チーム天狼院

ここにいたという爪痕を、ただこの場所に残したいだけかもしれない。


*この記事は、「ライティング・ゼミ」を受講したスタッフが書いたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:斉藤萌里(チーム天狼院)
 
 
私がこうして日々何かを書いているのには理由がある。
単純に文章を書くことが好きだから、というだけじゃない。
書くことで、自分の中にある考えを整理して心を平穏に保つためだというのもある。
 
だけど一番は、私は死ぬのが怖いからだ。
 
死んだらどうなるんだろう。
幼いころから、ふとした瞬間にそう思うことがある。
物語の中で人の死に触れたり、ニュースで見知らぬ誰かの死の知らせを聞いたりしたとき。
たぶん、多くの人が一度は考えたことがあるだろう。
しかしなぜだか、そういうシーンに限らず、もう一つ、いつも死を思い浮かべてしまう瞬間があった。
理科の授業中のことだ。
本格的に理科を習うのは中高生だが、小学校でも理科は必修科目。生物、化学、地学など理科にもいろんな項目があるが、私が死について考えるのは「天体」の授業中だった。
 
「地球はいつか、太陽にのまれてしまいます」
 
水金地火木土天海。
太陽系について初めて勉強したのはまだ小学生のときだ。
水金地火木土天海。
太陽から近い順。冥王星は、最近太陽系から外されたらしい。
だから、水金地火木土天海。
地球は、三番目に太陽に近い惑星。
 
「地球はいつか、太陽にのまれてしまいます」
 
先生が放った言葉に、私たち生徒は絶句した。
地球が太陽にのまれる?
そんなこと、本当にあるの。
本当に。
怖かった。
想像するとぞっとして、鳥肌が立った。
私と同じように恐怖を感じた生徒はどれくらいいたのだろう。
 
「もちろん、そんなことが起こるのはずっと先で、みなさんが死んでからの話です」
 
なーんだ、それならいいや。
と思ったのも束の間、「みなさんが死んでから」という言葉にまた怯えていた。
死んだら、どうなるんだろう。
私の意識は無になって、魂だけ、この世のどこかを彷徨うのだろうか。
地球が太陽にのまれるまでは、空から皆のことを見守るのかもしれない。でも、地球がなくなったら? 魂はどうなるんだろう。
 
疑問が疑問を呼び、ぐるぐる、ぐるぐる。
最後にたどり着くのは、「死ぬのがこわい」ということだけだ。
死んだら、誰かに覚えてもらえるんだろうか。
覚えてもらったとしてもせいぜい自分の子や孫までだろう。
それ以外の人にはすっかり忘れ去られる。
自分がいたことは、綺麗すっぱりなかったことになってしまうんだ。
 
考えれば考えるほど、呼吸が乱れて、発作のような症状が起きた。
でもそのたびに「まだ11歳だから大丈夫」と気持ちを落ち着かせる。
そんなことが、何度もあった。
中学でまた天体の授業に出ているときもそうだった。
太陽系の勉強をしていると必ず行き着く「地球の終わり」。
考えてしまう、地球の死、自分の死。
いやだ。怖い。死にたくない。生きたい。
何かの本に書いてあったけれど、私のように「自分の死への恐怖から発作が起きる」というのは「死恐怖症」というらしい。「タナトフォビア」というかっこいい呼び名までついている。
特徴は、「自分の死」への恐怖。
他人の死を考えても起こらない発作が、自分の死について考える場合にのみ、恐怖を覚えて発作が起きるというものだ。
夜、なかなか眠れない日が続くと、この発作は止まらなくなる。
不眠症が続き、布団に入ってから数時間眠れない日がよくあった。
そんな時、理科の授業で教わった地球と太陽の関係を思い出して、行き着く先が必ず自分の死だった。
 
私は死ぬのが怖かった。
自分が死んで、世間に忘れ去られてしまうのが。
有名人でもない限り、ほとんどの人がそうなるのだ。
どうしたらいいんだろう。
死そのものが、どうにもならないというのは分かってる。
でも、忘れられずに済む方法は、あるんじゃないか。
 
考えに考えた結果、私はこうして文章を書いている。
私の身体自体、いずれは消えてしまうのかもしれないけれど、自分の考えていたことだけは残ってくれたら。
安易な答えだけれど、私にできるのはそれくらいしかない。
人によっては、文を書くだけじゃなくて、絵を描くとか音楽にして残すとか、やり方はいろいろある。
けれど、その全てにおいて、天狼院書店というこの場所はふさわしい。
思っていること、感じていること、やりたいことがあるのなら、この場所で試していい。
自分の爪痕を残したいなら、精一杯力を発揮すればいい。
そういう風潮の場所だからこそ、私はここにいる。
 
文章を書きたいなら書いていいよって。
その代わり、ちゃんと書いてよって。
ちゃんと「読まれる」文章を書きなさいって。
 
ここにいる人たちに、そう言われている気がした。
 
私と同じような人はいるんだろうか。
死ぬのが怖いというのはありふれた感情だけれど、あまり表には出せない。
あまりに当たり前すぎて、そんなの皆思ってるって、笑い飛ばされるかもしれない。
そう思う。
もし、死ぬのが怖いと感じて、何かしたくてどうしようもなくて、自分が生きた証拠を残したいという人がいるなら、天狼院に来てほしい。
お客さんとしてでもいいし、働きに来てくれてもいい。
 
皆でこの場所を引っ掻いて、残そう。
ここにいたという爪痕を。
 
 
 
 
***

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2020-05-22 | Posted in チーム天狼院, チーム天狼院, 記事

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