チーム天狼院

国民失格?〜スター・ウォーズもSLAM DUNKもワンピースにも触れてこなかった31歳男性の行く末〜


記事:永井聖司(チーム天狼院)
 
これまで、天邪鬼(あまのじゃく)な人生を送ってきました。
 
生まれて初めて、『非国民!』と言われたのは、高校生の時でした。
まさか、21世紀になってこの言葉を聞くことになるとは。しかも自分が言われる側になるとは思いもよりませんでした。

休み時間。『スター・ウォーズを見たことがない』と言ったその一言が原因でした。すかさず、同級生のUが僕に言い放ったのです。

ちょっと待て。日本映画ならまだしも、なんでアメリカ映画を見てないからって「非国民!」なんて言われなあかんねん! と、生まれてからずっと栃木で生まれ育った僕が脳内でツッコミをしましたが、その場では特に反論をしなかったと思います。

代わりに、心の中で固い決意をしました。

『スター・ウォーズ絶対見ない!』

 

この事件があるよりも前から、僕にはこういった傾向がありました。いわゆる、『天邪鬼』です。人が良いと言っているものからはなるべく自分を遠ざけ、世間で流行っているものに無頓着でした。

どうしてこういう傾向が身についてしまったのか。今となってはその原因もわかりません。
 

6歳と7歳離れた姉と兄の影響で、小さい頃から見ているテレビ番組が同世代の子たちと比べてズレていたからかもしれません。直線距離で50メートル以上隣家が離れているような、ど田舎に住んでいたからかもしれません。身長も大きくスポーツも出来た兄と自分を比較して生まれた、劣等感から出来たものかもしれません。

いずれの理由にせよ僕の中に根付いたこの性格は、年齢を重ねる度に弱まるどころか、様々な出来事と共にどんどん強まっていきました。
 

男子の9割が野球部に入る中、サッカー部に入りました。
男子部員が僕一人の状態にも関わらず、中学・高校と演劇部に所属しました。
大学選びの際は、北海道の大学を選びました。

そんな、一つ一つの決定をする度、周りの人たちが『変だ』というのです。
両親はもちろん、兄妹や先生、友だちまでです。
「あんた変わってるね〜」が、僕を語る上での代名詞のようなものでした。

そういった状態になった時、天邪鬼な人間がどのようになるか、考えつきますでしょうか?
もちろん、僕個人のケースですから、天邪鬼の皆さんいっしょくたにするのはよろしくないかもしれませんが。
 

『そうだ、変わってるままでいなければいけないんだ』
と、思ったのです。

『変わっている』ことがアイデンティティだから、これからもそのように行動しなければいけない。
そのような選択をしなければいけない、と思うのです。

 

それからもずっと、いわゆる流行り物にはほとんど興味を示さないまま、大学生活を終えました。社会人になりました。

そして、また事件は起きるのです。

 

「スラムダンクのあのシーンは感動するよねぇ〜〜!!」
スラムダンクについて熱心に話す先輩に対して、僕は目を反らしました。
言葉に出させないでください。察してください。
そう思ってみても、まるでテレパシーが発動されません。
観念して、言うのです。
「スラムダンク、読んだことないです……」
一瞬の沈黙の後、先輩は僕の心を串刺しにします。
「えっ!? マジ!!? 人生の半分損してるね!」
年齢25歳。まさかその半分が無駄になっていると断定されるとは、夢にも思いませんでした。

スター・ウォーズの時同様、『絶対に読むもんか!』と心に誓ったのは言うまでもありません。

 

『あれ、これまで永井さんとスラムダンクの話をしたことがあるような……』といった記憶がある方には、心より謝罪いたします。そういった場面に慣れすぎて、話を合わせるのが上手くなっていただけなのです。

 

話の流れで、ワンピースもNARUTOも、幽遊白書もドラゴンボールも読んだことがないと告白すれば、笑いを通り越して、皆が引いていくのがひしひしと感じました。
果てには、
「逆に、何読んで生きてきたの?」
なんて言われる始末です。なんてことでしょう!
「聖闘士星矢です!」
と、答えてみれば、
「あ(笑)聖闘士星矢、ね……」
苦笑されてしまうのです。車田正美先生のあの、エネルギーの込められたマンガのどこいけないと言うのでしょうか!
いえいえ、どこかズレているのはわかっています。

 

その後配属された、会社でのチームの5人中、僕以外の4人全員がスター・ウォーズマニアだったこと。新作公開日に連れ立って映画に行くほどで、ハブられかけたこと。その内の先輩1人からスター・ウォーズを無理やり押し付けられすぎて険悪になったことなど、天邪鬼的人生が巻き起こす事件は数知れません。

 

それでも僕は頑なに、世間で流行っているものになるべく乗らないようにして生きてきました。
なぜなら、ここで屈してしまっては、僕のアイデンティティが崩れてしまうからです。そう、信じていたからです。
鬼ヶ島という、限られた空間の中に生きている天邪鬼という鬼は、外界のモノを受け入れてはいけないのです。外界のものを受け入れ始めたら、僕を討ち滅ぼさんとする桃太郎のような輩も招いしてしまうかもしれません。
そうしたら、僕という、『変わっている』ことで生きながらえてきた天邪鬼は消え失せ、存在価値すら無くなってしまうかもしれないではないですか。
そんな風に、僕は確かに考えていたのです。

 

そんな中で、Netflixで『ハイキュー!!』というアニメ作品を見始めたのは、単なる気の迷いだったと思います。
『ハイキュー!!』は、高校男子バレーをテーマにした、現在単行本が43巻まで出ている、週刊少年ジャンプで連載中の大人気マンガです。アニメも第4シーズンが放送中です。
紛うことなき、天邪鬼が忌避する『超王道』作品にして、流行り物のマンガです。

しかし1話を見てみて、気づいた頃には、第2話を見始めていました。
第3が流れ始めても、止めることはありませんでした。
仕事があるからと仕方なく見るのを中断し、休憩時間に続きを見ました。
夜、変な時間に起きてしまった後は、10話ほどを一気見しました。

 

面白い。
王道作品とはこんなに面白いものなのかと、思い知らされた瞬間でした。

鬼ヶ島という、小さい島にいるだけではわかることのなかった、広い広い世界があることを実感した時でした。世界の見え方さえ変わってしまうような、そんな気さえしました。

そして興奮気味に、同僚に話をしたのです。

「いやー、ハイキュー! 面白かったわー。特に〇〇戦のところがさー……」

しかし、返ってきた答えは意外なものでした。

「あー、面白いっすよねー! でも僕は、△△戦のところの方が好きですねーー」

 

え。
一瞬戸惑った後、それはそうか、と思ったのです。

同じ作品を見たからといって、同じ感想になるわけはないのです。
同じ作品を見たからと言って、同じ感性になるわけでも、同じ人間になるわけではないのです。

流行り物、王道の作品を見たからと言って、個性が失われるわけではないのです。

そんな、至極単純なことに、気づいたのです。

31歳になった今になって気づくなんて、遅すぎるかもしれません。

でも、後悔はありません。
それどころか、ワクワクするような感覚が僕にはあるのです。

 

今になってようやく、鬼ヶ島という小さい島から漕ぎ出した僕の行く末には、広い広い世界が広がっているのです。
初めて読んだときしか感じられない感動を、多くの人がもう失ってしまった『初めて』を、今から手に入れることができるのです。

天邪鬼だからこその特権を、これから、長い時間を掛けて、味わっていくのです。


2020-03-28 | Posted in チーム天狼院, チーム天狼院, 記事

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