20年越しに手に入れた、「Fiat500」(通称:チンクエチェント)が最高だった!
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記事:ともとも(ライティング・ゼミ12月コース)
「この車ほしい! でも買えない……」
20年ほど前にFiat500(通称:チンクエチェント)と出会ってから、何度心の中で思っただろうか。
こぶりで丸いフォルム、かわいい丸目のライト、おしゃれなインテリア。そして大人気のアニメ映画「ルパン三世 カリオストロの城」で、ルパンの愛車としても有名な、旧Fiat500の新型モデルである。それはレトロな雰囲気も残る、とっても素敵な車だった。
しかも、その走りはまるで獰猛な小動物のようである。足回りは硬めな乗り心地なので、段差を拾って車体が上下する。またエンジンの独特のビート音と、「頑張って走っている」感が、全力疾走しているアライグマのように思えるのだ。
私は当時、首都圏から長野県に移住したばかりだった。首都圏に住んでいたころは、車がなくても生活に不便さはなく、車に興味もなかった。しかし長野では公共交通機関が整っておらず、車がなければ生活ができない。夫婦で共働きだったため、車は一人一台ずつ必要なのである。
仕方なく車を探し始めたが、どの車を見ても大差がないように感じた。もう車なんて乗れればなんでもいいや。適当な中古車を買おうか、とあきらめていたその時に、Fiat500に出会った。そのイタリア車らしいデザインに、心が揺さぶられたのだ。それは自分から「ほしい」と思った初めての車だった。
ところがその当時の私は、子育て真っ最中。後部座席にはチャイルドシートを載せなくてはならず、今後増えていくであろう荷物のことも考える必要があった。
二人の息子は、まだどちらも幼稚園児である。フィアットは4人乗りなので、当然後部座席にチャイルドシートを2つ載せることはできる。
しかし2ドア車のため(しかも後部座席はかなりせまい)、車で出かける度に、小さな子供を抱きかかえながら助手席を前に倒し、子供を一人ずつシートに乗せることを考えると、腰痛持ちの私にはハードルが高すぎるし、スペースの面でも無理……
仕方なくFiat500はあきらめ、何の魅力も感じない中古のファミリーカーに乗って生活を送っていた。まったく心がときめかない、まるで無味無臭の水のような、個性のない車であった。しかし、家族の導線はよく考えられていたように思う。多分小さい子供がいる家庭には、最適な車だったのだろう。
しかし運転していると、たまに対向車でFiat500とすれ違うことがあり、うらやましい気持ちでいっぱいになったものだ。
息子たちが小学生になると、地元のスポーツ少年団でサッカーをはじめた。小さかった体も少し大きくなり、車内がせまく感じられるようになった。再び車を買い替える機会がやってきたのだ。
しかしタケノコのようにどんどん背が伸びる息子たちを乗せるには、Fiat500は向いていないことはよく分かっていた。なので、一回り大きな中古のファミリーカーを選択するしかなかった。もう少し、もう少し我慢、まだその時ではない、とため息をつきながらあきらめた記憶がある。
やがて息子の成長とともに、ライフスタイルも変化した。息子たちは大学生になると同時に家を出た。しかし学費に加え下宿代を捻出するために、私たち夫婦はかなり切り詰めた生活をしていた。車を買い替えることはできなかったのである。とにかく忍耐と献身。大学を卒業するまで、あと数年だ……
そしてとうとう、子育てにも終わりを告げる日がやってきた。息子たちは大学を卒業し、晴れて社会人となったのである!
その日の夜、私たち夫婦はとても深い達成感に包まれた。お互いに本当によく子育てがんばったね! と称えあい、「パーン!」と夫婦でハイタッチしたのを覚えている。心地よい手のひらの痛みで、肩の荷が下りた気がした。
その数日後……
何気なくスマホをいじっていると、Fiat500のニュースが飛び込んできた。
なんと、「500S Manuale」(チンクエチェントエス・マヌアーレ)という車がリリースされたというのだ。マヌアーレとは、マニュアルトランスミッションのことである。
「マニュアル車? 最高じゃない!!」
子育てを終え、「ご褒美に何が欲しい?」と夫に聞かれた私は、迷わず「Fiat500S」と答えた。今こそ憧れ続けたこの車を買うチャンスではないか!
そしてその週末にとっととディーラーに行き、残クレで購入してしまった。
長い間憧れ続けて、やっと手に入れた私の「Fiat500S」に、キーを差し込んで初めてエンジンをかけると、「ドコドコ」という音がした。
この「ドコドコ」音は、ツインエアと呼ばれる直列2気筒エンジンから発している。振動や音、そこから発生するパワーが、早く出発しようと私を誘ってくるのである。何てかわいいやつだろう!
私はこのエンジンの独特なフィーリングをとても気に入った。
エンジン音がうなるのを聞きながらシフトアップしていくと、ターボエンジンならではのスムーズな加速に大興奮。またコーナリングでは、粘るように車体が道路に吸い付き、そして鼻先がクルリとコーナー出口に向く。
意のままに操れるマニュアル車は、やっぱり最高に楽しい!
私ってこんなに車が好きだったのかと、自分でも驚いた。この車と出会ってから、手に入れるまでに20年かかったが、子育てが終わって自分に使えるお金ができた今こそが、最高のタイミングだったのだ。今ならそう思える。
今週末には、夫に子育てのご褒美は何がほしいか聞いてみよう。そしてお買い物もかねて、夫婦でドライブに出かけるつもりだ。
***
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