チーム天狼院

【積年の疑問・憤り】女子が言う「いっぱい食べる人が好き」って何ですか??《スタッフ平野の備忘録》


記事:平野謙治(チーム天狼院)
 
家でなんとなくテレビをつけていたらさ。
とある女性芸能人が、「好きなタイプ」を訊かれていたんだ。
 
べつに、好きな芸能人じゃなかったし。どうでもいいな、なんて思って、真剣に聞いていなかったわけだけど。
次の瞬間。そいつが放った言葉に、強い疑問を覚えたんだ。
 
「いっぱい食べる人が好きです!」
 
 
……いっぱい食べる人が好き?
いっぱい・食べる・人が好き??
 
何を言ってるんだ。こいつは。
強く、そう思った。そしてそれは、初めてではなかった。
 
 
 
幼少期より俺は、痩せ細っていた。そしてそれは、今でも変わらない。
恥を忍んで言うと、いわゆる「ガリガリ」という奴だ。いや。もはや、「恥ずかしい」という感覚すら無くなってしまった。それほどまでに長い間、「ガリガリ」として、俺は生きてきた。
 
高校2年生の頃の身体測定の結果は、175cmに対して、52kg。あれから8年間、成長も、増減もない。食べても、食べなくても、運動しても、しなくても、まったく変化しない体型。体重は常に、50kg〜54kgの間に収まってきた。
 
どうして、こんなにガリガリなのか。体質とか、遺伝とか、いろんな要素があると思うけれど。
大抵の人は、こう結論づける。「食べている量が少ないから」だと……
 
まあ、その側面は間違いなくある。極端な少食というわけではないけれど。「たくさん食べる」ことは、滅多にない。
「一般的な一人前」を、残さず食すだけ。それで、十分だから。
サイドメニューや、デザートを追加するようなことはしない。間食もしない。お菓子も食べない。
大盛無料サービスには、「大丈夫です」と言う。おかわりもせず。誰かの料理を貰うようなこともない。
 
多分、食に無頓着なのだと思う。誰かとご飯に行く時ならまだしも、一人の時の食事はかなり適当だ。コンビニでおにぎりを2つ買うか、近くのチェーン店に適当に入る。
主体性を持って、美味しいものを食べに行こうとはしない。効率、あるいはコストパフォーマンスが、優れた手段を選ぶだけ。まるで作業のような、食事スタイルだ。
 
さらに言えば、忙しい時は「食べない」という選択肢を採ることもある。
もともと空腹には強かったのだけれども。大学時代のアルバイトが忙しすぎて、一日中食べれないなんてこともザラにあったから、長時間の絶食にも慣れてしまった。
 
よく人から、心配される。ガリガリなのに、あんまり食べないから。
だけど正直、あんまり困ってない。だってずっとこれで、生きてきた。
 
 
しかしそんな僕が、どうしても納得できないこと。
それは女の子が言う、「いっぱい食べる人が好き」という発言だ。
 
これは何も、テレビで見た女性芸能人だけじゃない。
同じ意見を持った人は一定数いて、たまに僕の前に現れる。その度に、強く疑問に思う。
 
「いっぱい食べる人が好き」って、なんだ?
 
え? なんで?
いっぱい食べることが、そんなに偉い?
男性としての魅力を感じるの??
 
それとも、自分が料理を作った時に、残さず食べて欲しいから?
聞いてみると、どうやらそういうわけではなさそうだ。
自分が作ったものに限らず、たくさん食べる人がいいみたいだ。なぜ??
 
仮に結婚して、長い間一緒に過ごすのなら、どう考えたって僕みたいな奴の方が楽だと思うのだけれども。
だって食費が、かからない。内容にも無頓着だから、簡単な料理でも、適当に買ってきたものでも、満足するよ。
 
一日に玄米四合と味噌と少しの野菜で、俺は十分だ。
経済的でしょう? ほら、家計を支えてみせるからさ!!
 
例えば、ガタイのいい男が好きって言うのなら、わかる。男も、女も、体型的な好みがあったっていい。
がっしりした筋肉質な男がいいって言うなら、大人しく引き下がるよ。ガリガリに出る幕はないからな!!
 
でも、そうじゃない。
彼女たちが言うのはあくまで、「いっぱい食べる人が好き」。
 
なんだ? その価値観?
エンゲル係数を跳ね上げたいのか? いや、そんなはずはない。
 
なら、なぜ?
釈然としない。少食で何が悪い!
誰か俺を、納得させてくれよ!!
 
 
 
「本当に、食事量の多さに魅力感じてると思ってんの?」
 
それは、飲み会で自虐交じりに愚痴っていた時のこと。
周囲は笑うだけだったが、隣に座っていたその女子は違った。試すような視線で、俺に投げかけてきた。
 
「……え? そうじゃないの?」
 
意図がわからず、思わず歯切れが悪くなる僕。半分呆れた顔で、彼女は続ける。
 
「べつになにも。大食いに魅力を感じているわけじゃない。
女の子には、食べるのが好きって娘も多いでしょ? 話題の店に行けば、いろいろ食べてみたいって思うのが自然。
でも女子会ならまだしも、デートではそうはいかない時もある。
本当はたくさん食べたいけど、お店で彼よりたくさん頼むのは恥ずかしいっていう、女心がそもそもあるでしょ?」
 
あ。これ、勉強になる話だ。
そう思った僕は、ジョッキを置いて、背筋を伸ばした。
 
「そんな時、彼がたくさん食べる人だったら、気を使わなくていいでしょ?
食べたいものをシェアしたりとかもできるし。そういうのを含めて……」
 
「『いっぱい食べる人』が好きって、言っているのか……」
 
「そういうこと」
 
なんてことだ! そういうことだったのか!!
雷に打たれたような、そんな気持ちだった。
 
なるほどな。女心を、全く理解できていなかった……
たくさん食べ過ぎたら引かれちゃうかもって、思うものなんだな。それが異性として意識した相手なら、尚更か。
男が半ライスなのに、自分だけ大盛り頼んだら、確かに恥ずかしいよね。
店員さんに「女の方が食べるのかよ」って、内心ツッコまれるんじゃないかとか、心配しちゃうよね。
 
でも反対に、相手の男がバクバク大量に食べていたら、気がまぎれるよな。
スイーツくらい、気兼ねなく注文できるよね。これもつけちゃおっかな、なんて。
「食べたい」という、その内に秘めた欲求を、許してあげてもいいんじゃないかって気分になるよな。
そうか。だから、「いっぱい食べる人が好き」なんだ。
 
そうだよな。どうして気づけなかったのだろう。
少し考えれば、わかりそうなことなのに。
 
僕は、音楽が好きだ。それはそれは、好きだ。
だからと言って、音楽の趣味が合う人としか付き合いたくない、とかは思わないけれど。
自分の好きなものを理解して欲しいという気持ちは、少なからずあって。
「この曲、めっちゃ好きなんだよね」とか、つい話題に出したくなる。
 
だけどその時に、「私、音楽とかまったく聴かないんだよね」ってバッサリ言われたら、どうだろう。
悲しい気持ちになるのは、間違いない。それどころかもう二度と、気を使って話さなくなるだろう。相手がまったく興味のない話をするのは、あまりにも申し訳ないから。
 
結果、窮屈な思いをすることになる。
自分の「好き」を、押さえ込まなきゃいけないのだから。
 
同じことだろ。美味しい店を探したり、食べ歩きをするのが趣味だっていう女の子も、世の中にはたくさんいる。
「食べるのが、幸せでしょうがない」っていう娘なら、当然思うよな。
「食べる喜びを、シェアしたい」って。
 
そりゃ、そうだ。俺みたいな食に無頓着なガリガリより、その喜びを分かち合える相手の方が、良いに決まってる。
その気持ちを、端的に表した結果が、「いっぱい食べる人が好き」なんだ。
 
腑に落ちたその瞬間、女性芸能人に抱いた憤りは、僕の中から綺麗さっぱり消えていた。
むしろ湧き上がってきたのは、罪悪感。今まで付き合ってきた人たちに対する、お詫びの気持ち。俺が小食なことで、我慢を強いていたのだとしたら……
 
「申し訳ないな……」
 
誰にも聞こえない音量で、ひっそりとつぶやいた。
 
よし、決めた。これから俺は、たくさん食べる。
「ご飯三杯くらい余裕だぜ」って。涼しい顔でたいらげるキャラになってみせるぜ。
だからほら。君もたくさん食べていいよって。寛大なオーラを、全身の毛穴から放ってみせるから。
 
……いや、やっぱり無理かもしれない。突然そんなに、食べれないよ。
一人前で、俺は十分だから。だからもし、彼女がたくさん食べたいのだとしたら、僕が代わりに言おうと思う。
 
「いっぱい食べる君が好き」ってね。
 
……
 
……
 
……
 

……まあ、そんな相手いないんですけどね!!!!

 
言いてえよ、そのセリフ。言わせてくれよ。
そのためにも早く、彼女作らないと。
 
皆様からのご紹介、どしどしお待ちしておりまーす。
 
 

◽︎平野謙治(チーム天狼院)
東京天狼院スタッフ。
1995年生まれ25歳。千葉県出身。
早稲田大学卒業後、広告会社に入社。2年目に退職し、2019年7月から天狼院スタッフに転身。
2019年2月開講のライティング・ゼミを受講。
青年の悩みや憂いを主題とし、16週間で15作品がメディアグランプリに掲載される。
同年6月から、 READING LIFE編集部ライターズ倶楽部所属。
初回投稿作品『退屈という毒に対する特効薬』で、週刊READING LIFEデビューを果たす。
メディアグランプリ33rd Season総合優勝。
『なんとなく大人になってしまった、何もない僕たちへ。』など、3作品でメディアグランプリ週間1位を獲得。

 
 
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