何をインプットして、書くのか。〜「コンテンツ弱者」のインプット方法〜《スタッフ平野の備忘録》
記事:平野謙治(チーム天狼院)
華奢で、貧弱なこと。
それから固くて、うねる、癖毛。
あとは一重で、目力が弱いこと。
それらは、思春期の頃から抱えていたコンプレックス。今も僕の中に残っている。
だけど同時に、「これも個性だな」なんて割り切れている部分も多くて。大人になるにつれて、年々薄まっているのも事実だと思う。
まあ、「見た目」に関しては。
社会人になっても消えないのは、能力や知識面での劣等感。むしろそれは、学生の頃より遥かに強くなっているとすら、感じる。
柔軟な発想や、アイデアが出せないこと。
気の利いたデザインが、出来ないこと。
難しい漢字が読めないこと。
挙げれば、キリがない。だけどその中でも、特に最近気になるのが……
……本を、読んでこなかったこと。
読書量が圧倒的に、足りていないこと、だ。
皆様ご存知の通り、天狼院は、本屋だ。
そして僕は、天狼院のスタッフである。
この方程式が導く答えは明らかで、つまるところ、僕は書店員だ。
本当に恥ずべきだし、出来ることなら口に出したくない。
隠せることなら、隠して生きていたかった。
だけどこれは、消えない事実。そうなんだ。僕は、まったくと言っていいほど、本に詳しくないんだ……。
スタッフ同士が、ある小説家の話で盛り上がっている。僕はそれを、横目で見ている。
その小説家の先生の名前は、聞いたことがある。
だけど、その人の代表作が何なのか、とか、
どんな作風の人なのか、とかは、まったくわからない。
だからいつも、黙ってキーボードを叩きづけている。
「知らない」ということが、バレるのも恥ずかしいから。ひっそりと、存在感を消している。
どこで差がついたのかな。そんな風に、過去をなぞることもある。
子供の頃は、絵本をよく読んでいた。今でも実家にたくさんあるし、どれもこれも、覚えている。
そうだ。本が嫌いなわけじゃない。苦手なわけじゃない。
読めば、面白いと思うし、ちゃんと最後まで読む。ほとんどの場合、「読んで良かった」という、感想を持つ。
それなのに、子供の頃から今まで、主体的に読書をしてこなかった。
多分他のことに、夢中だったのだと思う。友達と外で遊ぶことや、流行りのゲームや、面白いバラエティ番組など。「興味」のエネルギーは、そういった他のものばかりに、注がれていた。
「読み聞かせ」とか、「読書感想文」があった小学生の頃はまだしも。
中学生になってからは、「本を読む強制イベント」が、激減していった。
気づけば、本を読まないのが当たり前になってしまった自分が、そこにはいたんだ。
本当に恥ずかしい話、中学生になってから、大学を卒業するまでの10年間、自分の意思で読んだ本なんて、10冊もないと思う。
こうして天狼院のスタッフになるまで、「本を読まなければ」と思うこともなかった。
本を読んでいないことが、恥ずかしいことだ思うことはなかった。
今はようやく、少し読むようになったけれど。それでも月に一冊程度。
書店員としての偏差値は、最底辺に近い。
心から、恥ずかしいと思う。
強く感じるのは、当然だ。僕は書店員なのだから。
だけどこのコンプレックスをはじめて感じたのは、何も天狼院のスタッフになってからじゃない。
それよりもっと前にも、強く感じることがあった。
それは、まだ大学生だった頃のこと。
就職を控え、僕は自分が将来的に何をやりたいのかを考えていた。
いわゆる、自己分析というやつだ。
今までの人生を遡ってみる。興味があること。心動かされた瞬間。自分が好きだと、思うこと。
浮かんできた、ひとつの答え。
それは、文章を書くことだった。
昔から、文章を書くのが好きだった。言葉を使って、何かを表現することに、強く興味があった。
みんなが嫌いな作文課題も、楽しく取り組んでいた。高校生の頃から社会人になるまで、毎日日記を書いてみた。
技術なんか、何もない。だけど単純に、好きだと感じた「文章を書くこと」。
将来、仕事で関われたら。そう思ったのは、一度や、二度じゃない。
だけど僕は、新卒で他の道を選んだ。
「文章を書くこと」に、挑むことすらせずに。
どうせ、無理だと思ってしまったんだ。
ろくに読書をしてこなかった今の自分が、文章を書くことなんて、出来ると思わなかった。
今から一生懸命本を読んだとして、子供の頃からずっと読書してきた奴には追いつけない。インプットが、圧倒的に足りていない。
僕が進みたいと、思った道。そこには関所があって、僕はその通行手形を持っていないかのような。
そんな風に、感じてしまっていたんだ。
だから自分には無理だと。挑むこともせずに、そう結論づけた。
足りていないのが、読書だけだったらまだ良かったのかもしれない。
だけど僕は、映画も観ない。映画館に行くのは、せいぜい年に1回。レンタルもしないし、Netflixにも入っていない。
話題のドラマやアニメも、観ない。
『半沢直樹』も、『家政婦のミタ』も、観てなかった。最近で言うと、『陸王』とか?
何がヒットしてるのかすら、よくわかっていない。
紛れもない、「圧倒的コンテンツ弱者」。
僕が文章を、「書くこと」を、諦めるのなんて、それだけでもう十分な理由に思えたんだ。
だけど一般企業に就職し、「書くこと」とは関係のない仕事をすること約1年。
そこにはやっぱり、「書くこと」を諦めきれていない自分がいた。
なんとなく仕事をやっていても、心が踊らない日々。
自分を変えてくれる何かはないのかと、いつも探していた。
そんな中、友人が教えてくれたのが、天狼院のライティング・ゼミだった。
「人生を変える」という、怪しいフレーズ。疑わなかったわけではない。
だけど煽り文には、書いてあった。「本を読まない人でも大丈夫!」、と。
心を動かされたのは、確かだった。
結局今まで、一度も挑んでこなかった。
このまま何もしなかったら、後悔する。
そう思った僕は、すぐに申し込みの手続きをした。
そうして僕の、書く日々は始まった。
課されたのは、毎週2000文字のライティング。
振り落とされないように、とにかくガムシャラに挑んだ。書き続けた。その中で、ようやく気付いた。
インプットが、足りていないと感じたこと。
あれは、紛れもない、嘘だった。
本を読んでない。映画も観ていない。あるいは、ドラマやアニメも。
だから、なんだって言うんだ。だけどインプットなら、いくらでもしてきたはずだった。
ただ、生きている。
それだけで、どれだけ多くのことを見てきたのか。
聴いてきたのか。感じてきたのか。
あの日観た、美しい景色。
親しい友人と、話した内容。
心動かされた、あの日の出来事。
五感で感じた、そのすべてが、紛れもないインプットなのだから。
たったの、20年ちょっと。人生の先輩方に比べれば、短いかもしれない。
ただそれでも、「書く」ことは、「書きたい」ことは、探してみればいくらでもあった。
読書量は、多い方がいい。映画だってなんだって、コンテンツは浴びておいた方がいい。
それは、そうだ。その事実は、決して動かない。
だけど読書をしてこなかった間に、エネルギーを注いできたことは。
映画を観ていない間に、夢中になってきたことは。
ドラマがやっている間に、費やしたその時間は。
決して無駄なんかでは、ないはずだ。
書いてやればいい。
自分の人生を、すべて絞り出すようにして。武器を、探せばいい。
コンテンツ弱者だとしても、戦えないことはない。
僕が送ってきた、この人生。
これは僕にしか、体験できないものなのだから。
僕にしか、あなたにしか、書けない文章が、必ずあるはずなんだ。
だから、言いたい。
「本を読まないから」とか、
「インプットが足りてないから」とか、
「面白い経験がないから」とか、
そんな理由で、「文章を書いてみたい」という気持ちに、蓋をしている人がいるのなら。
「大丈夫だよ」って。
「心配することはないよ」って。
言ってあげたい。背中を押してあげたい。
そりゃ知識だってなんだって、あった方が良いと思う。それは事実だ。
だけど書いてからでも、遅くない。書いていく中で、自分に足りないインプットが何なのか、わかるはずだから。
必要だと思ってするインプットの方が、きっと効果的だから。
いつだってそう。はじめの一歩は、怖いものだ。
だけど勇気を出して、踏み出してみて欲しい。
二歩目、三歩目は、するっと行くはずだから。
ライティング・ゼミに出会ったあの日から、今もこうして書き続けている僕が保証する。
少しでも書きたいと思うなら、書いてみよう。
あなたにしか書けない文章を、その手で。
◽︎平野謙治(チーム天狼院)
東京天狼院スタッフ。
1995年生まれ25歳。千葉県出身。
早稲田大学卒業後、広告会社に入社。2年目に退職し、2019年7月から天狼院スタッフに転身。
2019年2月開講のライティング・ゼミを受講。
青年の悩みや憂いを主題とし、16週間で15作品がメディアグランプリに掲載される。
同年6月から、 READING LIFE編集部ライターズ倶楽部所属。
初回投稿作品『退屈という毒に対する特効薬』で、週刊READING LIFEデビューを果たす。
メディアグランプリ33rd Season総合優勝。
『なんとなく大人になってしまった、何もない僕たちへ。』など、3作品でメディアグランプリ週間1位を獲得。
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