地元のことこそ、るるぶで調べる必要があるのかもしれない
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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記事:吉岡莉奈(チーム天狼院)
「……えっと、みたらし団子の美味しいお店があります!」
苦し紛れの回答だった。
*
天狼院でアルバイトをし始めて、早2ヶ月。
少しずつではあるが仕事内容にも慣れてきて、お客様とお話しをする機会が増えた。
天狼院の存在を知ったきっかけは何なのか、お仕事は何をしているのか、どこ出身なのか……様々な背景を持つお客様とお話しをすることが、私の楽しみの一つだ。
その日もいつものように、お客様と他愛のない話をしていた。
そして、ふと投げ掛けられた質問が「地元のオススメのお店、どこですか?」だった。
頭が、一瞬フリーズした。
オススメの……お店?
あれ、どうしよう。一つも思い付かない。
いやいや、そんなはずは無い。一つくらいあるはずだ。
生まれてから21年間、ずっと暮らしてきたのだから。
確かに私の住む地域はド田舎で、インスタ映えしそうな話題のお店は無い。
だけど、それこそ「地元人だからこそ知っている隠れ家カフェ!」みたいなね。うん、あるはず。
……いや、やっぱり思い付かない。
しかし、暮らし慣れた大好きな地元であることには間違いない。
「私の地元にはオススメ出来るような素敵な場所は一つもありません」
と答えるのも悔しいので、苦し紛れに「みたらし団子の美味しいお店があります」と答えたのだった。
みたらし団子が美味しいのは事実なので嘘ではないけれど、紹介できるお店をパッと思いつけなかったことがなんだか情けなかった。
そういえば以前、大学の友人に京都出身だと伝えた時、
「え、そうなんやー! 今度行く予定やねんけど、オススメの場所教えてほしい!」と聞かれたことがある。
その時も、清水寺であったり、嵐山であったり……ネットで調べれば誰でもすぐに知れる場所しか紹介出来なかった。
あれ?
もしかして、私、実は京都のことも地元のことも全然分かってないんじゃない……?
きっとそうだ。
カラフルなクリームソーダで話題のお店も、枡に入ったティラミスで話題のお店も、観光客の人がインスタにアップした写真を見て知った程度だから。
それなのに、東京や大阪に行く度に「あ~、やっぱり都会はしんどいなぁ。京都、最高!」なんて言っていたのが馬鹿みたいだ。
そんなことを思いながら、バイト終わりにぷらぷらと駅に向かって歩いていた。
すると、運悪く大通りの信号に引っかかってしまった。ここの信号はなかなか青に変わってくれない。
季節は冬、ど真ん中。
ただ、立ち止まって待つのは何倍も寒く感じる。
寒さを紛らわすために、とにかく動いていたい。
「まだ次の電車まで時間もあるし、遠回りして帰るか」と思い、いつもは通らない道を歩くことにした。
通りに入って早々、感じる異様な雰囲気。
……なんか、暗い。ていうか、怪し過ぎる。
「30分7000円!」「指名料1000円から!」と書いた、ピンク色の派手な装飾の看板に、胡散臭い客引きのオジさん。
「うわ、しまった。完全に危ない通りだ」と思い、足早に歩く。
危険地区を抜けると、お洒落な雰囲気のバーが何軒も現れた。次に、隠れ家的な中華料理屋さん。
お、ジャズバーもある。面白そう。今度行ってみようかな。
初めて見る風景に気を取られながら歩いているうちに、いつもの見慣れた大通りに出てきた。
ちょっと怖かったけど、楽しかったな。
たった一本、いつもと違う通りを歩くだけで、知らない世界にいるみたいだった。
……あ、そうか。
私、生まれてから今までずっと京都に住んでいて、京都が身近なものすぎて、あえて知ろうとしていなかったんだ。
いくら身近であるとは言え、ただそこにいるだけじゃ何も分からないよなぁ。
住んでいる場所だからこそ、たまにはるるぶで調べてみるのも良いかもしれない。
いつもとは違う道を、うろうろ歩くのも楽しいかもしれない。
今度、家の近くを散歩してみよう。そういえば、駅の近くに新しくケーキ屋さんが出来たって、お母さん言っていたなぁ。
地元を散策して、ケーキを買って、実は全然知らない、お母さんとお父さんの馴れ初めなんて聞きながら、ケーキを食べるのも良いかもしれない。
だって、身近なものほど、実は全然知らなくて、見落としやすいから。
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