「今日は”自由”の持ち合わせがない」なんて言っている僕は現在リハビリ中です。
天狼院書店店主の三浦でございます。
今、天狼院では、こんな会話が飛び交っています。
「”自由”さえあればさ、全ての夢は計画通りに実現するんだけどな、もうひと踏ん張りだよね」
「ああ、これ、欲しいんですけどね、”自由”が足りないんですよね。この前、旅行に行ってきて”自由”使っちゃったから」
「時間の問題だと思うよ、”自由”が怒涛のように押し寄せてくるのは。そしたら、面白くなるよね」
「ちゃんと、”自由”は確保したほうがいい。遠慮することなんてない」
なんだか、とても高尚な会話になってますよね。意識が高いというか、何というか。
しかし、どこか、おかしいような笑。
実は、これ、ある言葉を「自由」に置き換えているんですが、わかりますでしょうか。
ロシア文学が好きな方なら、あるいはピンと来たかも知れません。
または、木暮太一さんの本が好きな方なら、「ああ、あのことね!」とお分かりかも知れません。
答えは、「お金」です。「お金」という言葉を意識的に「自由」という言葉に置き換えているのです。
あれは、二、三年前のことだったろうと思います。
そのときはきっと渋谷で何かの仕事をしていて、その帰りだったと記憶しております。
僕の盟友にして、SPECIALな編集者柿内芳文さんが何かの話の流れでこう言いました。
「ドストエフスキーは、お金は鋳造された自由って表現しているんですよ」
お金は鋳造された自由。
この言葉があまりに衝撃で、ずいぶん、脳裏に鮮明に残っておりました。
もし、お金が「鋳造された自由」であるならば、世の中の見方が大きく変わるように思えます。
「お金にうるさいやつ」というと、なんだか嫌な感じですが、これを置き換えるとちょっと違ってくる。
「自由にうるさいやつ」
悪くない。下手すると、かっこいい。
逆に「お金に無頓着なやつ」は、ちょっとかっこいい文脈で使われますが、これを置き換えるとちょっと違ってくる。
「自由に無頓着なやつ」
奴隷ですか、って話になりますよね。
「お金のことはきっちりしといたほうがいい」というと、なんだか、遺産相続のときに骨肉の争いで使われるようなドロドロの始まるフィナーレにも聞こえますが、「自由のことはきっちりしといたほうがいい」というと、そうですよね、確かに、というふうになる。
「お金のことが苦手なんです」というと、なんだかかっこよく聞こえますが、「自由のことが苦手なんです」となると急に残念なひとになります。
「全ては金のためだよ」といえば、なんだか金の亡者みたいに聞こえるけれども、「全ては自由のためだよ」といえば、革命のリーダーっぽくなる。
そもそも、「金の亡者」という言葉もおかしい。これを「自由の亡者」といえば、なんだか、詩的だ。
「おれは、金のことでとやかく言うつもりはないね」といえば、なんだか粋なようにも聞こえますが、「おれは、自由のことでとやかく言うつもりはないね」といえば、おい、言っとけよ、という風になります、きっと。
そう考えていくと、我々は、とてつもなく巧妙に洗脳されていることに気づきます。
「秘密結社ラボ」的な流れになって参りましたね笑。
上の例でも分かるように、我々は「お金」=「汚いもの」と洗脳されてきています。それはもう巧みに、長時間かけて洗脳されてきています。
つまり、「お金」が「汚いもの」でなければまずい人が多くいたということです。
それでは、いったい、「お金」が「汚いもの」でなければまずい人とは誰のことでしょう?
まず考えられるのが、既得権益層でしょう。簡単にいえば、今すでにお金をたくさん持っている人たち。
不思議なもので、我々は巧妙に洗脳されていますから、「今すでにお金をたくさん持っている人たち」と聞くと、「ああ、金持ちね」となぜか、意識のどこかで変な見下しが入ります。
ところが、ドストエフスキーが言うように「お金は鋳造された自由」だとすれば、認識が変わりますよね。
既得権益層とは「今すでに自由をたくさん持っている人たち」。
もし、自分がお金がない、つまりは「自由がない」のだとすれば、必死で奪わなければならないとマインドチェンジするかも知れません。
つまり、既得権益層にとって、そうでない人たちに「お金」は「汚いもの」だと認識してもらっていたほうがより安全ということになります。
次に「お金」が「汚いもの」でなければまずい人として考えられるのが、皮肉なことに「お金を持っていない人」です。
どんな物語でも普通に登場するシーンですが、
「うちはどうして貧乏なの?」
と、子どもに言われた時に、それに答える父親はこう言うでしょう。
「世の中、お金がすべてじゃないんだよ。お金よりももっと大切なものがある」
その貧乏な父親にとって、お金よりももっと大切なものがないと困るからです。
子どもにできれば「お金」が「汚いもの」だと思ってもらわないと、自分が敗者だと認めることになります。
子にとって、父親が敗者だと認識することは、きっと不幸なことです。
もし「お金」が「汚いもの」であれば、相対的な幸福度はどうであれば、その家族としての絶対的な幸福度はなんとか保たれることになります。
つまり、「お金の汚物化」においてはは「既得権益層」と「お金を持っていない人」が共犯関係であると言えるのではないでしょうか。
この洗脳は、とても古くから日本では行われていたことで、「武士は食わねど高楊枝」といいますが、あれがまさにいい例で、江戸時代、『蔦屋』の著者の谷津矢車さんに聞くと、下手な武士よりも百姓の方がはるかに富んでいたといいます。
これは給料が「米」で支払われていたのが原因であって、たとえば武士で50石と決まっていたら、毎年50石しかもらえない。けれども、米には相場というものがあって、去年それがたとえば10,000円で売れていたとしても、豊作の年などで米の相場が下がれば、今年は5,000円にしかならないかも知れません。
一方、百姓は決まった年貢を納めれば、あとは自分たちが好きなようにできたわけなので、副業で野菜を作ったり、わらじを編んだり、紅花や他の特産物を作れば、それがプラスの収入になったわけです。
ようするに、鎖国して経済が封鎖されていて、経済の拡大がほとんど望めなかった江戸時代の武士は、他の時期や他の国の封建領主よりもはるかに貧しかったということになります。
つまり、さきほどの貧乏人の親子の論理と同様に「お金よりもはるかに大切なものがある」と考えなければ、到底、やっていけなかったわけです。
それが、恥であったり、武士道だったりするわけで、その流れで、きっと「清貧」なぞといった恐ろしい言葉も生まれたのだろうと思います。
もし、ドストエフスキーがいうように「お金が鋳造された自由」だとすれば、「清貧」とは何でしょうか。
直訳すると「自由を失って清らかな状態」ということになりましょう。
ある種の開き直りでしょうか。
一方で、「LESS IS MORE」という論点、つまりは「少ないことはいいことだ」ということも、真実だと思うのです。
なぜなら、たとえば「鋳造された自由」が100億円あったとしても、自分の短い人生で使い切ることは不可能だからです。いや、物理的に使い切ることはできても、使い切る意味がないと思うのです。
何かの雑誌で読んだのですが、人間は年収が600万円に増えていく段階においては、それに比例して幸福度が増えていくそうです。けれども、それ以上になっても、幸福度はそれほど増えていかなくなる。
その理由は明白でしょう。お金があったとしても、それを使う時間に限りがあるからです。
たとえば、月収で100万円あれば、きっとたいていのことはできるでしょう。年収にして1200万円。
結構立派なところに住んで、毎年、海外旅行にも家族で行けるだろうと思います。
年収1200万円の世界と、年収2億円の世界は、そんなに幸福度に差がないのかも知れません。
それは、「鋳造された自由」を使い切るための、タイムリミットがあるからでしょう。
まとめると、こういうことになりましょうか。
まずは「お金」は「汚いもの」という巧妙な洗脳から意図して抜け出す必要があります。
僕はそのためのリハビリとして、意識的に「お金」を「自由」という言葉に置き換えて使っています。
冒頭の例が、まさにそうです。
これが案外、効果があります。
僕は徹底して「お金」は「汚いもの」と洗脳されてきた人間なので、たとえば、起業当初、請求書を送るのがとても嫌でした。汚いことをしているように、どこかで思えたのです。
しかし、相応の「自由」をもらうためだとすれば、躊躇する理由はありません。
それに、この「鋳造された自由」がなければ、今から発行する雑誌「READING LIFE」の制作費は支払うことはできませんし、劇団天狼院の劇場費を払うこともできません。福岡天狼院をつくることもできない。
つまり、夢を実現するためには、多くの「鋳造された自由」が必要になります。
懸命に働き、サービスを提供し、それに見合った「自由」を受け取って行けばいい。
それが、夢の実現に繋がります。
昔、はるか先輩の80代の起業家であり実業家にこう言われたことがあります。
「お金にうるさいやつと思われない経営者は失格だよ」
その意味が今なら理解できます。
「お金にうるさいやつ」=「自由にうるさいやつ」だからです。
夢を実現するために、僕も「自由にうるさいやつ」になりたいものです。
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