていた。時に、どうしてこのイベントが天狼院書店では出来ないのかと、嫉妬することもあった。

それだけ、アートにまつわるイベントをやりたいと、思っていたはずだった。

それなのに、このイベントには、まるで興味がわかなかった。アートとエコロジー、社会性もある内容で、関連する本も、美術好きの中では有名なものだった。

『アート』に関連するはずのものなのに、どうして興味が湧かないのか。

 
「どんな仕事をしたいかじゃなくて、『何をやりたいか』考えてみたら良いんじゃないかな?」

そんなことを考えている中でたどり着いたのは意外にも、昔の自分だった。
前職時代、新卒採用に関して中小企業向けにコンサルタントをする企業に務めていた僕は、その職業柄、就職活動中の大学生の悩みを聞くことも多かった。

「やりたいことがわからない」
「志望業種が絞れない」
などなど、就職活動中にも関わらず、やりたいことがわからず、路頭に迷っている学生は多かった。何がやりたいのかもよくわからずに就職活動をスタートし、なんとなく志望業界を絞ったは良いものの、途中で、『本当にやりたいことは違った!』と気づいてタイミングを逃したり、就職活動自体はうまく行ったとしても働き始めた後にミスマッチに気づき早々に会社をやめてしまう人も多く、当時は、入社3年以内の離職率が40%に迫るとも言われていた状況だった。

そんな学生に向けて僕はよく、こう伝えていた。

「例えば今キミが、出版業界を志望しているとするよね。じゃあなんで、出版業界を志望しているのか、深く考えてみたら良いと思うよ。『本が好き』っていう理由だったら、出版じゃなくて、書店でも良いわけだよね? もしくは、本を通して『誰かを喜ばせたい』『人の笑顔が見たい』っていうのが理由だったら、イベント関係の仕事でも良いだろうし、もしかしたら接客業でも良いかもしれないよね。そんな風に、『なんで』その業界を志望するのか考えてみたら、就職活動をする業界の幅も広がるだろうし、ミスマッチも減るかもしれないね」

新卒採用の専門家、という立場もあっただろうけれど、僕の話を聞いた就活生たちは、一様に納得した表情を見せてくれていた。

 
その問いが、数年の時を超えて自分に向けられたのだと、思ったのだ。

確かに僕は、「アートに関するイベントをやりたい」と言った。そしてその夢が、叶った。これからも、続けていきたいと思っている。
でもそれなのに、他社で行われている、若干専門性の高そうなイベントは、やりたいと思わなかった。興味が、わかなかった。

その違いは、何なのか。

興味がわかなかったイベントは、ちょっと専門性が高そうで、敷居が高いような印象があった(もちろん詳しくは知らないので、あくまで印象ではあるのだけれど)。言ってしまえば、排他的な空気を感じた。

それに比べて、今までやってきたイベントはどうだったかと、過去の光景を、思い浮かべる。
本をキッカケに、著者とお客様がつながり、1つの空間、もしくは時間の中に集まる。同じ空気感を共有し、学び、つながる。
イベントをキッカケに、天狼院書店を知らなかったお客さんが初めて天狼院のことを知り、つながる。
イベントをキッカケに興味を持ち、美術館や展覧会とつながり、実際に足を運ぶこともあるだろう。

そうだ、『つながり』がキーワードなのだと、ここまで考えてみてようやく気づいたのだ。

『アート』という大枠の中で何をやりたいのか、およそ1年、様々なイベントを通して試行錯誤してみて、ようやくわかった。

ただただ純粋に、『アート』について伝えることが、僕にとっての目的ではないのだ。
『アート』を通して、人と人、もしくは人とモノ、人と空間や人と作品などなど、何かと何かが『つながってほしい』というのが、僕の願いだと気づいたのだ。

だから、その『つながり』というイメージが乏しそうな、専門的な印象を受けるイベントには、興味が湧かなかった。

僕が、『アート』というキーワードを通して、天狼院やお客様、そしてイベントを通じて知り合うことの出来た著者の方、出版社の方、来場いただいた方々と『つながる』ことが出来たのとの同じように、『アート』を通して、『つながり』が生まれてほしい、それが結局の所、僕のやりたいことだと、気づいたのだ。

『アートに関する仕事がやりたい』
その気持が見つかった時、1つのゴールに辿り着いたような気がしていた。その後、様々なイベントを通して、この思いは間違っていなかった、とも思っていた。

でも、ちょっと違ったのだ。
就活生に僕がアドバイスをしたように、『アート』というキーワードは、ただの方向性に過ぎない。なぜ、どうして、『アート』を選んだのか、もっと深堀りして考えなければ、いけなかったのだ。

この道が、自分にとって最良の選択なのかどうか、それはわからない。

でも答えが見えたことで、チラチラと視界に映り込むかのようにあった不安や迷いが、消えたような気がするのだ。

ただ、『やりたい』と思い続けるだけでは、気づけなかった。実際に、様々なイベントをやってみてこそ、気づくことがあるのだ。

『なぜ』この仕事を、イベントをやろうと思ったのか。
そのことを、自信を持って伝えられるならもう、何も怖いことはない。

そして今度、自信を持って、新たなアート系イベントを開催する。
是非皆さんにも、参加していただきたい。


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