青春って何歳までなのか問題≪弥咲のむしめがね≫
世の中からしたら本当にどうでもいいことだけど、靴の中の小石みたいに心につっかかって、どうしても取り除きたくなることがある。
小石みたいに取るに足らないことは、忘れたほうが幸せなのかもしれないけれど、自分だけが気にしているという特異な感情に私らしさを感じ、わるい気にはならないのが世の常なのではないだろうか。そういう世間からしたらどうでもいいことこそ、どうしても納得したいと思ってしまう。
で、今夏の小石に選ばれたものが、「青春って何歳までなのか」という素朴な疑問。
「その人が青春と思ったときが、青春でいいじゃないか」と至極真っ当な意見が飛んでくるのは重々承知だが、私はそれが本質的に理解できていないなあ、と思っているし、似たようなざわつきを感じる人がいるんじゃないかと思ってこの文章を書いている。
へんてこりんな疑問を与えてくれたのは、私の周囲でとある違和感があったからだ。
私は夏休み終盤、疲れた身体をベッドに任せ、仰向けになりながらボーっと携帯でインスタグラムを見ていた。タイムラインには、友人の楽しそうな笑顔と非日常の景色がたくさん投稿されている。その投稿を見たところで私の生活が変わるわけではないと理解していながらも、他人のプライベート夏休み情報を押さえておきたいという私欲から、大切な時間をインスタグラムに捧げていた。
「ふむふむ、A子は海外に行って……。あ、B先輩は海に行って花火してる! あー、楽しそうだなー」などと思いながらタイムラインを眺めていると、んんん? 様々な人の、ありとあらゆる投稿に「#青春」というタグ付けがあるじゃないか! なんじゃこりゃ!
私はもう20代半ばの社会人で、身体に無茶をさせて人生を全身で体感する学生じゃないし、失敗も気合で楽しさに変えられるような歳じゃないと思っているので、自分の行為を自ら青春だと紹介できない。それなのに、タイムラインには溢れんばかりの「#青春」の文字。
どうやら私の感覚は周囲の感覚とずれているみたいだ。
私にとって青春とは、もっと甘酸っぱい言葉なのだ。大人数で遠出してわいわい騒ぐことは青春じゃないだろ、と思ってしまう。それはふつうの遊びだし、単なる楽しかった思い出だ。
「#青春」が多用されているタイムラインは、写真のもつ賑やかさと裏腹に、私の心を冷ややかなものにした。
「青春」という単語は、その単語が持つ輝かしさと尊さから、あまりにもぞんざいに扱われているんじゃないだろうか。
「青春」とは、思い出の料理みたいなものだ。
高級ディナーでも好きな人が作った料理でもなんでもいい。目を閉じれば、幸せだった食卓が瞼の裏に浮かび、無意識のうちに舌がじんわり湿ってくる料理。それこそ「青春」だと思う。
ねぇ、思い出の料理って何回も食べてみたくなる?
私は同じ料理を食べれば食べるほど、心に留めておきたい記憶が薄くなってしまいそうで嫌だ。他の記憶と混ぜたくない。色褪せないように薄く柔らかな布に包んで、そおっとしまっておきたい。
「青春」だって思い出の料理と同じのはず。
社会にぐんと根をはって生きている私たち社会人は、「青春」はもう過ぎっちゃったんだよ。
「青春」って、なーんにも周りのことを知らなかった私たちが、無限に笑っていた時間だったんだよ。今の私たちは賢くなりすぎた。
いまさら「青春」を体験しようと思っても、それは真の意味で「青春」じゃない気がする。というか、「青春」を体験しようと思わなくていいと思う。それぞれの人に、それぞれの「青春」があるんだから、あとはそれをまぜこぜにならないように守るだけ。
いけてるっぽく飾らなくていい。この夏で楽しかったことは、楽しかった思い出で十分だ。人間にとって、楽しい以上の感情ってないと思う。
そんなこんなで、私は「青春」とは学生の頃だ! と心から思うし、あの無垢だった頃を愛おしく思う。
だからといって、今「青春」に戻りたいわけではないし、もしもそんなことしたら私の「青春」がなくなっちゃう!
私はあの時に気づかなかった感情をたくさん抱えていて、それがときには苦しいこともあるけれど、人間的に成長していると思う。
私は、それっぽい言葉で記憶をカテゴライズするんじゃなくて、現在の自分にきちんと向き合って記憶を整理したい。
記事:弥咲(天狼院書店)
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