チーム天狼院

女子大生三宅香帆、「京都天狼院」店長に就任しました。~「太閤記・下」解答編~《三宅のはんなり妄想記》

image1-2


※「太閤記」暗号編のつづきですっ

※前半戦のあらすじは……えーとえーと謎の暗号解読を頼まれたけど解けな~いってなものでした、そのままお読みくださいなー!!!

そんな風に私が暗号の整理をするうち、いきなり、書物を読んでいたちゆ乃さんが

「あ……!」

と声をあげられたのです。

「なっなにかわかりましたか!」

思わず私が身を乗り出すと、ちゆ乃さんはなにやら紙に文字を書き連ねます。

すると、そこには

おおたぎゆういち

という文字が書かれたのです!

おおたぎゅういち……太田、牛一さま……というと、『信長公記』や『太閤様軍記の内』を小瀬甫庵さまの前にお書きになった、ある種小瀬さまのライバル的なお方のはずです!なぜこの方のお名前を遺言に?というかこの方を頼れということなのでしょうか…??

ちゆ乃さんは戸惑いながらも、

「太田牛一さまは、実は父と生前親交があったお方です……もう亡くなられたはずですが、一応太田さまのお家は存じ上げております……向かって、みます、か」

そうおっしゃったので、私も着いていくことにしたのでした。

 

道中、どうやってその暗号が解けたのかを、少し自信なさげにちゆ乃さんは教えてくださいました。

「書物を読み進めてくうちに……父上が、昔教えてくださった『上杉暗号』というものを思い出したのです」

書物の中で代用法の説明を読んでいたときに思い出して、と小さな声でちゆ乃さんは続けられます。

「上杉暗号というのは、上杉謙信さまのご家臣、宇佐美定行さまが記された『武経要略』に書かれているのですけれど……いろはを7マス四方の表に入れ、縦と横に数字を割り振り、いろはに対応する数字で暗号化するのです。たとえば「壱壱」だと、いろはの最初の「い」、「壱弐」だと次の「ろ」になってゆくという方式で」

なるほどっ、上杉さまのご家臣が出された兵書に書かれている暗号ならば、確かに甫庵さまが知っててもおかしくはありません!私は感動してしまいました。

し、しかしこんな暗号が日本の戦国時代からあったなんて、奥が深いです、暗号文化……。私がそんな感慨にふけっているうちに、「ここです……」と、ちゆ乃さんは緊張した面持ちで、ある家の前で止まられたのです。

 

ためらいがちにちゆ乃さんが太田さまのお家の戸を叩くと、すっと背の高い、若い男の方が出てきました。

そして、ちゆ乃さんを見るなり、その方は微笑んだのです。

「やっと、来れたんですね」

一息おいて、その方は言いました。

「……小瀬甫庵さん」

―――――――――――――――――――――え?

小瀬甫庵、は、お嬢さんのお父様のペンネームでは?私がそう思ったのをわかったのでしょう、ちゆ乃さんは私の方を振り向いて言いました。

 

「黙ってて、ごめんなさい……『信長記』を書いた小瀬甫庵は、ほんとは、私、なんです」

 

え。

えええええええええええ!?と混乱する私をなだめつつ、その方は、とりあえず中へ、とおっしゃってくれました。

 

 

その若い男の方は、太田牛一さまの息子さんでした。既に他界されたお父上の著作の管理も含めて、今は息子さんが家を継がれているようです。

太田さまのお出ししてくれたお茶をすすって落ち着いた私に、ちゆ乃さんは、ぽつりぽつりと事情を説明してくれました。

「医学書などを出版してたのは父なんです、『小瀬甫庵』って号で。私も少し執筆を手伝ったりしてて、それだけで楽しくて……でも、あるとき、父の友人である太田さまの『信長記』を読んで」

小さい頃から、織田信長さまの話や武勇伝は父からずっと聞いてたから、事実の羅列のような、太田さまの描く信長さまに物足りなさを感じてしまって。小さな声で、そう申し訳なさそうにおっしゃるちゆ乃さんに、太田さまは苦笑いをされます。

「書物は好きでしたし……ずっと何かを書く父を見てたのもあって、私の思う信長さま像を私も書いてみたくなって……。そしたら書いてくうちに面白くなって、結局最後まで書いてしまって」

ちゆ乃さんは、いつも以上に頭をもたげ、深くうつむきます。

「それが……信長公記、ってことですか」私が聞くと、ちゆ乃さんは小さな拳をきゅっと握られます。

「だけど、それを、父は『小瀬甫庵』名義で出したんです」

ああ、書いちゃいけないのかな、って思いました、と震える声で、静かにちゆ乃さんはおっしゃいました。

「私の書くものなんて面白くないし、第一、武将の物語なんて女の書くものじゃないですよね」

でも、とおっしゃって、ちゆ乃さんはぐっと前を向かれたのです。

私は、その顔を見て、ハッとしてしまいました。今まで見たことのない、はっきりとした意志がそこにあったからです。

「書きたいんです」

見開かれた目には、涙が溜まっていました。

「書かずには、いられなくて。書くの、楽しくて」

父の言うことはわかるんですけれど……そうおっしゃって、ちゆ乃さんはまた顔を下げられてしまいました。

すると、そんな、と私が言う前に、太田さまが口を開かれたのです。

「あなたのお父様は、あなたの書くものをとても好きでしたよ」

ちゆ乃さんは、信じられないことでも聞いたかのように、ばっと顔を上げられました。太田さまは、穏やかな顔で続けられます。

「うちの娘がこんな面白いものを書いたんだ、天才だ、って言いながら、うちの父のもとへ甫庵さんが来ていたのを私は覚えています。ぜひこの物語を世に出したいんだ、たくさんの人に読んでもらいたいんだ、出版のやり方を教えてくれ、って言っていました」

だけど同時に、と太田さまはおっしゃいます。

「これを娘名義で出しても、女が書くなんて、とか、事実に基づいてない、とか、きっと賛否両論あるだろう、内気な娘がその評判に耐えられるとは思えない、ということも心配されていました。だから自分名義で出すことにされたんです、お父上は」

そして、そうっと、太田さまはちゆ乃さんの頭を撫でられました。

「あなたのお父上は、あなたの書くものを好きだったんですよ。だからこそ、守りたかったんだと思います」

太田さまの着物をきゅっとつかみ、ちゆ乃さんは、震える声で「まもりたかった……?」と、呟かれました。

「賭けをする、とおっしゃってました。

あの娘にとって、書くという行為が幸せにつながるのか分からない。書くと批判もあるだろうし、書物などに深く関わらず、どこか嫁に行ったところで粛々と過ごすことが幸せなのかもしれない。だが、自分はあの物語が、あの娘の書くものが好きだ、これからも書いてほしい、だから自分の教えた暗号解読法のことを思い出して、暗号を解くことができて、ここへ来ることがあれば、書き続けてほしいと伝えてくれ、と……。私の父が亡くなった後、うちに来て、私にそう頼まれました」

太田さまの言葉を聞きながら、ちゆ乃さんの目からは、ぽたんぽたんと水滴がこぼれ落ちていました。

「暗号にしてしまったのが、甫庵さんらしいといえばらしいですが。あなたと、お父上はよく似てらっしゃる」

ちゆ乃さんは、大粒の涙をぽろぽろ流されます。

「うまく口で話して伝えるのが、苦手で。だからきっと、ほんとうに大切なことは、紙に、誰かに、託すんでしょう?」

すると、うわあああ、と子どものような泣き声をあげながら、ちゆ乃さんは太田さまの胸にしがみつきました。太田さまは、少し困ったような、照れたようなお顔で、ぽん、ぽん、とちゆ乃さんの頭を撫でておりました。

「あなたの信長記を読んで、思いましたよ。あなたはきっと、こんなにたくさん、言いたいことがあったんだろうなぁって」

 

 

……………えーとえーとえーーーとっ。お二人のお話と小瀬さまたちの親子愛には感動したのですが、私はどうにももぞもぞしてしまいます。ここに私がいるのは、おじゃまというもの…ですね?ちょっと照れながら私が、どうしよっかな、と思ったときでした。

 

ふっと意識が遠のいた気がして、次の瞬間気がつくと、京都天狼院に、いたのです……。

 

う、わぁ、ベストタイミング………ま、まったくもーう。やれやれお二人に当てられました、と思いながら、ほっこりあたたかいものが胸に広がっているのを感じました。思わず私は微笑みながら、こたつの上の『太閤記』をもう一度撫でてしまいます。

あのあとちゆ乃さんはまた小瀬甫庵名義で、『太閤記』を出版されたのでしょうか。きっとうまくしゃべれないちゆ乃さんの代わりに、太田さまが段取りをしてくれたのではないでしょうか。

そして私の指が、『太閤記』の表紙の『小瀬甫庵』という文字を撫でたとき、私は「あ」と声をあげてしまいました。

「ちゆの」―――いろは歌で、3文字ずらせば―――「ほあむ」……つまり「ほあん」です。

「甫庵」というのは号といい、いわゆるペンネームのようなものです。甫庵さんの仕掛けたささやかな暗号。最初からヒントはあったのですね……解けませんでしたが。誰もいない京都天狼院で私はひとり苦笑し、心の中でひそかな敗北宣言を申し上げてしまいました。

まぁいいでしょう、冬は、おこたで推理小説でも読んで「そういう仕掛けか~まいった~~」なぁんて言うのが、一番幸せなんですから。

 

窓を見ると、雪がちらついております。寒いはずですね。

 

年末ですし、寒いですし。そんな日にこそ、みなさんの心にも、どうか、あたたかい物語が届きますように。

 

 

ここは天狼院書店「京都天狼院」。

なかなかお客様もいらっしゃいませんし、お酒と本と甘いものを堪能する、というぬくぬく贅沢を味わいたくなったら、一度立ち寄って頂ければ私はとっても嬉しく思います。

寒いのが苦手な方も、そうでない方も。ほっこりあったかい気分の方も、そうでない方も。みなさんいつでもお越し下さい。

今年もお世話になりました、来年もどうぞよろしくお願い致します。

 

それではまた、ごめんやす。

 

※このお話はたいへんにフィクションです。いろいろもーしわけございませんでしたっ!

 

【追伸:京都天狼院・三宅本日のおすすめ本】

《暗号モノを楽しみたいあなたに!》

・『暗号解読』(サイモン・シン)

・『猿丸幻視行』(井沢元彦)

・『茶色の服の男』(アガサ・クリスティ)

・『踊る夜光怪人‐名探偵夢水清志郎事件ノート‐』(はやみねかおる)

 

 

【天狼院書店へのお問い合わせ】

TEL:03-6914-3618

【天狼院公式Facebookページ】 天狼院公式Facebookページでは様々な情報を配信しております。下のボックス内で「いいね!」をして頂くだけでイベント情報や記事更新の情報、Facebookページオリジナルコンテンツがご覧いただけるようになります。イベントの参加申し込みもこちらが便利です。
天狼院への行き方詳細はこちら

 


2014-12-30 | Posted in チーム天狼院, 京都天狼院, 記事

関連記事