チーム天狼院

妖怪コウメがやって来た


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妖怪コウメがやって来た

記事:中村雪絵(チーム天狼院)

先輩から来るよ来るよとは聞いていた。

でも、私のところにだけは来ないと思っていた。

しかし例に漏れず、奴は現れた。

 

「イーヒッヒッヒッ。雪絵ちゃーん。子供産まないの? コウメー」

 

奴の名前は妖怪コウメ。

子供を産めと、ことあるごとに言ってくる妖怪だ。

女性ホルモンが生み出した、世にも恐ろしい妖怪である。

ちなみに、奴の姿は、子供のいない一部の女性にしか見えない。

 

「雪絵ちゃーん。とっとと婚活しなよ。そしたら子供早く産めるかもよー。コウメー」

「ああもうコウメコウメうるさい!!」

 

私は布団をかぶり、コウメの言葉に耳を貸さないようにする。

私には夢がある。

成し遂げなければならないことがいっぱいある。

仕事だってある。

子供は好きだけど、今はその時期ではない。

 

「でも子供を産める時期は限られているんだよー。コウメー」

「うるさい!!」

 

どんな隙にもコウメは入り込んでくる。

 

最初のほうは、よその子供と触れ合ったときとか結婚式に出席したときくらいしか現れなかったのに、コウメの出現率は日を追うごとに高くなっていった。

 

そのうちその出現率は毎日になり、やがて私の隣には、常にコウメがいるようになった。そうなってくると、私もコウメに話しかけたりするようになっていた。

 

「ねぇ、コウメ。私、子供産まないのかな」

「イーヒッヒッヒッ。今から行動すればまだ間に合うよ。コウメー」

「いや、まだ産まないけど。将来的にね」

「将来って言っても雪絵ちゃんもうすぐ33歳じゃん。将来とかないって。とにかく遺伝子残そうよ。コウメー」

「ほんとうるさいわ!!」

 

また私は布団をかぶる。

わかっている。子供を生む選択をするのなら、今すぐ動いたほうがいい。

 

でも、子供を産んだら、私の夢は、仕事は一体どうなるのか。

今まで一生懸命やってきたことを中途半端にはしたくない。

でも、でも……。

 

「子供産みたいんでしょ? コウメー」

「うるさいよもう……」

 

自分の気持ちがわからない。

いや、気持ちなんてものは越えた感情なのか。

子供を産みたいっていう衝動って、なんなんだろう。

今はそれほど必要だと思ってないのに。

 

「きっと後悔するよ? コウメー」

「いつかは産むから」

「それっていつ? 本当に産みたいときに産めなかったらどうするの? コウメー」

 

本当に産みたい時?

それはいつなんだろう。

産みたいって、なんなんだろう。

ただただ焦る。

そんな私につけ込むようにコウメは喋り続ける。

 

「怖いよね。子供がいなかったら死ぬ時一人になっちゃうかもしれないもんね? 仕事も不安だし、夢だって叶うかどうかわからないんでしょ?
それに、親に孫の顔見せたいじゃん。それが務めじゃん。子供を持てばだいたい解決すると思うよ? コウメー」

 

コウメはしたり顔で私の表情を覗き込む。

「勝った!」とでもいいたげな顔だ。しかしこの言葉で私は無性に腹が立った。

 

「子供を持てば解決するってどういうこと?」

「え、急にどうしたの? コウメー」

「自分の不安を解消するために子供を持つっていうのは違うでしょ!」

 

私は思わず声を荒げた。

するとコウメは少し驚いたような顔をして

 

「そうなんだ」

 

と言った。語尾にコウメーとつけなかった。

 

「イーヒッヒッヒッ! また来るね!」

 

コウメは、けたたましく笑うといつの間にか消えていた。

するとなんとなく、今までの不安や苛立ちが少し薄れた気がした。

久しぶりにクリアになった頭で考える。

 

子供を産むことは尊いことだと思うし、

いつまでも産めるというわけではないのかもしれないけれど、

やっぱり今じゃない。

とにかく、今が不安だから子供を産みたいという選択だけは違うと思う。

数年後後悔するかもしれないけれど、

私はまだコウメの言うことを聞かないことにした。

 

そして後日、本当にこれでよかったのか、コウメのことを教えてくれた先輩に聞いてみた。

 

「あ、コウメ、アンタのとこにも来てたんだー。そっか。でもアンタそれで正解よ。コウメは怖いからね。しっかりしてないと判断誤らせてくるからねー」

 

先輩は笑いながらさらにこう続ける。

 

「まぁ『子供を産みたい』っていうのは、本能だからね。本能は強いよ。でもそれだけに引っ張られすぎるのは良くないと思うの。
今はいろんな選択肢があるし、最終的に子供を産まなかったとしても、社会に何も残せないわけじゃない。産んだって産まなくたっていいの。
自分の生き方があればそれでいいのよ。……こんなふうに思えてからは私のところにコウメは来ないね」

 

私はまだここまでしっかり言い切れないのだけれど、私のところにもすっかりコウメは来なくなった。

よその子供と遊んでも、結婚式に出席しても、コウメは来ない。

 

だがしかし、あなたのところには来るのかもしれない。

 

奴の名前は妖怪コウメ。

子供を産めと、ことあるごとに言ってくる妖怪だ。

女性ホルモンが生み出した、世にも恐ろしい妖怪である。

ちなみに、奴の姿は、子供のいない一部の女性にしか見えない。

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