チーム天狼院

天狼院書店に転職した23歳既婚の私は、社長の前で脱いだことがある。


*この記事は、「ライティング・ゼミ」を受講したスタッフが書いたものです。

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記事:斉藤萌里(チーム天狼院)

初めまして、またはお久しぶりです。
この春天狼院書店に転職という形で入社した斉藤と申します。
23歳で別の会社に就職し、結婚し、天狼院書店に転職しました。
字面だけ並べてみるととても波乱万丈な人生に見える一年でしたが、それもこれも全て私が学生時代に、このおかしな書店に出会ってしまったせいかもしれません。

今から1年〜1年半前でしょうか。就職活動が終わった大学4回生の時に京都天狼院書店でアルバイトをしておりました。
昨年、普通に新卒として別の会社に就職して働いている間、天狼院書店でアルバイトをしていた頃の記憶はまるで夢の跡だったような感覚に陥っていました。

というのも、天狼院書店での1年にも満たない時間が、23年生きてきた私の人生の記憶の中で、あまりにも濃密だったからです。
働く時間が長かった——というわけではありません。むしろシフト的には全然少ない方で、卒論制作に追われていた私は、のんびりとアルバイトを続けていました。
それなのに、どうしてでしょう。
自分でもよく、分からないのです。
天狼院書店以外にも学生時代に経験したアルバイトはいくつかあります。アルバイト以外でも、インターン生として他の会社で働いたことも。
しかしそれらのどのアルバイト・インターンでの経験と比べても、ここでの数ヶ月間が一番色濃く記憶に焼き付いている。
皆さんにも、そういう経験があるかもしれませんね。

ただ思い浮かぶ原因として、一つ考えられることを見つけました。
あれは、アルバイトを初めてまだ3ヶ月ほどしか経っていなかった時のことです。
「お客様になんておすすめしたらいいか分からないんです」
天狼院書店では本を売ったりコーヒーを売ったりするだけでなく、学びを深めるためのイベントやゼミを提供しています。
その中の一つで、最も不可思議、「というかこれ、本当にやっていいの?」と訝しがられても仕方がないサービスがあります。

それは、女性が自分の“綺麗”を見つけられるフォトサービス。
題して“秘めフォト”と呼ばれるものです。

「ああ、それなら、もえちゃんもやってみたらいいじゃん」

当時お世話になっていた社員さんに背中を押され、「お客様により伝わる説明をするために」という大義名分のもと、本当は自分自身気になっていたサービスである「秘めフォト」に参加してみることにしました。

「秘めフォト」とは、女性限定のフォトサービスで、いわゆる“セミヌード写真”を撮ってくれるというもの。初めて聞いた人には少しばかり刺激が強いかもしれません。私も、お客様に説明する際には「この話を聞いて変な店だと思われなければいいのだけれど……」と毎回ビクビクしながら説明をしていました。
しかし、そんな私の恐れも虚しく、大体のお客様は「変な店だ」と思っていることでしょう。
そう、変な店なんです。
「秘めフォト」は変なサービスだったんです。

「慣れてきたら皆脱ぐからね」
カメラマンの三浦社長にそう言われて、「まさか!」と疑わずにはいられませんでした。
だって、服を脱ぐなんて!
口にしていいのか分かりませんが、社長はどこからどう見ても男性です。
しかも、おじさんです。
「いいの……!? いいのか……?」
一緒に「秘めフォト」に参加していた私の友人や同僚も皆心の中で「うわ〜どうしよう」と困惑していたに違いありません。またお客様も、相当緊張していたと思います。「楽しみです」と言いながら、顔は笑っていなかったですもの。

小さい頃から自覚しているのですが、私は人前に出るのが苦手です。
大きな声で喋ったり演技をしたり、実を言うと接客にも苦手意識があります。
だから、そんな自分が、服を脱いで自分の何もかもをさらけ出すような「秘めフォト」を楽しめるのかどうか、正直不安でした。

「おお、その角度! きれい!!」

始まってから数分もしないうちに、カメラマン社長は慣れない仕草で撮影場所にいる私に、高すぎるテンションで褒めそやしてくれました。
まだ緊張気味だった私は、「え、絶対お世辞じゃん」とひねくれた受け止め方をする反面、単純に「褒められて嬉しく」なっていたのです。

「いいね! うわー! そこ、そのポーズ!!」

嬉しくなっていたのは、私だけじゃありません。
友人も同僚もお客様も、始まる前は堅い表情だったのに、いつの間にか笑顔が灯り、私たちと一緒に「めっちゃいい!」「きれい!」と叫んでいる。
そんな光景が、イベントの間中溢れていました。

なんだろう、この感覚。
「写真を撮ってもらう」という個人個人のイベントなのに、その場が一体となって盛り上がる感じ。
そかも、普通の写真じゃなくて、「秘め」写真です。
自分の一番見られたくないと思っているところも全て曝け出して撮られている。
正直言って、「これ以上やったらもうお嫁に行けない」というところまでは曝け出しました。
それは私だけでなく、一緒にその場にいた人やこれまで「秘めフォト」に参加した皆さんも同じだろうと思います。

この「秘めたる」瞬間を全員で共有している。
ここは、秘密を皆で共有し、喜びを分かち合う場だ。
皆がそう思っている。
皆で一つのことを思って、「楽しい」「嬉しい」と共感できたのです。

いつしか消極的だった自分も、「秘めフォト」の最中は周りの目線も顧みずに高揚していました。
この場所は、「自分になれる」場所だと思えました。
それは何も、「秘めフォト」に限った話ではありません。
お客様に本をおすすめしているとき、「ライティング・ゼミ」で文章を書いているとき、本を並べ、本にカバーをかけているとき。
HPで自分の書いた小説を連載させていただいたとき。
単純に全てが「楽しい」と思えたし、好きなものを誰かに勧めたり、それについて語ったりしているときが、一番素直に「自分だ」と感じたのです。

しかし、完全にそう思えたのは、天狼院書店でアルバイトをしていたときではありません。
周りの学生たちと同じように卒業のタイミングでアルバイトを辞め、別の会社に就職してからです。

一般の会社で私がしていた仕事は企画や市場調査で、仕事自体は好きなことでした。仕事が多くて大変だったわけでも人間関係に困っていたわけでもありません。むしろ、前職で学んだ仕事の基礎や築いた人間関係は大切で、それがなければ今の私はありません。
でも、仕事をしている中でなにか「大切なこと」が抜けていると思いました。

周りに、「本が好きな人」がいなかったのです。

本が好きな人がいないというより、「本を読みたくない」という人が多かったように思います。どちらかと言えば体育会系の人が多く、日常会話の中で本だの映画だのという話は一切出てきませんでした。
入社してからすぐにその事実に気づいたため、会社ではあまり本の話をしないようにしていました。

なるべく周囲から浮かないようにして、皆が見ているテレビを見て、皆と同じように飲み会では仕事の愚痴を言いました。本音を言うと私は仕事に対して特に文句を言いたいと思うことがなかったのですが、私よりも仕事量が多く大変な部署にいた同期の皆は、愚痴を言い合うことでストレスを発散していました。決して間違ったことではありません。どの会社でも、どのコミュニティでも上司への文句や仕事が辛いという愚痴を吐くものです。そうしなければ、やっていけないと思うから。辛さを暴露して、「俺もそう」「私も」という共感を得たい。誰だってそう思うと思うんです。

誰かの恋愛の話を永遠と聞く。仕事の愚痴を永遠と聞く。

その時間に、いつしか私は意味を見出せなくなっていました。
本当は、好きなものを共有したり、楽しみなことや目標を語ってみたりしたいし、せっかく同じテーブルを囲うのなら、前向きな時間を過ごしたいと思っていたのです。

そんな時にぼんやりと、いつも頭に思い浮かぶ光景がありました。
就職活動が終わり、卒業までの数ヶ月間過ごした天狼院書店のことです。
お客様と本の話をしたり、会ったことのない方が自分の小説を読んで会いに来てくださったり。その瞬間の興奮や嬉しかった気持ちを鮮明に思い出していました。
たった数ヶ月だったけれど、そこで得た充足感が、私をまたこの場所へと連れ戻したんだと思います。
自分が一番自分らしくいられた場所に。「ライティング・ゼミ」を受け、あまり人に話したくないような恥ずかしい話でも堂々と書けるようになるきっかけをくれた場所に。
「小説面白かったです」と直接、読者の方から声をかけていただいた場所に。
「秘めフォト」で今まで知らなかった自分を発見することができた場所に。
もちろん楽しいばかりじゃなく、お客様と上手く対話ができなくて、凹んだ日もあります。これからはもっと、自分の無力さを思い知り、落ち込む日々が続くと思います。先輩たちに、全く太刀打ちできない自分を情けないと感じる日も。
正直、どんな試練が待ち受けているのかと思うと、いまは楽しみよりも不安が募っています。自分に何ができるのか考え、実行する恐怖があります。できるかどうかの瀬戸際でもがいて、その結果溺れてしまったらどうしよう。先の恐怖に囚われて、目の前のことを見落としてしまったら。

そう思うと、とても怖いのです。

でも、それでも。

私はこの場所に戻りたいと思った自分を信じてみようと思います。
天狼院書店は、自分らしくいられる場所なんです。自分の殻を破ってくれる場所。「周りに見られている自分」や「理想に近づこうと肩意地張っている自分」から無駄な衣服を脱ぎされる場所。
時に苦手なことや不得意なことをやらなければならないこともあるでしょう。その時私は挑戦して、殻を破った自分と会うことができるのかも。そういう自分に会えたら、きっと今より自分を好きになると思います。
体育会系じゃなくても、皆が好きだというスポーツ観戦を好きになれなくても、ここでは、本を好きなままでいいのです。

自分になって、いいのです。

私だけでなく、他のスタッフだけでもなく、お客様も巻き込んで、自分らしくいたいです。

数年後、仕事が辛いと思ったら、私はこの文章を読み返すことにします。

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2020-04-07 | Posted in チーム天狼院, 記事

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