『ヒーローになれない人生だった』と気づいた時にとるべき、たった1つの対抗策
記事:永井聖司(チーム天狼院)
子供の頃は人並みに、『ヒーロー』とか『主人公』という存在に憧れる子どもだった。
中でもカッコいいと思っていたのは、ハリウッド映画に登場するヒーロー・バットマンだ。
バットマンとは、もはや説明不要かもしれないけれど、ゴッサムシティという犯罪はびこる街を守るヒーローのことで、その正体は、ブルース・ウエインという大富豪だ。有り余るほどの資産を元に、特殊なスーツや武器、車などを作り上げ、強敵たちとの戦いを繰り広げていく。
その姿に憧れた理由はただ一つ。
バットマンが、『ただの人間』であることだった。
スーパーマンやスパイダーマンのような特殊能力は、彼にはない。
『大富豪』という、生まれたときからの特性がある以外は、僕たちと何も変わりがない存在、それが、バットマンだ。
彼が身にまとう特殊なスーツだって、防弾や防刃など、悪と戦う上での防御力を増している以外だと、日本の戦隊ヒーローのような、ジャンプ力や攻撃力などの身体能力を大幅に上げるような機能もない。
言ってしまえばバットマンは、ハロウィンの時に仮想している人々と大差ない存在ということだ。
それなのに、バットマンは悪に立ち向かう。
ただただ、バットマンとしての衣装を身にまとっただけの『一般男性』であるはずなのに、街の平和のために命を賭けて立ち向かう。
頼れるのは、絶え間ないトレーニングで手に入れた肉体と、頭の回転だけだ。
そんな姿に、僕はわかりやすく憧れていた。
こんなヒーローに、大人になれれば良いと、夢を見ていた。
そんな夢を抱いてから十数年が経ち、社会人になった僕はどうなったか。
もちろん、バットマンにはなれなかった。
それどころか、バットマンがいるならば助けを求めたいぐらいのどん底に、僕は突き落とされていた。
社会人3年目となった僕は、ヒステリー持ちの女性上司の下につくこととなり、日々、顔色を伺っていた。
今は機嫌が悪そうだから言うのをやめよう、今日は機嫌が良さそうだから今言うしかない、などと考えることに神経をすり減らし、時に上司の地雷を踏んでしまえば、こっぴどく叱られる日々だった。死んでしまおうか、と考えることも度々あった。
そんな精神状態の中で同僚たちと飲みに行けば、大嫌いな女性上司の愚痴に花を咲かせた。女性上司に対してだけでない、女性上司を放置している役員や会社に対しても、好き放題言っていた。
果敢に悪に立ち向かうバットマンとはほど遠い、どちらかと言えば、こうはなりたくないなと思っていた『大人』像に近づいていっていた。
そのことに気づいてはいたけれど、『仕方ない』を理由に、頭の中で納得をさせていた。
だって僕は、バットマンのような大富豪ではないのだ。
悪と戦うためのトレーニングもしていなければ頭の回転も良くはない。
ただただフツーの人間なのだ。バットマンのような『ヒーロー』になんて、なれるわけのない人間なのだ。
そうやって、諦めた。
すると途端に、色々なことが楽になった。
女性上司のことも、諦めた。
バットマンに登場する、ジョーカーみたいな存在だと考えるようにした。
『ヒステリー持ちの』『異常な』人なのだと、その女性上司に対する認識を書き換えた。
ゴッサムシティに住む人々がそうしているのと同じように、立ち向かうのではなく、ただただその悪意に巻き込まれないよう、立ち回ればいいのだと、考えるようにした。
そうすると段々と、気持ちが楽になっていった。女性上司から怒られたとしても、真正面から受け受け止めることがなくなり、聞き流せるようになった。ヒステリーのせいで付け加えられているのだろう無駄な罵詈雑言を取り除き、聞き入れるべき部分だけを抽出して話を聞き入れられるようになれば、必要以上に落ち込むこともなくなった。
『諦める』ことが正解なのだと僕が思うには、それだけで十分だった。
仕事の締切に間に合わなくても、理由を説明すればわかってもらえると、諦める。
提案をしてみたところで、どうせ僕の案など通らないだろうからと、諦める。
話をしたところでわかりあえないだろうと、説明をすることを諦める。
『諦める』ことで得た成功体験は、社会人経験を積めば積むほど、増えていった。
そしてそんな状態で過去を振り返ってみると、『諦めた』ことで得たこれまでの経験の全てが、正しかったように思えてくる。
サッカー部に所属していながら、危険なプレーに参加するのを諦め、一度も大きな怪我をしなかったこと。
「別れよう」と言われた時に、傷つくことを恐れて、すんなり彼女のことを諦めたこと。
『声優になりたい』と思ったは良いけれど、東京に通う時間的余裕や、金銭的余裕も家にはないだろうと、親に相談することもなく、1人で判断して諦めたこと。
その全てが、僕を形作ってきた素晴らしい経験なのだと、僕は思うようになっていた。
そんな風にして、歳を重ねれば重ねるほどに『諦める』という基本スタンスを強固にしていく僕の目から見て、異様に映る人がいた。
あの、女性上司だった。
その後異動となり、離れて仕事をするようになった女性上司は、『ヒステリー』という性格的問題が治ることはなかったけれど、『諦めない』という一点で見れば、会社の誰にも負けない力を持っていた。
たった一人の部署で、誰にも頼ることの出来ない状態の中で、いつでも険しい表情を浮かべながら、仕事を全うしていた。
「〇〇日までにやります!」と宣言したことは、提出日の前日、時計の針が0時を回ろうとも、睡眠時間がどんなに少なくなろうとも、やりきる人だった。
体調を崩そうとも、誰が見てもフラフラな状態でも、やらなければいけない仕事がある時は、出社をして仕事をする人だった。諦めない人だった。
いじめ抜かれた相手であり、大っ嫌いではあったけれど、その部分だけは、尊敬せざるを得なかった。
そして、『尊敬』すると同時に、僕とは別次元の人なのだと、考えるようにした。
僕の持ち合わせていない、『やりきる力』のある人なのだと、女性上司に対して思うことで、僕はまた僕を、諦めた。
僕には、やりきる力がないのだから仕方ないと諦めるのと引き換えに、心の平穏を手に入れた。
大っ嫌いだった女性上司の、そんな一面に引かれて、諦めてしまう自分を変えようとしたこともあった。
本を読んで、変えようとした。
でもやっぱり治らなければ、僕は確信を強めた。
僕には、やりきる力がないのだ。これはきっと、生まれもっての性格の問題なのだ。適度に諦めながらこれからも生活をしていくことが正解なのだ。
そんな風に考えるようになったタイミングで30歳となり、僕は、天狼院に転職した。
そして、大いに困った。
『諦める自分』を、突きつけられる毎日だった。
自分自身に対して言い訳をして、心の平穏を保つ毎日だった。
「「やりきる力」がないからさー」
「すぐ諦めちゃうからさー」
誰に言う必要もないのに、言わなければやっていられない。
自分は『諦めてしまう人間だから』『「やりきる力」のない人間だから』と、自己暗示を掛け続けないと、立ち直れない。
そんな状態で、映画やアニメやドラマやと見てみると、『諦めない』登場人物の姿が飛び込んできて、突き刺さる。
例えばバットマンだったら、大富豪であるという特性しか無いからと、諦めただろうか。
そうじゃない。
大富豪であるという特性しか無いから、考えた。日々、地道なトレーニングを続けて、武器を作り、一瞬の判断を誤ることもなく動き続け、悪と戦い続け、どれだけピンチな状況になっても諦めなかった。
敵わないから、助けられないからと、すぐに諦めてしまうヒーローだったら、人の命は救えない。話にならない。
スポ根アニメだったら、最後の一球まで、諦めない。
相手との差がどれだけあっても、打開策を考え続けて、抗い続ける。勝機が見えるまで粘り続けて、そして最後の最後で逆転をする。
ありきたりな展開かもしれないけれど、それでもやっぱり、『諦めたらそこで試合終了』なのだ。
恋愛ドラマだって、同じことが言える。
振り向いてくれないからと諦めてしまったら、第1話にしてドラマは終わってしまう。諦めずにアプローチし続けるから、次に繋がり、ハッピーエンドにつながるのだ。
必要なことは、『諦めないこと』
ただ、それだけなのだ。
ヒーローになれない人生となれる人生を分けるものは、たったこれだけのことなのだと思う。
ただし、『たったこれだけ』の間に、大きな大きな、そして深い深い溝がある。
本当に長いこと、諦めることが素晴らしいと思ってきた僕にはもう、反対側の景色はおぼろげで、どこからどう近づこうとすれば良いのか、見当もつかない。
「これなんだよ! 今日やらなきゃダメだったんだよ! 明日に持ち越さない。こういう、小さいことの積み重ねが重要なんだよ!」
とある日の0時半。
お客様向けの動画配信が終わった後、天狼院書店店主の三浦が言ったことだった。
正直に言えば僕はその日、動画配信の時刻がズルズルと遅くなっていることに、うんざりしていた。
遅い時間に配信しても、見てくれる人はいないだろう。諦めれば良いのに、そう思っていた。
でも、違った。
見てくれる人はいたし、終わった後の心持ちが、まるで違う。
今日やるか明日やるか、その違いは、結果としては大きくないことかもしれない。
それでも、心の中に残るモヤモヤの量が違う。
モヤモヤが少しでも残ることと、0であることには、雲泥の差があるのだ。犯罪件数1と0では、まるでイメージが違うように。
そしてその小さなモヤモヤが日々蓄積されていくことが、将来の大きな違いにつながるのだ。
僕が今、『諦めない』側の世界のことがまるで見えなくなってしまったように、気づかない内に、溝はとてもつもなく大きく、そして深くなってしまう。
対抗策は、たった1つだけだ。
『諦める』ことを積み重ねてきてしまったことの真逆。『諦めない』ことを日々、積み重ねるだけのことだ。
これまでの、諦めない自分になることを諦めていた日々のことは、もう、どうしようもない。
これが、最後の『諦める』になることを願って、こんな『なんでもない日』に、僕は誓う。
『諦めない』ことを、今から始める。
いつの日かわからないけれど、憧れていたヒーローに近づけるだろうと、信じて。
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