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メディアグランプリ

「Virtues(美徳)を人の中に見出す」


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:山口日名子(ライティング・ゼミ12月コース)
 
 
「ヴァーチューズ・プロジェクト(VP)」をご存知だろうか。
国際家族年 (1994年)に「あらゆる文化の家族のためのグローバルなモデルプログラム」として国連でも推奨された、心の教育プログラムである。
 
1988年、若者や家庭のあらゆる暴力をなんとかできないものかと考えたカナダのリンダ・カヴェリン・ポポフ(心理療法士)、ダン・ポポフ(臨床小児心理学者)、ジョン・カヴェリン(ウォルト・デイズニ―・イマジニアリング社ディレクター)の3名から始まった。
Virtuesとは「徳・美徳」と訳される「誰もが生まれながらに持つ心の美しい本質」だ。
全ての人の中に美徳を見出し、美徳にフォーカスする教育プロジェクトである。
世界中の文献を精査し、人の持つ美徳を52に絞ってそれを育む方法を5つの戦略にした。
自殺者が増え、 暴力が頻発し、精神的に病む人が増える現状をなんとかしたいと意図して考案されたのだ。
 
私がVPに出会ったのはちょうど10年前だった。
当時、私は児童精神科病棟で医師として勤めていた。 病棟に入院してくる子どもたちは様々な状態だが、当時多かったのは、被虐待児や、暴力・暴言・万引きなど行動に問題があって「素行障害」という診断にあてはまる「問題児」が多かった。もちろんそうさせてしまう環境があってのことだが。
入院してからもトラブルは頻発した。スタッフは安全を守るために大声で注意する(怒鳴る)こともしばしば起こっていた。
病棟では、毎朝夜勤のスタッフから申し送りがあり、全員で聴いた。申し送りの内容は、子どもの問題行動のオンパレードだった。 「AがBを叩いた、蹴った、謝らない」 「制止しても全然聞かない」 「大暴れした」…..などなど、とにかく子どものマイナス面にフォーカスした申し送りばかりだった。 必要な情報とはいえ、聞いているのがとても苦痛だった。
主治医の私には、受け持ちの子どもはかわいいとしか思えなかった。良いところがたくさんあるのに悪口ばっかりと内心思っていた。
毎朝そんな申し送りを聞いている内に、申し送りの声がだんだん耳に入って来なくなったことに気づいた。 聞いている内に頭が真っ白になって、霧がかかったようになった。
私は、「早期認知症になったのかも!?」とものすごく不安になった。慌てて認知症のクリニックに行ってみた。そこから大学病院のもの忘れ外来を紹介されて、MRI検査・心理検査を受けたのだ。MRIでは、小さな梗塞が見られたがそれが原因とは思えないレベル。心理検査結果は「よくできていた」とのこと。
しかし、やはり申し送りが頭に入らないので、頼み込んで認知症治療薬のドネペジルを処方してもらい飲んでいた時もあった。飲むと頭の霧が晴れるような気がした。数年通って一旦終了となった。
今振り返ってわかった。あの時の私は「心因性難聴」だったのだ。
なぜなら、申し送りは、私が聞きたくない子どもへの悪口で溢れていたから。「もう聞きたくない」と脳が拒否していたのだ。 認知症でも何でもなかった。 恥ずかしながら、自分のことはわからないものだ。
 
その頃、VPに出会った。
子どもの美徳に注目するというこのプロジェクトに私はすぐ飛びついた。これを学びたい。そして児童精神科病棟の子ども達に実行したい。スタッフにも知ってもらいたい一心だった。
VPのファシリテーターになってからは、子どもと話す時は、必ずその子の心の美徳に注目するように心がけた。 悪いことをしたとしても、 例えば 「正直に言ってくれてありがとう」という。 「手伝いしてくれてありがとう」と認める。勉強しているところを見つけたら、「あなたは勤勉ですね」。 自分の意見を一生懸命話す子には「自己主張が出来ているね」と美徳を承認する、などなど。 美徳の言葉で評価されると、子どもたちの顔は必ず輝いた。
そして注目した行動は増えるという原理のとおり、良い行動にフォーカスすればするほど、それは増えていった。
VPで学んだことは、大人にも有効だった。
あるお母さんのことが忘れられない。 入院してきた男児は「ADHD(注意欠陥多動症)」 で良く動き回り集中できない。 それに対して真面目なお母さんは怒ってばかりだった。 体罰も伴うようになったため、 一時保護され入院となった。
お母さんと話す機会があったとき、 やはり子どものできていないことを並べて、なぜできないのかと憤慨された。 私はそのお母さんの話を聞いていて、 とても真面目な方だと感じた。 そこで「そんなに勉強させたいと思うお母さんは、勤勉の美徳を持ちですね」と言葉にして伝えた。すると、お母さんはびっくりしたと同時に喜びで顔を輝かせた。その顔が今も忘れられない。
おそらく児童相談所からは虐待する母親として指導されることはあっても、自分が認められることはなかったのだろう。 「相手の美徳を承認する」ことは非常にパワフルだと実感したエピソードだ。 この親子は、退院後大きなトラブルなく過ごせたと聞いている。
肝心のスタッフには、 一度だけヴァーチューズ・プロジェクトの勉強会をやってみた。 お互いに美徳を承認し合う体験をすることで、その喜びを知ってもらった。 参加してくれたスタッフは、子どもの良い面に注目するようになり、子ども達から慕われていたように思う。
これからも「全ての人の中に美徳を見出す」 VPのあり方を続けたいと思っている。
 
 
 
 
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2023-02-01 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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