13歳女子の一言に気付かされた年齢の呪縛
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記事:森脇 千晴(ライティング・ゼミ平日コース)
「すごいタイトルの本読んでるのね」
鏡の前に座っている私の手元を見ながら、美容師の女性はそう言った。
「もう29歳、まだ29歳」
ちょっとややこしく複雑なオンナ心が描かれている白石公子のエッセイだ。
タイトルに惹かれて購入したこの本を美容室の鏡の前で読んでいるのは高校生の私。
若干17歳。
高校生の頃から早く30歳になりたかった。
私の目にうつる30代の女性たちは、みんな魅力的だった。
実在している30代ではない。
ドラマの中にいた女性たちだ。
山口智子と木村拓哉主演の「ロングバケーション」。
略して「ロンバケ」。
高校生のとき夢中になって見ていたドラマだ。
結婚式当日に婚約者に逃げられた、ちょっとガサツなアラサー女性「南」を山口智子が好演した。
自由で豪快なアネゴ肌の南は、余分な力が入っていないカッコいい30代の女性として私の目に眩しくうつった。
大学生の時には、ドラマ「恋のチカラ」で深津絵里が演じた30歳の橙子に惹かれた。
仕事にも恋愛にも夢を描くのをやめて、「まあ、こんなもんか」と現実に折り合いをつけながら生きていた主人公が、ひょんなことから、会社の立ちあげに携わる。
「お前には酒しか楽しみがないからな」などと悪態をつかれたり、年齢を理由にお見合いを断られたりしながらも、とにかく目の前のことに一生懸命な姿に元気をもらった。
10代の自分には自由がなかった。
20代は「自分は無知で無力だ」と思い込み、あらゆることに真面目で、何かにつけて深刻に悩んでいた。
30代になればドラマの中で見た彼女たちのように、そういったものから解放されるのだろうか? そう思い続けていた。
引き出しの中に「開き直り」と「自虐」というアイテムが入ったせいだろうか。
実際、30代はなんだか随分楽になった。
そして常に「素敵だ」と思える年上の女性たちがいてくれるせいだろうか。
38歳になった今も年齢を重ねることに抵抗感がない。
「Age is just a number」
ワーキングホリデーでオーストラリアで生活していた時、現地の男性がこんな風に言っていた。
「年齢はただの数字だよ」
……年齢はただの数字。
そう、私もそう思っている。
だが、皮肉にも年齢を重ねれば重ねるほどに「年齢の呪縛」を感じることが増えてきた。
昨年、1人の女子中学生が私に年齢を尋ねてきた。
中学生は年齢を聞くのが好きだ。
「えーいくつに見える?」「当ててみて」「もー秘密っ!」
残念ながら、この手のリアクションは私には皆無である。
「38歳やで」
真っすぐにそう答えた。
……やや間があって、彼女は続けてこう聞いてきた。
「結婚してるの?」
「してないよ」と私。
すると彼女はこう言い放ったのである。
「終わってんなあ!!」
年をとることに抵抗はない。
年齢はただの数字。
そう思っていたはずなのに、若干13歳の彼女の1言に私は凍り付いた。
何に、そんなに引っかかったのだろう?
あの時、自分は38歳で独身だけどけっこう幸せだと言おうとしたが、やめておいた。
そもそも何も考えずポンと口から出てきた中学生の1言に、そこまでマジになるのもどうかと思ったが……このモヤモヤを紐解くこと数日。
「この前、こんなこと言われて、ちょっとショックだったわー」
親友とご飯を食べながら、この日の出来事を話す。
彼女の隣に座っている小学3年生の娘にも尋ねてみることにした。
小さい時から積極的に大人の輪の中に入れられて育ってきた彼女の精神年齢は高い。
「38歳はおばさんで、結婚していないなんて終わっている……って思う?」
「たしかにおばさんやな」と正直に答える小学3年生。
その後に「……ていうか結婚したいの??」と聞かれた。
あなた全くそんな風じゃなかったじゃないの。
突然何言ってるのよ。 と言わんばかりに。
ああ、そうか。 分かった。
「38歳はおばさんで、結婚していないなんて終わっている」
この決めつけが悲しかったのだ。
中学生よ……ジャッジメントは時に人を傷つけるんだ。
数年前に大ヒットしたドラマ「逃げるが恥だが役に立つ」。
石田ゆり子が演じた49歳のキャリアウーマン、ゆりちゃんのセリフが蘇る。
「自分がバカにしていた年齢に、あなたもいつかなる。それってけっこう辛いんじゃないかしら?」
「年齢」という呪いを自分自身にかけないで。 ゆりちゃんはこう言っていたなあ。
「歳を重ねるのは楽しい」と未来ある子どもたちには伝えたい。
ひとつずつ歳を重ねるということは「生きている」という証だ。
余計なジャッジメントを抜きにして、あなたが何を選択するかということを大事にして欲しい。
働き方も恋愛も結婚も、その形を決めるのはあなた。
記事を書きながら、これって全部自分に対して言いたいことだということに気付く(笑)
もちろん楽しいことばかりではないが、歳を重ねることを喜べる大人の背中を沢山見せていけたなら、未来はきっと、もっと明るい。
大人になりきれていない私だが、少なからずそんな望みを持ち続けている。
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