READING LIFE ver.20220208 読書特集号PROTOTYPE版

なぜ、あなたは本を読めないのか? 読書量を200%にする方法を真剣に考えてみる《イントロダクション~本を読めない10の理由と100の特集~》


 


記事:三浦崇典
   (天狼院読書クラブ/TENRO-IN BOOK CLUB グランドマスター)


 

 たとえば、日本のある市場が2兆円の規模で数年前まで存在していたとします。
 その規模が徐々に縮小していき、1兆円にまで縮小したとすれば、当然ながら、半分以上の人が、その業界から退場することになるでしょう。あるいは、デジタルなどに形を変えて、生き残る道を模索するかもしれませんし、日本で規模の維持を果たせないのであれば、国境を超えて、マーケットを模索していくかもしれません。
 出版業界の行く末は、まさにそれに近いものがあります。1兆円まで縮小せず、たとえ下げ止まったとしても、ピークから劇的に規模が縮小されることは間違いないでしょう。

 問題として挙げられるのが、生活スタイルの変化であり、可処分時間の変化でしょう。

 スマホが本格的に登場し、アプリが一般的に使われる以前まで、どこか、知らないところに行く際には、地図を買い、時刻表を買うのが当たり前でした。ほんの、2、30年ほど前のことです。

 

 ところが、スマホを開けば、リアルタイムで時刻表が提示され、最も時間のロスがない経路まで示され、遅れの情報まで見られるものもあります。地図に至っては、GPSが搭載されているので、現在地がどこかもわかり、地図よりも遥かに便利になりました。

 少し前までは、デジタル放送がされていなかったので、新聞をとっていない家庭は、テレビ雑誌を習慣的に買っていました。ところが、デジタル放送が開始されると、テレビのリモコンには「番組表」というボタンが搭載されるようになりました。テレビ雑誌のメインの趣旨が、簡単に失われてしまいました。
 これを、僕は「必然的縮小」と呼んでいます。つまり、消費者の生活スタイルが便利に変化することによって、必然的に縮小するマーケットが存在するということです。

 また一方で、出版業界は、可処分時間の問題を真剣に考えざるをえなくなりました。

 一昔前までは、手軽な娯楽と言えば、テレビやラジオ、そして、読書と選択肢が限られていました。そう、手軽な娯楽というジャンルでは、メジャーな存在だったのです。

 ところが、令和の現在はどうでしょうか?
 時間がある、何をしようかとなったとき、つまりは「可処分時間」が目の前にあるとき、人は数多くの選択肢から、何に時間を費やすかを考えるようになります。

 Facebook、ツイッター、Instagram、TikTokなどのSNS、YouTubeなどの動画配信サービス、Web記事、Netflix、Hulu、アマゾンプライムビデオなどのビデオ・オン・デマンド(VOD)サービス、そして、テレビがあり、ラジオがあり、ポッドキャストがあり、読書がある。
 ライバル、激増です。そのライバルたちとの激闘を経て、ようやく、読書は選ばれることになります。そう考えると、出版業界に身を置く一人としては、ちょっと絶望感を覚えてしまいます。なんだか、お先真っ暗なような気もします。『鬼滅の刃』が大ヒットしたと言われても、『劇場版 呪術廻戦 0』の興行収入が100億円を突破したと言われても、集英社が過去最高益だと言われても、講談社も業績がいいと言われても、ピンとこないのです。遠い異国のファンタジーのようにも聞こえますし、マンガはいいですよね、マンガは、とひねくれて考えてしまいそうにもなります。

 そこには、問題解決の糸口すら見出だせないと思ってしまうのは、僕だけでしょうか。

 そんな業界に身を置き、本屋も10個も作ってしまった僕としては、この業界が全面的に助かり、しかも、お客様にもメリットが絶大な方法はないかと、常々、思案しておりました。

 そして、ふと、ある日の風呂の中で、こう思いついたのです。

「そうか、日本全体の読書量を、200%にすればいいんだ……」

 極めて単純な話です。

 可処分時間が他のコンテンツや娯楽に奪われ、読書人口が減り、市場が大きく縮小しているのであれば、ひとりひとりの読書量を2倍にすれば問題解決します。
 たとえ、2兆円の市場規模が、1兆円に下がったとしても、国民の読書量が200%になれば、問題解決です、なぜなら、2兆円以上の規模になりますから!
 しかし、こんな都合のいいこと、あるだろうかと風呂からあがりながら考えました。

 マーケティングで重要なのは、お客様主体で考えることです。
 たしかに、出版業界でビジネスしている立場から言えば、本が倍、売れたほうがいいに決まっています。けれども、大前提として、それはお客様にとってもメリットがあることでなければ意味がありません。

 よく、「惜しまれて閉店する店」がニュースになることがあります。書店もそうですし、様々な小さな商店もそうでしょう。

 けれども、マーケティング的に普通に考えれば、本当に閉店してほしくない店、つまりは確かな需要があった店は、潰れないはずなのです。ビジネスは闘争であり、消費者は残酷です。いらないと思えば行かず、必然的に閉店を余儀なくされます。

 そう、それが市場の裁定であれば、受け入れざるをえません。それが、最もシンプルなビジネスの原理であり、ルールです。

 特に、書店の場合は「惜しまれて閉店する系」ニュースになりやすい性質にあります。とんでもない勢いで、全国の書店は潰れているのに、なぜ、人は書店が潰れるのを「惜しむ」のでしょうか?

 感動ポルノ的に、自分より低い人を見ると、気持ちがいいからでしょうか?

 優越感に浸り、まだ自分はマシだと思いたいからでしょうか?

 もしかして、ある一部は無意識的に感動ポルノとして「惜しまれて閉店する系」コンテンツを消費しているかもしれませんが、実は、多くの人は、本当に「惜しんでいる」のではないかと、僕は思いました。

 天狼院書店は、これまで、多くのディベロッパーさんから誘致いただき、出店してきております。様々なディベロッパーさんや商業施設の方々から共通して、“妙な話”を聞きました。
「周辺の住民の方に施設内にほしい店のアンケートを取ると、必ず3位以内に、書店が入る」

 そして、担当者の方はこうも言うのです。

「けれども、一般の書店だと、家賃を上げられないんですよ」
 いったい、どういうことでしょうか? 何が起きているのでしょうか?
 多くの人が、自分の近所に書店が欲しいと言っている。
 書店が閉店することを、感動ポルノ的にではなく、本当に「惜しい」と思っている。
 それなのに、市場規模が縮小し、書店は、まともな家賃を払うことができない。

 一見、矛盾することが、日本中で、いや、世界中で起きているのではないかと僕は考えました。

 この矛盾の原因は、こういうことなのではないでしょうか。
 根本的に人は、書店を欲している。それはニアリーイコール、読書をしたいと思っているということです。

 けれども、「書店の閉店を惜しむ人」にマイクを突きつけてこう聞いてみれば、わかるはずです。

「この書店の閉店を惜しんでいると言いますが、この一年間でこの書店で何万円、本を買いましたか?」
 おそらく、インタビューされた人は、言葉に詰まることでしょう。なぜなら、本を買っていなくとも、閉店が惜しいと言っているかもしれないからです。

 そして、聞かれて初めて、そういえば、自分はこの書店で買っていなかった、多くの人も買わなくなったのではないかと考えるのではないでしょうか。

 つまり、本当は本を買いたかったのに、買わなかった、というのが実情なのではないでしょうか。これが閉店する書店の周辺で、つまりは、日本中、世界中で起きていることなのではないでしょうか。

 問題は、可処分時間なのです。忙しくなり、選択肢が増えたために、読書の優先順位が下がってしまった。それゆえに、本の購入量も下がってしまった。けれども、多くの人は、読書をしたいと、ほぼ本能的なレベルに近いところで感じているのではないでしょうか。

 誰もが、読書は必要だと思っていて、それなのに、その優先順位を上げられないだけなのではないでしょうか。

 そうであるなら、話は単純です。

 僕が掲げた目標「読書量200%」の世界は、出版業界で働く人間はもとより、実は消費者にも本来、受け入れられる目標だということになります。

 さきほど言ったように、売りたい方のインセンティブだけでは、マーケットは成立しません。けれども、消費者も「読書量200%」に対して、共感するのなら、マーケットは成立するはずなのです。
 試しに、僕は、会員数230名様を超える天狼院読書クラブの皆様と、天狼院のSNSで単純なアンケートを取ってみました。

「できるならもっと多く、本を読みたいと思っていますか?」 

 この質問に対する回答は、驚くべきものでした。
 僕にとって、意外でした。一筋の光明でした。
 なんと、有効回答の100%が、「もっと本を読みたい」と答えたのです。

 当然、書店が発するアンケートは、書店に興味のある人が答えるに違いありません。たとえば、これをパチンコ屋さんのSNSでやった場合、おそらく違った結果にはなるでしょう。
 けれども、少なくとも、天狼院に興味のあるお客様のほとんどは、「もっと本を読みたい」と考えているということです。

 これを、日本中に拡張すると、いったい、どうなるでしょうか?
 結構な割合の方が、もっと本を読みたい、と思っているのではないでしょうか?
 つまり、それは、願望なのです。願望の先には、マーケットがあります。
 しかし、それなら、なぜ、出版業界の規模は縮小しているのでしょうか? 電子書籍によって食われているのでしょうか? 正直、僕は、どんな媒体で読書をしても構わないと思っています。紙の書籍でも、電子書籍でも、Webの記事でも、古本でも、図書館で借りる本でも、オーディオブックでも。
 僕が興味があるのは、読書は人に必要とされているのか、という点です。

 そして、もし、読書が人に必要とされているのなら、なぜ、読書量が下がっているのか、という点です。

 「惜しまれて閉店する書店」のニュースを聞くと、本当に「惜しい」と思っている人が多いのなら、「もっと本を読みたい」と思っている人の割合が本当に多いのなら、現状を打開する方法があるのではないでしょうか? 

 日本の読書量を200%にして、読者のもっと読みたいという願望を叶え、その願望を現実のものとする助けをする出版業界が復古することができるのではないでしょうか?

 僕は、常に、合理的に考えたいと思っています。

 たとえば、ここで、「みんな、もっと本を読もう! みんながもっと本を読めば、世の中は良くなる!」と、無責任な扇動をしようとは思っていません。

 至極、合理的な手段を考えたいと思っています。

 また、あまりにポジティブなアプローチは、モチベーションの有無で成否が分かれます。そうなると、目標達成の実現可能性が極めて低くなります。

 日本の読書量を200%にする。

 この目標を達成するために、緻密に、かつ合理的に、あるいはネガティブとも思えるアプローチをして、実現可能性を担保したいと思っています。

 つまり、「みんな! 今の2倍、本を読もう!」と声高に唱えるのではなく、

「本を読まない理由」をことごとく明らかにして、その理由を徹底して潰して行きたいのです。

 そうです、たとえば、時間がない、本との出合いがない、などの「本を読まない理由」をすべて消すことができれば、逆説的に、読書をする機会が増え、読書量が増えることでしょう。

 このメディア「READING LIFE ver.2022.2.8 読書特集号」では、「本を読まない理由」を明確にしつつ、それに対してのカウンターを、特集という形で次々と繰り出そうと考えています。「本を読まない理由」をたとえば「100の特集」ですべて潰すことができれば、その特集ひとつひとつが問題解決法/ソリューションとなるでしょう。

 また、おそらく、テキスト・メディアだけでは、読書量200%の目標は達成できないと思い、この雑誌においては、“あらゆる手段”を講じることにいたしました。

 つまり、取材などのイベント、旅行や演劇なども、「雑誌」に包含してしまおうと思いました。また、結果として、これで読書量200%になります、という雑誌を出すというよりか、読者の皆様、天狼院読書クラブの皆様と試行錯誤を重ねながら、読書量200%の目標を達成したいと考えたので、制作をリアルタイム方式にし、公開することにしました。

 ゆえに、「インテグレート型マガジン」、つまりはメディア統合型マガジンと銘打つことにしました。

 もしかして、この雑誌/メディアは、永遠に完成しないのかもしれません。
 すくなくとも、読書量200%の目標を達成するまでは、天狼院読書クラブと天狼院書店が存在する限りは、続けて行きたいと考えています。

 読者の皆様におかれましては、末永くお付き合いいただければと思っております。

 まずは、次の項目、

 ▶︎ 緊急アンケート「月に何冊、本を読んでいますか?」〔随時更新制〕

 に、より多くの方に、ご協力いただければと思います。
 このアンケートで、人はどくれくらい本を読んでいるのか、どれくらい読みたいと思っているのか、なぜ本を読めないのかを明らかにし、問題を明確にしつつ、ソリューリョンを矢継ぎ早に打ち込んでいければと思っています。
 どうぞよろしくお願いします。

 

 

 

 


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