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チーム天狼院

大人になり損ねていませんか?《スタッフ平野の備忘録》


記事:平野謙治(チーム天狼院)
 
「学生さんは、ソフトドリンクサービスしてるよ」
 
まさに不意打ちとも言える、その投げかけ。放ってきたのは、海鮮料理屋のおっちゃん。
同時に湧き上がる、様々な感情。だけど僕の口から出たのは、
 
「あ。じゃあ、ジンジャーエールで……」
という、言葉だった。
 
あと5日で、25歳になる僕は、当然学生ではない。
先日4月1日から、社会人生活も3年目になる。
 
それなのに先月、フードコートで学生と間違われてしまったんだ。
まあ、おっちゃんも、良かれと思って言ったんだろうけれど。
なんかいろいろ、複雑だった。プラスもマイナスも入り混じったような、その感情の正体は何だったのだろう。
 
いや、学生じゃないから。こう見えて頑張って働いてるからね? なんなら転職も経験して、2社目だから! という憤りは、確かにあった。
「学生ですか?」っていう疑問形ならわかるけれど、決め付けてきたからね。
 
でも同時に、「まあ、私服だし何歳かわからないよな」とか、
「髪も茶色いし、仕方ないか」みたいな気持ちもあって。
 
「俺もまだまだ若いな」、
「まあ老けてみられるよりは、いいよね」っていう、嬉しさもあったように思う。
 
だけどそれらの感情、全部に勝っていたのが、「ジンジャーエール飲みたい」という欲望。
だから僕は戸惑いつつも、ちゃっかりサービスしてもらったんだ(おっちゃんごめん!)。
 
決して裁かれることのない罪。
でもやっぱり少し、罪悪感があった。恥ずかしさがあった。
訂正すれば、良かったんだ。「学生じゃないです」って。
それなのに、しめしめとジュースをもらってしまった。
 
恐らくおっちゃんは、見た目で僕を学生と判断したのだろう。茶色い髪。緩い服装。あるいは、顔立ちなのかもしれない。
 
だけど気分的には、それだけじゃないような気がした。こうして学生と間違われてなお、「ラッキー」と思って、ジュースをもらう姿勢。
そういった甘えが、結局のところ雰囲気にも表れていて、学生らしさを助長しているんじゃないか。
そんな風に、思ってしまったんだ。
 
チラッと、カレンダーに目をやる。
もうあと少しで、25歳になる。途端に湧き上がる焦燥感。やばい。何かわからないけれど、やばい気がする。
 
子供の頃に想像した、25歳の自分の姿。それは、どんなものだったのだろう。明確ではない、漠然としたイメージだったと思う。
だけどこれだけは、ハッキリ言える。もっと大人になっているものだと思っていた。
 
見た目も、そう。
だけどそこじゃない。中身だ。
 
実家なんて当然、出ているものだと思っていた。
経済的にも、生活的にも、自立して。なんだって自分ひとりでやっているものだと、そう思っていた。
 
それがどうだろう? 今の、自分は。
 
実家なんて、一度も出たことない。
料理とか家事も、ロクにできやしない。やろうとも、していない。
 
いつまで経ってもコーヒーは苦いし。ビールより、コーラの方が美味しいし。チェーンじゃない飲食店はなんか怖くて、一人じゃ入れないし。
電子機器の初期設定とか、ひとりじゃできないし。難しい説明書も、読みたくないし。
ホラー映画は、怖くて観れないし。ちょっとしたことで、深く傷ついて泣いたりする。
 
なんだこれ。全然、大人になってないじゃん!
 
自分だけが、置いていかれているような感覚。同時に湧いてくる、憤り。今までお前は、何をして生きてきた?
 
小学生の頃を、思い返す。一緒に手を繋いで歩いた、6年生。1年生の僕から見ると、とても大人に見えた。
だけどいざ、自分が6年生になってみると、ただのクソガキに思えた。
 
中学生だって、そう。制服着てるだけで、大人に見えたけれど、全然そんなことなかった。
ただのアホで生意気な、子供だった。
 
思えば、20歳の頃も同じようなことを考えていた。
「成人する=大人になる」と、本気で思っていたから。でも20歳の誕生日を迎えてみても、当然何も変わらなくて。そこにいるのは、弱く、幼い自分のままで。
「このままじゃダメだ」なんて、そう思ったんだ。
 
振り返ってみると、ずっと同じことを思っている。
なんだ。俺、やっぱり、成長してないんだな……
 
……
 
……
 
……いや。でも、同時に思う。20歳の頃の自分と、今の自分は、同じ中身だろうか?
 
ハッキリと確信した。
確かに、違うと。
 
学生の頃の悩み、どれもこれも覚えている。
彼女にフラれて、学校に行くのが嫌になったこと。
大学受験に落ちて浪人したら、という不安で夜なかなか寝られなかったこと。
サークルの運営で、同期と意見が合わずに揉めたこと。
これらすべてが、当時の自分を酷く悩ませ、強く苦しめた。
 
全部、覚えている。だけど、思い出せない。
当時の深刻さが、蘇ってこない。
 
出来事としては、覚えているんだ。ああいうことがあって、自分はこんな風に苦しんでいたって。
当時の自分にとっては、間違いなく深刻な悩みだったんだ。
 
悲しくて泣いたはずだ。苦しくて、もがいていたのだろう。
「死にたい」だなんて、思ったこともあったかもね。
だけど乗り越えたらそれはもう、思い出の1ページ。「そんなこともあったなあ」なんて、思い返しながら、酒を流し込む。
ほら、もう全部が、過去の出来事だ。
 
べつにそれは、何年も前のことだからじゃない。その時々の悩みなんて、一年後には深刻さが思い出せなくなっている。
だってほら、去年の今頃。新卒で入った会社を辞めようかどうか、酷く悩んでいたよね。
転職した今ではもう、蘇ることなんかないんだ。当時の苦しみなんて。
 
そう思えば、僕は確かに、前に進んできたんだ。
大人になり損ねていると、そう感じる一方で。中学生の頃より、20歳の頃より、確かに大人になった自分が、此処にいる。
様々なことを乗り越え、少ないながらも成長し、今の自分を、獲得してきたんだ。
 
それでも今の自分が、足りないと感じるのなら。
大人になり損ねていると。イメージしている姿に、追いついていないと。
そう、感じるのなら。
 
歩む速度を、上げればいい。
前に進んでいるのは、間違いないのだから。
立ち止まりたくなることが、あったとしても。
今を全速力で、駆けていけばいい。
 
不安の前に、足を止めるな。
今の俺を悩ませていることなんて、一年後にはきっと忘れているのだから。
前に進め。とにかく、進め。それだけが苦しみを、思い出へと塗り替えてくれるはずだから。
 
若さ。それは今、確かに僕の手元にある財産。日々消費しながら、生きている。近い将来、使い果たすことになる。
わかりきったことだ。僕らはだんだん、死んでいく。
 
次の節目は30歳。その時僕は、どうなっているのだろう。
失った5歳分の若さに、見合うだけのものを得ているだろうか。30代を迎えるに相応しい姿に、なっているだろうか。
イメージしていた立派な大人に、近づいているだろうか。
 
「楽しみ」だなんて、軽々しく言えないよ。
だから焦りながら往こう。
 
この不安は、抱えたままで。
25歳になるとする。
 
 

◽︎平野謙治(チーム天狼院)
東京天狼院スタッフ。
1995年生まれ24歳。千葉県出身。
早稲田大学卒業後、広告会社に入社。2年目に退職し、2019年7月から天狼院スタッフに転身。
2019年2月開講のライティング・ゼミを受講。
青年の悩みや憂いを主題とし、16週間で15作品がメディアグランプリに掲載される。
同年6月から、 READING LIFE編集部ライターズ倶楽部所属。
初回投稿作品『退屈という毒に対する特効薬』で、週刊READING LIFEデビューを果たす。
現在に到るまで、『なんとなく大人になってしまった、何もない僕たちへ。』など、3作品でメディアグランプリ1位を獲得。

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