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チーム天狼院

もやしが買えなかった夜のこと《川代ノート》


 
記事:川代紗生(天狼院スタッフ)
 
もやしが買えなかった。
木曜日の夜のことだった。

よく通っているスーパーマーケットに行って、いつも通り、真っ先にもやし売り場へ向かった。
なかった。
いつも買っている税込33円のもやしのパックが、そのときはひとつもなかった。
え、と一瞬面食らった。
このスーパーに通い出してもう3年近くになるけれど、もやしが買えなかった日なんて一度もなかったからだ。

よくよく見てみれば、もやしだけでなく、豚肉、ささみ、鶏胸肉、だいこん、ねぎ、きのこなど、私がいつもよく買っている食材のほとんどが売り切れだった。

一人暮らしの私にとって強い味方だったもやしが買えないというのはなかなかつらい。

ふと周りを見回してみると、私と同じように「あ、まじか、もやしないのか」という顔をしているサラリーマンがいた。「困ったわねえ」という顔をしたおばあちゃんがいた。

あらら、どうしたもんか。
いつも買っているものが何もないとなると、何を買ったらいいのかわからなくなってしまう。

とはいえ、冷蔵庫にはもう納豆と豆腐くらいしかなかったので、手ぶらで帰ったら飢え死にしてしまう。

何かないかと思いつつ、がらんとちょっと寂しげなスーパー内を物色していると、ぽつんと取り残されたみょうがが目に入った。

うーん、みょうがねー。みょうがかー。うーん、まあね、別に嫌いじゃないんだけどね、いやでもみょうがかー。

癖のある香りが何とも言えず、子供の頃に食べたときの「なにこれ、なんか鼻にくる!」という記憶がまだ鮮明に残っている。
だいたい自分の意思でみょうがを買ったことなんて一度もない。
みょうがをどう調理したらいいかもわからない。

まあでもとりあえずほかに買える野菜もないので、そのみょうがをカゴに入れた。

やはりというかなんというか、もやしやらキャベツやら、「野菜界の重鎮」とでも言うべき食材たちは何も残っていなくて、みょうが以外にも買えるものと言ったらビーツ、芽キャベツ、冬瓜とか、「えーと、どこをどう切って何味にしたら食べられるんでしょうか?」と聞きたくなるようなマイナー野菜(失礼)たちばかりだった。

ただ、まあいいやこれも挑戦と、結局私はみょうが、冬瓜、貝割れだいこん、ホタルイカなど、普段買ったことのないような食材ばかりを持ち帰った。

スーパーに行くスパンとレシピは、ある程度ルーチン化している。
料理に時間をかけるのがあまり好きじゃないのと、どんなものでも塩か味の素か中華スープの素があればなんとかなると思っているので、だいたいいつも週一くらいで買い出しに行き、豚肉と豆腐と納豆を買い、適当に味つけしてレンジでチン(うちにはコンロがないので全部レンジで調理している)して食べる、というのが私の日常だった。同じものしか買わないので、1週間毎日同じものを食べているということも普通にあった。

しかし、今回ばかりはそういうわけにはいかない。

何しろ私の目の前にあるのは、外食したときかおばあちゃん家でしか食べたことのないような食材ばかりである。
うーん、困った。

みょうがと味の素?
みょうがと中華スープの素?

想像してみたが、とても相性がいいとは思えなかった。
さてどうしたもんかとレシピを検索したり、残りの食材を物色してみたところ、食べ残しのそうめんが棚に入っていた。

あ、そうめんとみょうがなら、合うかもしれない。

今ある食材でなんとか「最善解」を導き出そうと頭をフル回転させ、結局そうめんとみょうがを一緒に食べることにした。

ところが、である。

「げ、めんつゆがない!!」

なんということだ。庶民の味方めんつゆを忘れるとは。めんつゆなしのそうめん? それもうどうしたらいいのよ。でももうゆではじめちゃったよ。え、どうする?
もういいわ、もはやこいつはそうめんとは思わないことにする。冷静パスタ的なものだと思うことにしよう。お前は今日からパスタだ。いいかい、パスタだよ。わかったら返事をするんだ、パスタ!!
……とまあ、さびしく一人脳内千と千尋劇場を繰り広げつつ、私は気持ちを切り替えて別の味付けを考えた。

一人暮らしをすると、とくに「食」に関しては、人間は強くなるものである。「今あるものでなんとか最大限おいしいものをつくる」という謎の執念のようなものが生まれるのだ。

さて、ゆであがったそうめんを水にさらし、お皿にもりつけ、塩とオリーブオイルで味付けする。
そこへ賞味期限があと1日の納豆をもり、そしてスーパーでゲットしたボイルのホタルイカをちらす。
最後に、きざんだみょうがをたっぷりちりばめ、レモン汁をふりかけて、「納豆みょうがホタルイカ冷製そうめん〜塩レモン風味〜」が完成した(おしゃれな名前が思いつかん)。

あり合わせのものをとりあえず全部打ち込みましたという感じの、もはや「ズボラ飯」を名乗るのすらおこがましいほどの適当さだけれど、まあとりあえず食べれりゃいいかとそのそうめん、じゃなかった、パスタを口にした。

それが。

「うま!!」

うまいのである。
びっくりするくらいうまいのである。

「何これ、うま! うっまー! まじか! 幸せ!」

めんに絡むオリーブオイルとみょうがはどうやら好相性だった(私的に)ようで、箸が進む。そして賞味期限がやばいからと一緒にぶちこんだ納豆も、なぜかホタルイカと奇跡のコラボレーションを起こしていた。なんだこれは。うまいぞ。まじでうまいぞ! 最後に散りばめられた塩レモンの風味が全体を引き締めているような気がしなくもない! なんかめんつゆで普通に食べるより全然おいしい気がしなくもない!

なんだこれ、私すごい! と自画自賛しつつ、予想外にうまくいった創作料理を食べながらYouTubeを観るという至福のときを過ごすことができた。

ふー、と満腹になったころ、そうか、自分らしくいればいいんだよな、とふと私は思った。

何かうまく行かないなあとか、なんでこんな目に合わなきゃいけないのと理不尽さを感じるとか。生きていると、いろいろなことが起こる。楽しいこともあれば、悲しいこともある。めんどくさいこともたくさんある。それが生きるということだ。

でも、たとえばもやしが買えないとか、そういうことがあったとしても、私にできるのは、私らしくいることで、楽しくいることで、私に何ができるかを考えることで、私が周りを励ますために何ができるのかを掘り起こしてみることで。

自分には何もない、私が持っている素材なんて何もない。「魅力」の在庫がからっぽで、誰の役にも立てないような気持ちになってしまうこともあるけれど、それでもとりあえずやるべきなのは、今ある食材のなかから、最大限「おいしい」と思えるものをつくろうと努力することなんじゃないかと思った。

みょうがしかない。
ビーツしかない。
冬瓜しかない。

え、一度も包丁を入れたことすらないのに、どうしたらいいの。

そんなふうにキッチンの前で困惑してしまうこともあるけれど。
でも、「とりあえず、自分にできる範囲でなんとかしてみよう!」と覚悟を決めて、手を動かしてみるのが、私にできる精一杯だ。
というか、そういう人であり続けたい。
そういう人を、かっこいいと私は思う。

うん、大丈夫。
私には私にできることを着々とやっていくしかない。

そんなふうに言い聞かせつつ。

「美味しかった、ごちそうさま!」

さて、次は冬瓜を使って何をつくろうかなと、今からちょっとわくわくしているのである。

 

 

 


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