「得意だ」なんて、努力していない人間のただの思い込みである。
記事:山本海鈴(チーム天狼院)
「え? そんなの楽勝じゃん!」
命じられた後、瞬時に思ったことだ。
なーんだ。それくらいの量だったら、すぐにできそうだな。
そもそも、苦手な方ではない分野だし。
「文章、書いてみてよ。2,000字くらいかな?」
天狼院書店という変わった書店を訪れ、最初の頃に命じられた指令が、それだった。
「ライティング・ゼミ」は、天狼院書店の中でもいちばんの人気講座として、4ヶ月かけて「人に読まれるようになる文章の書き方」を学ぶため開催している。
スタッフも漏れず必修科目であり、必ず習得が必要になっている。
皆が皆、はじめから文章が得意な人が受けるわけではなかった。
「自分なんて、文章が苦手!」と思っている人ほど、グングン伸びに気付き、「書くこと」が習慣化し、ふだんからアウトプットしないと気持ち悪い、と思えるようになる方も多かった。
では、逆だとどうなのだろうか?
「文章が苦手」とあまり思っていなかった人が受けた場合……
つまり、私のような者が受けた場合、だ。
「2,000字くらいの文章を書きなさい」
大きな理由はないが、それくらい、できそう。
ここだけの話、最初に、指令を受けた時は、そんな風にふと思った。思ってしまったのだ。
しかし、そのおごりが、甘かったことを、すぐ痛感することになるのだ。
もともと、文章を書くのは、嫌いではなかったと思う。
学校で「読書感想文」の課題が出ると、取り掛かるまで面倒くさがるものの、結局、書き始めると、楽しんで取り組んでいたくらいだった。
だから、どちらかというと、文章を書くことは「得意なほう」だろうと思っていた。
……思っていたのだが。
「何か、書いてみて」
実際に書き始めようとパソコンの前に座ると、その「何か」がまったく思い浮かばなかった。
パソコンを前に、そもそも、キーボードで何を打ち込もうか、考えすらも出てこないのだ。
……あれ? おかしいな。
文章を書くのは得意なほうだと、思っていたのに。
書き出しを何度か打ち込んでみるも、すぐにデリート。
しっくりしたものが浮かんでこない。
これならいけるか? と、洒落た言い回しで始めてみるも、小っ恥ずかしくなって、デリート。
何、調子に乗っているんだ、自分。恥ずかしい、恥ずかしい。
そうして、モヤモヤぐるぐるすること数時間。
結局、出来上がったのは、何の面白味もない、数行の文章と言えない文章だった。
今思えば、相当に下手くそな出来だったと思う。
どの口が得意だなどと言ってるのだ? と疑いたくなるような出来映えだった。
これが、「文章を書くのは得意なほう」と豪語していたタイプの人間が、初めて書いた文章の結果だ。
今なら分かるのだ。
ライティングが得意、だなんて、ただの思い込み、幻想だ。
小さい頃に、他の人と比べて少しできるからって、大して勉強したことも、努力をしたこともないくせに、「できる」だなんて考えていたこと自体が、間違っていたのだ。
「自分はできる」と驕っている態度が、その文章からは透けて見え見えだった。
「人に読んでもらうには?」を考えたことなんて、それまでただの一回もなかった。
「文章が得意と自分で思っている人ほど、最初は苦労するかもしれません」
ゼミの中では、こういう風に伝える場面がある。
まさに、図星だった。
初めて聞いた時は、痛いところを突かれすぎて、思わずあはは、と笑ってしまった。
思い込みはなかなか取れない。
だから、最初は難産だった。
文章を書こうとパソコンを前にしても、どうしても斜に構えてしまう自分がいた。
そんな人間でも、光明は見えてくる。
書き続けていると、そのうち、血管に詰まっていた血栓が取れ、血の巡りがよくなったように、
文章がスルスルと書けるようになっている、と思う瞬間があった。
文章の分かりやすさとともに、企画が成功する結果も、数値にあらわれてくるようになった。
「文章は、得意なほうだと思う」
そんなのは、幻想だ。
根拠もなしに自分は得意なほうだと思っている人間こそ、危ないに決まっている。
書き続けると、「得意なほう」だなんて口が裂けても言えない、という気持ちになってくる。
けれど、その思い込みスタンスをぶち壊し、考え方の180度変換が、アウトプットすることによって可能になったのだった。
ライティング・ゼミを紹介する時、多くの人はこう言うだろう。
自分は文章が苦手である、と思う人でも大丈夫です。
でも、私は、こう言いたい。
「文章が得意なほう」です、という人こそ、受けないと、まずい。
それはきっと、ただの思い込みであることに、気づくだろうから。
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